見出し画像

独断的音楽ビジネス予測2020:令和二年は、MusicTech元年宣言!

 新年あけましておめでとうございます。2012年から毎年元旦にBlogで「独断的音楽ビジネス予測」を書いてきました。偉そうなことを言うつもりはなくて、むしろ自分の微力さを恥じ入る気持でいるのですが、翌年読み直すと大体当たっているなと言える内容だったと思います。文末にリンクをまとめておきましたんで、興味のある方は、お屠蘇気分で日本の音楽ビジネス業界の変遷と、僕の苛立ちや戦いぶりをご覧になって下さい。僕の問題意識が一貫していることは、御理解いただけるかと思います。

 アーティストマネージメントビジネスを出自とし、自分が育った音楽業界が時代に即したデジタル・トランスフォーメーション(最近DXと略すようになったようですね)遅れていく状況。陰に日向にブレーキを踏むレコード会社の経営陣や、海外市場へのノウハウを持たない自分たちへの苛立ち、音楽やアーティストに愛情を持ち、高いクオリティとレベルの高いユーザーを持つ日本の音楽シーンが、ゆっくり沈んでいくことに対し憤りと焦り、何かやれることは無いかと行動してきました。

 音楽ビジネスに関わる人をユーザーとアーティストを繋ぐ「ニューミドルマン」と位置づけ、「ニューミドルマン養成講座」とその後のニューミドルマンコミュニティの活動も続けています。これまで10冊出している書籍も、憚りながら少しでもデジタル化に向けての啓蒙ができばと思って書きました。「メジャーデビュー」の価値と在り方が変わって、サウンドプロデューサー育成の場が無くなったことを補完するべく、プロ作曲家育成のプログラム「山口ゼミ」を7年前に始めて、400人超の受講してくれて、スタッフや劇伴作曲家含めて、約150人の音楽の「プロ」を生み出せました。今後は日本人作曲家と海外、特にアジアの作曲家と共創(コーライティング)することで、日本人のクリエイティビティをグローバルに活かせる場を作っていこうと考え、昨年9月には台北でのソングライティングキャンプを成功させることができました。

 音楽という限定が既に無意味で、これからの日本のエンターテインメント業界を活性化するのは、スタートアップによるテクノロジー活用しかないという趣旨に吉本興業の大崎会長からご賛同いただいて、エンターテックを旗頭にした新規事業と起業家の育成をテーマとする「スタートアップスタジオ」として株式会社VERSUSという会社を2018年11月に設立することができました。
 このように戦いを続けている僕なりに、日本の音楽業界の状況を簡単に、「独断的」総括させてください。まずは、現状認識からまとめます。

・デジタルサービス普及は海外に5〜6年遅れている

 既存の生態系の中心にいたレコード会社が、ブレーキを踏み続けてきたことで、日本のデジタル化は、欧米と比べて6年ほど遅れました。世界一のサービスSpotifyを見ればわかりやすいですね。2008年にスウェーデンで始まった世界の音楽体験を変えたサービスは、欧州での成功をもって、2011年にアメリカ進出しました。日本では実質的には2017年からです。アメリカより6年遅いことになりますが、実際にはSpotifyは2012年にはiTunes の立ち上げに関わった野本晶さんをスタッフに加え、日本での事業準備を始めています。僕もサービス開始に向けて応援していましたが、丁寧な品揃えにこだわる本社の方針でサービス開始が遅れました。もちろん日本の大手レーベルが許諾をしなかったからです。そうこうしている内に「海賊版すらプレスしない」と言われ違法天国だった中国で政府の方針変更を契機に、音楽ストリーミングサービスを広まっています。日本の音楽市場2000億円をデジタル配信売上だけで中国が上回るのは時間の問題だと言われています。

画像1


 問題は、市場規模だけではありません。フリーミアムモデルでプレイリストなどで人から人に広がっていくこのサービスは新しい音楽やアーティストを広めるメディア的な機能も持っています。売上の5割以上はアーティスト側に還元するサービスでもあります。SNSを使って音楽が広がっていく仕組みや新しいサービスが日本からは生まれてこないということです、日本のストリーミングサービスが普及するようになっても、関連サービスはすべて海外製になってしまうのです。僕が危機感を持つ大きな理由でもあります。

