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⑧「寸劇」とは。

"開かれた世界 多様性の時代 変わろうとしている未来"

こんな文句で始まる「寸劇」は、アルバムの最後を飾る曲で、正真正銘の弾き語りだ。
なのでピアノをタッチする音も入ってたりする。

元々は今年の6月辺りに書いた。
(6月に曲を書くことが多いのは、きっと梅雨で外出が億劫になるせいだろう。後、偏頭痛を紛らわすためでもある。)

この頃、とある衝撃的なニュースに接し、なんとも言えない気持ちが渦巻いた。
"多様性"という言葉はあちこちに散乱しているけれど、相変わらず世界は寛容ではなく、取り溢された因子に対して優しくない。風当たりが強い。

ちょうど何年か前に朝井リョウ先生の「正欲」という小説を読んだことも手伝って、形だけの"多様性"には飽き飽きしていた。

一つ言いたいのは、言葉自体に罪はない。
いつだって、言葉を扱う人間側の未熟さや不器用さが崇高な理念を廃らせてしまうのである。

「自分と違う側の人間を認めなければ」
「多様性万歳!こちら側に迎え入れましょう」
そんな風に、高飛車な価値観に思えてならない事象が多過ぎて辟易することがある。

「ただそこにいてよ」
「ほっといてよ。こっちもそうするから」
「できれば笑っててね、俺も笑うからさ」
このぐらいの距離感が僕は好ましい。
尊重とは、違いを認めること。
けれど、それより先に「よろしくね」ぐらいのノリで仲良くなりたい。話はそれからだ。

かつて、「"closet"」という曲を書いたことがある。
いつもMVを作ってくれる亜美ちゃんと初めて組んだ作品だ。
とある少年の片想いを描いた曲なのだが、僕にとっては他の曲と同じ感覚で"深い意味はなく、ある風景が浮かび書いた類"の歌。
しかし、心を閉ざすという意味でつけた"closet"というタイトル、こんな意味もあるらしい。

【クローゼットは、ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア、クエスチョニング、インターセックスの人々で自身の性的指向や性同一性を公表していない状態を暗喩する言葉である。】

何気なく、タイトル被りはないかしら?とネットで調べてハッとした記憶がある。

「片想い」は同性も異性も同じだ。
だが、越えなくてはならないハードルの質は違うような気がする。
あくまで僕の主観だが。

https://youtu.be/nu91E9fAs6g?si=QmIp2Dqu6yCpc126

そしてまた「Engage Ring」という曲もかつて書いた。
こちらはまだデモ音源しか存在していない。
(来年中には出来るはず)

学生時代に愛し合った人の結婚式に、友人代表として参列する青年の歌だ。
「誰にも云えない 二人の青春の秘密よ」
「僕だけが知ってる 彼の涙の本当の理由を」
実体験ではないが、雨の日にタクシー乗り場で号泣していた青年を眺めているうちに頭の中で妄想して書いた思い出がある。

愛し合えたとしてもそれはゴールではない。
どんな道を選ぶのかは双方の自由。
そしてそれすら尊重することも多様性。
残酷で、厚かましくて、でもすがり付きたくなっちゃう言葉。
人間は、やっぱり弱い。

・・・・・・

本来書いていた「寸劇」についての原稿はもっと要点をまとめていたし、こんなに冗長ではなかった。
しかし、なんとなく今の気持ちを載せたかった。

さて。
「寸劇」という曲に戻ろう。

"多様性の時代"の癖に、いやだからこそ線引きが明確になって取り残されちゃう人が一定数いると思う。
それを誰かは「考えが甘い」とか「苦労が足りない」と言う。無理解な奴が傷つけて素通りする。
なんだか「ハロー・ストレンジャー」の歌詞みたい。

恵まれた環境で育ったとしても、たくさん愛情を受けて大人になったとしても、人はどこで躓くか分からないし人生なんてそんなもんだろうと思う。
助けられる側にも助ける側にもなる。
それが生きるということ。

たとえば目の前に困っている人がいて、余力があれば助ければいいし、なければ公的機関に助けを求めるなどの方法がある。
懸命に寄り添い過ぎて、自分自身が消耗してしまうことがあるので、自分ファーストで生きることが前提だ。
それを冷たいこととは言えないし、言わせない。

他人の悲しみを自分事にして消費したくないの。
だから一定の距離で見つめていたいの。

だけど、もし甥っ子や姪っ子が転んだらすぐに抱き抱えて泣き止ませたいし、処置もしたい。
それが愛だと思ってる。
それぞれの距離感。それぞれの愛し方。
または関わり方。

・・・・・・

このアルバムは、きっと「6.15」で終わった方が歌詞のメッセージ性から考えると収まりが良い。
けれど、どうしても「寸劇」で終わりたかった。

「今年しか出せない!」
そんな思いが6分半の即興劇を可能にしてくれたのである。

・・・・・・

山田喜大 1st album 『I Rise』
1.変化の兆し
2020、渦中
3.25
4.斜陽
5.ハロー・ストレンジャー
6.15
7.寸劇


I Rise by 山田喜大アルバム • 2023年 • 7曲 • 31分linkco.re

2023年11月9日〜
各種サブスクリプションサービスにて配信中


『変化の兆し』Music Video

https://youtu.be/AUOXiSS40w8?si=OtEcpKXTrQGOByZk

Director 杉澤亜美


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