ひきだし   2021/10/3

ホチキスはどこへ行った

最近ずっと見ていない
いったいどこにしまったのだろう

ひきだしをつぎつぎ開けて
奥のほうにやっと見つけた

いたんだ
ここに

何年も
同じ姿勢で

いつか使われるときを
待ちつづけて

なんという
しおらしさ

それだけで
うれしくなった

ひきだしには
ほかにもあった

便箋や
万年筆や
腕時計や

最近はメールばかりで
便箋は出番がない

腕時計はとまっていた
あらぬ時刻をさしたまま

ここで最後の時を刻んだときは
いったいどんな気持ちだったろう

ピアノをひけば
音が鳴る

本をひらけば
文字がある

みんな待っていてくれる
僕が使うそのときを

あたりまえなんだけど
そういうものなんだけど

宝物かもしれない

すべてが
もう動かない時計でさえが

目がしらが熱くなる
ホチキスをにぎりしめたまま

あすは日曜日

ひさしぶりに
手紙でも書こうか

この胸のひきだしの中
いつも待っていてくれる

なつかしい あのひとに

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