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後悔はなぜ残り続けるのか?

「そういや今年って節分いつ?8月?」

「いゃ真夏。今年とかないっす。だいたい2月3日です」

「ほーん、なんか年取るとマジでイベントごとに興味なくなるのよ。プレゼントもらえるわけじゃあるまいし」

「年の数だけ豆もらえますよ」

「いらねーよ、誰が喜ぶんだよ豆もらって」

「先生、恵方巻とかは食べません?」

「うーんどうだろ。食べるの?」

「まぁ一応、お母さんが作るんで」

「なんか今朝テレビでやってたけど今年の恵方は北北南らしいよ」

「あ、またテキトーなこと言った。ないですそんなの。そういや明日節分なのに、今日給食に豆出なかったですね」

「確かに!豆が出て、あ節分か!ってなるのにね」

「別にテンションは上がらないですけどね。ならケーキ出してくれって思います」

「あれだよ、時代だよ」

「時代?」

「そう時代。鬼は外、福は内っていう鬼と福を分けようって考え方がそもそも時代にそぐわないって教育委員会が判断したんだよ。マイノリティへの差別を助長するからやめようって。絶対そうだよ」

「それはやりすぎです。でも時代なんですかね、インクレディブルというか」

「おそらくインクルーシブだね、インクレディブルでもあるんだろうけど。とりあえず子どもが横文字並べ始めるのも時代だよね」

「あ、先生5日豆出ます!しかも8種類色んな豆が入ってるって!多様性ですね!」

「なんでも多様性の時代に甘えんなよ」

「時代ですからね」

「多様性の時代と言えばさ、俺高校1年生の時、友達の容姿の違いをちょっと笑いものにしちゃったことがあって」

「いじり?」

「俺はね、いじりのつもりでいたんだけど泣かせてしまったの。だからこれはいじりではなかったの」

「受け取る側のキャパで決まるんですかね」

「んー、それだとされた側のキャパの小ささが理由になってしまう感じがするけど、そもそも相手との関係性の上で心を覗けなかった俺が100-0で悪い」

「難しいですね、その塩梅が」

「最近校長先生が言ってて覚えたやつね、塩梅」

「すぐいじる」

「ごめん。でね、その後ちゃんと謝って、普通に喋る関係性になって、大学に通う新幹線もたまに一緒になって、今はたまにFacebookで近況を見るぐらいなんだけど、もう15年ぐらい経つのにずっと後悔してるの」

「謝ったのに?」

「うん。たまに思い出してあぁってなることがあるのね。だから今日読んだこの資料(卒業文集最後の二行)のように自分の中に残り続けている後悔なの。みんなにはこういう今も残り続ける後悔ってある?」

「ありますね」「あるっちゃある」「種類は違うけど」

「ありがとう。別に何があったかは自分の中で留めておいてくれていいんだけど、今日はさ一緒に考えてもらいたいのよ。『後悔はなぜ残り続けるのか?』を」

「時間は?」

「まずは10分、いける?」

「はい」

「俺も考えてみるわ。はじめ」

・・・・・
・・・・
・・・
・・


「はい終わり。この後はフリートークにしよう。教室の中だったらどこ行ってもいいから、色んな人と喋ってきて。もちろんまだ書けそうって人は書いてて大丈夫。スタート!」

「先生喋りましょ」

「もちろん。先、喋る?」

「あ、先どうぞ」

「俺はね、後悔は恥だと思ってるの。自分にとってあの日の出来事って人生の中でも指折りの恥ずかしいできごとなんだよ。恥ずかしいことって二度と同じことをしないように残るんじゃないかって。ほら、俺ってすぐ気抜いちゃうじゃない?」

「知らないですけど。でも私もちょっと似てます。後悔のある人はおそらくなんですけど、他人を傷つけてしまった時の自分から時間が経って真新しい自分になってるんだと思うんです。で、もうその時の自分に戻りたくない、戻らないようにするぞって自分にブレーキをかける役割で後悔を残しているんじゃないかと思うんです」

「後悔を残している、その表現は好きかも」

「自分ではコントロールできないと思うんですけどね」

「え、じゃあさ後悔って残ってた方がいいってこと?」

「私は残してもいいと思います。それが負荷で自信をなくしてしまうのであればそれは必要ないものかもしれないんですけど、よりよい未来のために抱えて生きていかなきゃいけないこともあるかもしれないです」

