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或るFIRE支援FPの葛藤

今年は4年に一度のアメリカ大統領選挙の年です。日本でもそれに関連する報道が多くなってきました。

その中でもトランプ前大統領への一定層の熱烈な支持に関しては、疑問に感じる人も多いようです。

しかし私自身はトランプ人気を理解できる気がします。

私が日本の商社員として米国南部で勤務開始したのはまだ30歳代前半でもう四半世紀程度前になりますが、その担当業務の一つは米国の中小化学品問屋に、自ら中南米等で買い付けてきた原料を販売することでした。

アメリカの田舎にて、自分が生まれた州から生涯一度も出たことがないような相手への売り込みでしたので、こちらも米国人営業を新規採用して販売戦略を立てたのですが、彼との顧客訪問前の打ち合わせ時に渡された「世界地図」がこれでした。

「冗談ではなく、これから会いに行くお客が理解している世界はこの地図程度という認識をもって接してほしい」と彼は言いました。

そして実際にその後彼と全米中を回って感じたことは、東海岸や西海岸の都市部を除いて多くの人々は地元社会以外の世界にはほとんど興味を持たず、内向きに暮らしているということでした。

出張先の空港でレンタカーを借りて取引先に向かう途中、車のラジオからは「  I don't worry about things that I can't change.(「自分に変えられないことなんか関係ないさ)」と歌う当時のアメリカ若者流ミニマリストのカントリーソングが流れていました。

Clay Walker - Live Until I Die (Official Music Video) - Bing video

(歌詞:
Clay Walker – Live Until I Die Lyrics | Genius Lyrics

トランプ大統領が誕生した2016年大統領選挙時も私はアメリカで仕事をしていました。

2010年前後から本格的商業化が可能となった米国中西部シェール層をベースとした天然ガスはRust Belt(ラストベルト=錆びついた街)と呼ばれていた同地の産業的復権の可能性を高めました。

日本からの駐在員として事業投資の機会がないかを探るために現地での多くの潜在的パートナーと面談しましたが、そこでは地球温暖化問題よりも「Make America Great Again」と米国製造業復活を連呼するトランプ候補が支持されていました。

さて、このように内向きに「世界のことよりアメリカ、アメリカ全体のことよりも先ずは地元、地元のことよりも個人」という考えを私たちが否定することができるのかと言えば、それは違うと思います。

もう少し正確に言えば、世界中どこでも人々の一義的な関心事が、自分の生活圏での安定と安心であることは普遍的な事実でしょう。

「マイルドヤンキー」とは日本にて都会での生活や就職に憧れることもなく、また旺盛な消費生活を送ることもなく、地元で家族や友人を大切にしながら生きている人々のことを指しますが、その人生観は否定されるべきものではありません。

一方で円安の影響も大きく、日本からの海外留学生数がコロナ禍からの回復後に他国と比較しても激減している状況、日本国内での年間の起業件数も他先進国と比較してかなり低い水準にあることには一定の憂いを覚えます。

内向きで保守的に小さくまとまる日本はどこに向かっていくのでしょうか。

追記:

実はここからが今回記事の本題です。このブログマガジン表題は「或る独立FPの視点」ですが、その観点からです。

FP相談業務の基本形は顧客から聴取した情報を分析して、将来に渡るキャッシュフロー表を作成し「お金の問題に悩むことが少ないようにするライフプランの設計を援助すること」です。

リタイアメントを意識し始めた年恰好の方であればこれだけで良いのですが、若い世代の方から相談を受けて「小さくまとまった生涯キャッシュフロー表」作成のお手伝いをすると違和感を覚えることがあります。

それは心身が健康である限り、相談者自身の稼ぐ力である「人的資本」の方が彼らが所有する「金融資本」よりも大きい世代は、多少の不確実性があろうともその人的資本をもっと活かす方向に賭けてもよいのではと思ってしまうからです。

これはもちろんその世代の金融資産運用や個別株投資研究などの努力を否定するものではありません。

ただ、若くして自分の将来設計を意識するような高い意識を持つ若年層であればこそ、FP作成キャッシュフロー表ごときには落とし込めないような定性的冒険要素をもっと大切にしても良いのではないかと思ってしまうのです。

彼らに対して「現在の優先順位は自身の人的資本の活用であるべきで金融資産運用はあくまでおまけ」と言うことに対しては、FIRE実行支援FPとして自己否定的かつ僭越と理解していますが、何か葛藤を感じてしまいます。


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