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博物館資料保存論 レポート(設問形式)⑰

【問】『「民衆を導く自由の女神」の輸送』で実施された工夫について簡潔に紹介せよ。

私の書いた回答はこちらです↓↓

「民衆を導く自由の女神」の輸送で実施された工夫について
 
1.絵画のサイズと日本での輸送および展示期間
「民衆を導く自由の女神」はフランスのルーブル美術館所蔵の油彩画資料である。画面寸法縦2.6m、横3.3m、重量約200㎏(額縁を含む)と大型絵画であるため輸送と展示には様々な創意工夫と国際的協力が必要であった。パリ―東京間の往路が1999年2月17日~2月19日、展示期間2月26日~3月28日、東京―パリへの復路が3月30日~4月2日の輸送及び展示期間を要した。
 
2.作品の養生について
 輸送前の作品は画面寸法よりやや大きいオリジナルの額に入っていたが、輸送に際し、オリジナルの額の損傷を避けるためと額縁の重量を軽減するため木製の軽量な額縁と取り替えられ、輸送中の振動によるカンバスの揺れ防止のためにカンバス裏側に格子状の木枠の間を埋めるよう木枠の厚さと同じポリエチレンフォームをはめ込み固定したのち、その上から裏面保護のための透明ポリカーボネイト板を被せた。
 
3.利用された航空機材
「民衆を導く自由の女神」は過去2回フランス国外に輸送経験を持つ。1回目は木枠から外したカンバスを筒状に巻いて輸送、2回目は木枠に貼ったままの状態でそれぞれ輸送されたが、1999年の日本への輸送では作品の軽量化とオリジナルの額縁保護のため、現状の額縁の幅を10cmの仮枠と替え、絵画を垂直に立てた状態で運ぶこととなった。一般的に油彩画は進行方向に対して横向きに立てた状態で運ぶのが最も安全であると考えられているが、それは進行方向の加速度の変化がカンバスに伝わりにくいことを理由とする。だが、日本への輸送時には特殊な条件が必要であった。第一点目には大型梱包ケースを輸送するためにはオリジナルの額の損傷を避けること、第二点目には貨物使用の場合には1気圧を保てる気密性を保持する耐圧容器の使用と温度確保のための過熱保温装置の使用を考慮する必要性があったことである。このような条件を揃えた輸送機として、通常は飛行機・ロケット部品等の大型特殊装置を運搬に利用されるAIRBUS社の貨物専用機A300-600ST(通称:Beruga)に決定された。
 
4.輸送用ケースの役割
油彩画は振動や衝撃並びに温度の変化に強く影響され、影響の程度によりカンバスの揺れや伸縮、絵具層の剥離・剥離など物理的変化を生じることがある。1999年の輸送ではこのような環境変化が大きくなることが明らかであったため、木製梱包ケース・耐圧容器・過熱保温コンテナの3種類のケースが用意された。まず、木製の梱包ケースだが、これは合板を用いて製作されたものを使用し、内部にポリエチレンフォームの断熱材を2枚、内側にクッション材を二重に重ね、陸上輸送の利便性を考慮しケースの大きさは極力抑えられた。作品全体が含有する水分をシート内に閉じ込めるために収納前に全体をポリエチレンシートで包み、シートが画面に接触しないようにあらかじめ作品の縦横に数本の紐を渡し、シートのたるみによる画面への接触を防ぎ梱包ケースに収納。さらに段ボールを被せ、2枚のポリエチレンフォームの断熱剤を重ね、ケースの蓋が閉じられた。その際にシート内、ケース内ともに調湿剤は収納しなかった。
 次に木製梱包ケースに収納された作品はそのまま空港まで陸上輸送され専用の耐圧容器及び過熱保温コンテナに収納される。耐圧容器の中心部に木製梱包ケースはロープで固定された。耐圧容器は梱包ケースの周辺の気圧を1気圧程度に保つ目的で製作されており、円形の開閉扉が接触する耐圧容器本体部分にはオーナリングが使用される。これは真空容器に用いられるものである。扉を閉めたのちは数十本のボルトナットで全体を均一に締めて気密性を作るが、容器内外の圧力差安全な範囲を超えた場合に容器に空気が流入出し安全弁が作動する。
 そして耐圧容器に収納された梱包ケースはさらに加熱保温コンテナに収納された。1999年の輸送時に利用された貨物専用機Berugaは気圧、気温共に外気とほぼ同じ状態になるため高度1万m付近では貨物室が氷点下になり、絵画が氷結してしまう恐れがあるため、耐圧容器を加熱加圧コンテナに収納しコンテナ内に加温空気を送りながら温度低下を防いだ。
 
5.陸上輸送
空輸以外で陸上輸送の際でも梱包ケースを垂直に立てたまま運ぶことは困難であった。日本の道路交通法の高さ規制に対し梱包ケースの高さが規制直前まであり、ぎりぎりであったこと、温度コントロールが可能な貨物室及びエアーサスペンションを備えたトレーラーには十分な高さの車両がないという2点の理由があげられる。だが、車両については日本とフランスの事情が似ていたためにトラックでの陸上輸送では梱包ケースを斜めに傾けて積載することとなった。その際に温度コントロールが可能な貨物室及びエアーサスペンションを備えた低床大型トレーラーを用いた。フランス側では梱包ケースを斜めに固定する架台に載せ、日本側では傾斜課題は使用せずトラックの貨物室内に梱包ケースを斜めに積載し固定した。

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