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【掌編小説】モブ男のつぶやき

僕はいわゆる『モブ男(お)』だ。
モブ男とはつまり《群衆や大衆の中の一人 。大勢の中に紛れて目立たない人》だ。 何の取り柄もない。だから目立つこともない。下手したら存在すらも忘れられているような人間だ。
 
だから、例えば昨日、いつものようにひどく混んでいる電車の中で、何かモジモジしていた女子高生に違和感を感じて、満員の人の間を嫌な顔をされつつも移動し、チカンにあってたことをつきとめ、その不届き者の手を思い切りつねってやっても誰も気付かない。

例えば、僕は少しポッチャリ気味なので、申し訳程度に夜中にランニングをしているのだが、その最中に挙動不審な男を見かけ、そいつがマンション一階のベランダ辺りでうろうろしてたので、そっと電柱に身を隠し(はみ出ちゃうけど)、ソイツがベランダに干してあった下着を盗むのを確認した上で通報したとしても、誰にも誉められたりしない。
 
例えば、本屋でやたらとキョロキョロしたり、ソワソワした態度で回りを確認したりして、明らかに万引きしそうな中学生を止めたとしても、誰かに称賛されることもない。

そもそも、日々普通に暮らしているなかで、SNSでもやってない限り、注目されることなどない。 主人公と認識しているのは自分自身しかいないのだ。

でもそれでいい。 それが当たり前なのだ。

 ……なぜって?
 
それは僕が、ただの『モブ男』だからさ。

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