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映画「そろそろ音楽を始めようと思う」と、過去の交差。

先日、池袋の新文芸坐に映画「そろそろ音楽を始めようと思う」を観に行った。
それは僕の過去に重なり、この日、改めて人生に感謝した。
以下、その過去の日々と、映画を観た日の想いの順で手短に残しておこうと思う。

DAN君と出会った日

僕の30代前半のある時期はキツかった。
複数の仕事を掛け持ちし、音楽活動は先細り動員力も下降し、色々上手くいかず酒は増え心は荒れ、結婚生活も破綻に向かっていた。

2007年2月のある夜、呑んで帰って独りで家で寝てたら深夜3時頃に携帯が鳴った。
知らない番号で、出てみたら知らない声だった。

「修二さん初めまして、アコーディオン奏者のDANと言います。
いま下北沢の〇〇というライブバーでバーテンをやってまして、目の前で奥さんが独りで呑んでて辛そうなんですけど、修二さんもここに来ませんか?」


呆気に取られて
「彼女がかけてくれって言ったんですか?」
と訊くと、

「彼女は修二さんは来ないだろうって言うんですけど、話聞いてて僕は修二さんは来ると思って。」
との返事。

深夜に寝惚けてるとこに、会った事もないのにこんな事を電話で宥めるような声で語りかけてくる彼に興味が湧いて、タクシーでそのバーに向かった。

店に入ると、彼女と、初対面のDAN君は拍手の大騒ぎで迎えてくれた。
夫婦間の問題は一旦酒で流して、皆で朝方まで語って歌って、本当に楽しい夜だった。

結局その7ヶ月後に離婚したものの、この頃に彼女が僕に望んでいたであろう事、
そしてDAN君が僕ら二人を気遣ってくれた優しさは、その後も思い出す事が多かった。

映画館にて


16年以上の歳月が過ぎ、二日前、映画「そろそろ音楽を始めようと思う」を観に池袋に行った。

主演はDAN君。
今もアコーディオン奏者として活躍する彼のスクリーン初主演作だ。


監督・脚本は、小野親一くん。
思えば2009年頃、新宿のバーで彼とDAN君と3人で呑んでて、彼らが「そんな感じならもう音楽やめなよ」みたいな言い合いをしてた事があったが、2017年に小野くんが映画「そろそろ音楽をやめようと思う」で監督・脚本家デビューした時は本当に驚いた。


その先に制作された映画「そろそろ音楽を始めようと思う」は、DAN君が演じる、ライブバーで音楽活動を続ける主人公を軸に、仲間・恋人・夢・不安・失意・後悔や愛が描かれた作品だ。


登場人物たちのそれぞれのストーリーが、過去の自分の生活に準えて身に覚えがあるものばかりで、否応無しに感情移入してしまう映画だった。

後悔と失意があっても、捨てられない想いと音楽があり、また人生の新しい旅路に繋がる。体験がないと書けない脚本だと思う。
小野監督の想いが僕には凄く理解できて、感動した。

そしてDAN君の役は、あの声も仕草も、仲間を盛り上げようとするシーンも、彼のキャラクターそのものだった。
余りにも彼そのもの過ぎて、2007年に彼と初めて会った夜の事を強烈に思い出し、涙が流れた。

映画が終わり、劇場内の照明が明るくなると、
全くの偶然だが目の前の席に座っていたのは元嫁だった。
彼女と共に、舞台挨拶の為に劇場に来ていたDAN 君のいる控室に行った。

ドアを開け、彼の顔を見た瞬間にまた涙が溢れた。
最初に出会ったあの夜の空間が、そのままこの場所にスライドしてきたような感覚で、涙がおさえられなかった。
皆、それぞれ色々あった事だろう。
皆、頑張って生きてきたんだろう。
今も元気で笑顔で会って語り合えることを、本当に嬉しく思う。

何が待っているか分からないし、分からなくても前に歩めばいいのだろう。

そして今年ずっと考えていた事だが、
自分の胸に手を当て、もう一度本気でそろそろ音楽を始めようと思う。
人生に感謝する。ありがとう。






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