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「対話」を説明しようとしてみる

今日のテーマは「対話 (dialogue)」です。よく耳にする言葉ですがどういうことか説明するのはちょっと難しいコンセプトではないでしょうか。
私自身、十分理解できている自信はないですが、解説してみたいと思います。

今日の一言サマリ

対話とは、新しい関係性の構築である。


参考にした図書

中原淳、2022、「話し合いの作法」、PHP研究所
中原淳、2009、「ダイアローグ 対話する組織」、ダイヤモンド社
宇田川元一、2019、「他者と働く」、ニューズピックス


対話が求められる背景

まずは対話がいま求められている背景から解説していきます。宇田川は、ハイフェッツの言葉を用いて、課題に対して既存の技術を適用してシンプルに解決できる「技術的問題」を消し去ったとき残るのは、人と人との関係性の中で起きている「適応課題」だと説きます。同僚に協力を求めて断られる、社内で新しい提案をロジカルに説明しても上司に却下される、クライアントとの関係性構築に苦労する、私たちの身の回りには適応課題にあふれています。
中原は、これからは正解のない世の中で多種多様なメンバーで何かを創っていく必要があると言います。そのためには、メンバーが本当に腹を割って話し合うことが必要なのです。

対話とは何か(中原編)

いよいよ、対話とは何かを説明していきます。ここでは中原の挙げる対話の8つの要素を挙げていきます。

  1. 「ケリのついていないテーマ」対話のためには、参加者全員が当事者であるテーマが必要です。言いかえると答えを必要としている「問い」が重要なのです。

  2. 「人が向き合って言葉を交わす」対話では、参加者全員が発言の機会を持つ必要があります。

  3. 「フラットな関係」対話をしている間は、上下関係のないフラットな関係が必要です。上司が意識せずに部下の発言に「いいね」と言うだけで、上司から部下への評価と受け取られその場からフラットな関係は失われます。

  4. 「自分を持ち寄る」対話では自分の意見や価値観を場にそっと差し出す、自己を持ち寄ることが重要です。他者の意見を引用したり、「~すべき」という言い方は対話的ではありません。

  5. 「お互いのズレを探り合う」他者が意見を表明すると、自分の意見と一致する部分と一致しない部分が明らかになります。この時すぐにズレに対して反論するのではなく、一旦「そういう意見がある」ことを受け止めることが必要です。自分と違う意見に出会った時、他者には他者の合理的な世界があることを意識しましょう。

  6. 「今ここを生きる」対話を行っている場に集中するということです。自分の感情に注意を向け、それを言葉にすることはしんどいですが、逃げてはいけないのです。

  7. 「自分を疑い、他者に気づく」自分はわかっていなかった、自分は他者からそう見えたんだ、と気づく姿勢を持つこと、他者をリスペクトすることが必要です。

  8. 「共通理解をつくりあげる」他人の意見・経験と自分の意見・経験が重なる部分に気づくことができます。

中原は対話と決断をプロセスを分けています。対話ではお互いの意見を持ち寄り、一致点、相違点を明らかにし、決断の段階では話し合いで決めたプロセスに従って意思決定することを説いています。

宇田川は、それぞれの語りを生み出す解釈の枠組みを「ナラティヴ」として解説しています。適応課題はナラティヴの溝であると位置づけています。宇田川は、溝の向こうから(相手のナラティブから)こちらを見ることで橋をかけ、新しい関係を築くところまでを対話と位置付けています。

実践への示唆

以上のような特徴とプロセスを持つ対話ですが、ビジネス現場ではどのように使えばいいのでしょうか。

  • 協調的な問題解決…適応課題には単純な解決策はないと書きました。関係性に起因する課題の解決策を対話によって皆で出す、未来づくりに対話は向いています。

  • 知識共有、学び合い…メンバーが持つ暗黙知を共有し、組織の知識にしていくプロセスでも、対話が重要です。

  • 組織の変革…組織課題の抽出や解決策の策定にも対話が役立ちます。組織のメンバーが自分の考えを表明し、何が解決すべき課題でどのような未来にしていきたいのかを対話することは、新しい組織文化を作る上で重要なプロセスとなります。

  • 顧客プレゼン…オーディエンスとのラポールを形成しながら、オーディエンスの持つ前提や知りたいことと、自分の持つ前提や伝えようとしていることとをすり合わせることで、より協調的な場にすることができるでしょう。

本稿では対話というつかみにくいコンセプトを解説しようと試みました。将来私の理解が進んだ時には、書き直してみたいと思います。


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