・パッケージ流通の幹としたビジネス生態系は終焉を迎えている   

 もう随分前から日本の音楽パッケー市場は世界一です。再販制度(レーベルが定めた定価で売れる)、特約店制度(店の緊密な関係)による高い利益率で大きな収益を上げてきましが、今更、言うまでもなく、長期低落傾向は変わりようが有りません。今や音楽を聴くためだけに、CDを買う人は稀有です。AKBグループの握手券による複数枚購入促進は社会問題になりましたが、いずれにしてもパッケージ購入は、ユーザーにとっては「アーティストとの関係性の証」「ライブやイベントへの参加の記念品」などの意味を持ちます。Tシャツを買うかCDを買うかというファンに、いかに両方を買ってもらうかがアーティストの工夫が必要な時代です。配信事業者へのアグリゲーションもTuneCoreなど様々なサービスが広まる中、レコード会社の役割は限定的になっています。ついでにいうと、レンタルCD店は、もういつ終わってもおかしくないですね。 パッケージからストリーミングという世界的な音楽ビジネス生態系の変化による影響はたくさんありますが、一例をあげておきましょう。
 レコード会社の売上の9割は1年以内に発売された「新譜」でした。以前にレコーディングされた作品を「新譜」にするために、ベスト盤やコンピレーションアルバムが編纂されてきました。ストリーミングが音楽聴取の中心になると、リリース年は大幅に意味が薄まります。リスナーにとっては、出会った時がリリースですね。プレイリストは個人でも自由に作られますので、コンピレーションアルバムが発売されることはほとんど無くなるでしょう。そこでおきるのは、売上における旧譜比率の増加です。まだ安定的なデータは無く、海外では新譜の基準が3年以内だったりするので、判断できないのですが、個人的には5割近くまで旧譜比率が上がる気がしています。これは、良い楽曲は長ーくお金になるとも言えますし、投資への回収に時間がかかるようになるという見方もできます。

・日本の市場は成熟していて、成長のエンジンは訪日外国人に限られる  

 日本は人口が減り始めていて、少子高齢化が進んでいます。音楽ビジネスに限らないのですが、日本市場だけを見ていても大きな成長は望めません。これまで日本の音楽業界は、宗教や言葉の壁もない良質で効率の良い国内市場で、十分に潤っていました。地方も含めたコンサートシステムやラジオ局、CD店など含めて、音楽オリエンテッドで洗練されたビジネスモデルが確立していましたが、前述のパッケージビシネス生態系の崩壊とともに綻びを見せています。市場をマクロとして見れば、訪日外国人市場以外に成長領域はありません。全国チェーンの大規模CDショップというのも日本以外にはほとんど消滅した絶滅危惧種な存在です。CD店のレジ横には、CDプレイヤーを販売して、日本観光のお土産は日本のポップス、アニソンのCDにするのは重要でしょう。2020年は4000万人になり、その後も増加が期待されているインバウンドは、コンサートも含めて音楽産業にとっても重要な市場です。

・日本の「文化力」は魅力的で、成長する海外市場でチャンスがある

 クールジャパンという言葉には忌避感を持つ人も少なくないようですが、良質で多様性を許容する日本のユーザーに育てられた日本のポップカルチャーが世界中にファンを持っているのは事実です。それぞれの国でメインストリームではなく、サブカルチャー的な存在ですが、国を挙げた「選択と集中で」積極的な輸出戦略をとってきたK-POPには水を開けられてしまっていますが、K-POPは日本のポップミュージックをお手本に始まっています。「ルーツは同じようなものだから」という鷹揚さを持ちながら、PR戦略なので真似すべきところは臆面もなく真似して、世界に広めることに挑戦していくべきです。

・令和2年はMusicTech元年だ!

 そこで僕が2020年元旦に提唱したいのは「MusicTech元年」です。日本は
ストリーミング関連サービスの遅れについては前述しました。日本が持つ文化力とでも呼ぶべき底力は、創造性(Creativity)にあります。音楽表現を、音楽消費体験を、データを活かしたマーケティングに、新たなテクノロジーを活用して、音楽ビジネス生態系の再構築を行うことが時代の要請です。テクノロジーの進化に伴う環境変化であらゆる産業がアップデートが求められている状況を「〜TECH」と表現しますが、MusicTechは世界の趨勢でもあります。既存の音楽業界が(6年遅れで!)デジタル化に動き始めた今こそ、MusicTechが求められているのです。
 昨年11月からMUSICMAN-NETでMusicTechに関する連載を始めました。この連載は全5回を予定していて(原稿遅れていて編集部の方ごめんなさい><)人工知能、ビッグデータ分析、に続いて、今後は、「xR(AR/VR/MR)は音楽表現をどう変えるか」「5Gは音楽視聴体験をどう変えるか」「スタートアップは音楽業界をどう変えるか」と続いていきますので、お楽しみに。いろんな方との議論のきっかけになれば嬉しいです。

画像2

第一回:人工知能は作曲をどう変えるか
第二回:データ分析は音楽マーケティングをどう変えるか

 そして、新しい音楽サービスを始めたいと思っている人は、是非、スタートアップスタジオVERSUSのインキュベーションプログラムに参加して下さい。

画像3



<これまでの独断的音楽ビジネス予測>                                    

独断的音楽ビジネス予測〜2012年は目覚ましい変化なし。大変革への準備の年〜
独断的音楽ビジネス予測2013 〜音楽とITの不幸な歴史が終わり、構造変化が始まる年に〜
独断的音楽ビジネス予測2014〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜
独断的音楽ビジネス予測2015〜シフトチェンジへ待ったなし〜
独断的音楽ビジネス予測2016〜周回遅れをショートカットして世界のトップに〜
独断的音楽ビジネス予測2017〜もう流れは決まった。大変革の2021年に備えよう〜
独断的音楽ビジネス予測2018〜犬は吠えてもデジタルは進む、メゲずに吠えるぜ!
独断的音楽ビジネス予測2019:やっと動き始めた日本デジタル音楽シーン。アジア市場で数値目標を!


モチベーションあがります(^_-)