「あ、なるほど目から鱗。俺ね、後悔ってすぐにでも消したいって思ってたの。残しとくのも悪くないって発想がなかったわけ。あとでみんなに聞いてみよ」

「そうしましょう」

「今いい?」

「いいっすよ」

「なんで?」

「僕はその時にした行動を今の自分が認められないからだと思います」

「今の自分と昔の自分は違うってこと?」

「完全に違うわけではないですけど、その時々の最適を考えて生きていて、考えられることが増えてきたんで過去の未熟な自分が嫌って感じですかね」

「それはそうよね。12歳の自分と15歳の自分、善悪の判断とか、世界の見え方も変わってきてるからさ、大人になるってそういうことかもね」

「先生はどういうことに大人を感じますか?」

「うかつに人を傷つけなくなったことかな。やわらかくなった。それこそさっきの後悔が恥ずかしくて、苦しくて、自分の一時の感情で誰かを傷つけなくなった。自分が傷つくことはあるんだけど」

「それも許しちゃダメですよ」

「俺さ、人を傷つけたことは残り続けるのに、傷つけられたことって割とすぐに消えたりしちゃうから我慢できちゃうのよね」

「いゃ思い出せないだけでちゃんと傷ついてるんで許しちゃダメです。人も自分も傷つけちゃダメです」

「そうね、ありがとう。ちょっと救われた感じがするよ」

「僕もです」

「みんなとりあえず時間。この人と喋ってて新しい解釈が増えたよって人いる?」

「○○さんです」

「○○いい?」

「はい。もう二度とこんな行いはしたくないという衝撃的な罪悪感が、次に同じようなことを起こさないようにしてくれるからだと思います」

「ありがとう。後悔があるから、よりよく生きれるみたいなことだよね。俺ね、さっきみんなと話をするまでは後悔なんてすぐにでも消したいと思ってたの。でもさ、みんなと話をしていく中で後悔って自分の中に残り続けてもいいのかなって思ったの。『後悔はなぜ残り続けるのか?』には『後悔はなぜ残り続けるのか?(早く消すにはどうしたらいいの?)』が含まれてたんだけど、、みんなに助けてもらおうと思ったのよ。一人で抱えるにはあまりに辛くてさ。ねぇ、15歳のみんなは後悔をどう考えるの?」

「早く解消されたいとは思いつつ、今の自分があるのは過去の後悔があるからだと思うので必要だとは思います」

「やっぱりそうなんだね、後悔は残ってもいいと思える人ってどれぐらいいる・・・1、2、3、4・・・結構いるのね。どう?」

「あ、はい。今ある後悔は上手く付き合っていくしかないですけど、何個もはいらないです」

「苦しいから?」

「というよりは、何個もあるってことは全然反省してないじゃんって感じなので」

「なるほどね。後悔は捉え方によってはいい経験になるけど、自分のいい経験になるからって人を安易に傷つけてしまうのは違うよね」

「まぁたくさんあると自信もなくしますし」

「そうね、ありがとう。今日さ、みんなと話ができてよかったと思うの。俺ね、自分がもってるこの後悔をなんとか手放したくて今日まで生きてきたんだけど、みんなと話をする中でこの後悔に生かされてきた部分もたくさんあったんだって気づいたのよね。そう考えると、ある日スーッと自分の中から消えていくまでは、ちゃんともっていたいなって思ったのよ。ありがとう。簡単な感想だけもらって終わろうか」

「起立、気をつけ、これで1時間目の道徳を終わります。ありがとうございました」「ありがとうございました」

「いい時間だったね、ありがとうございました」

「先生、今年って節分いつですか?8月?」

「いゃ真夏。今年とかないわ。だいたい2月3日。2月4日の時もあるらしいけど」

「そうなんですね、なんか年取るとマジでイベントごとに興味なくなるんですよ。プレゼントもらえるわけじゃないし」

「年の数だけ豆もらえるじゃん」

「上手いこと言わなくていいですよ。誰が喜ぶんですか。豆もらって。じゃあ成績上げてください」

「恵方巻とかは食べないの?」

「うーんどうだろ。食べるんですか?」

「まぁ一応ね、お母さんが半額の買ってくるから」

「なんか今朝テレビでやってたんですけど今年の恵方は北北南らしいですよ」

「あ、ないですそんな方角。そういや明日節分なのに、今日給食に豆出なかったね」

「確かに!豆が出て、あ節分か!ってなるのに」

「別にテンションは上がらないけどね。俺としては教室に豆飛びかわなくて助かるけど」

「先生、時代です」

「時代?」

「そう時代。鬼は外、福は内っていう鬼と福を分けようって考え方がそもそも時代にそぐわないって教育委員会が判断したんですよ。マイノリティへの差別を助長するからやめようって。絶対そうですよ」

「いいんじゃない?ちょっとやりすぎなこともあるけど、誰も傷つけない時代ならそれはいい時代になったんじゃないかな」

「これまでのみんなの後悔の上に成り立ついい時代ですね」

「時代だね」

「時代ですね」


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