オタクと萌絵と某芸能事務所

 最近はいたる所で萌絵を見かけるようになった。自分がまだ子供だった90年代あたりは、あの手の絵に対する世間の拒否反応は強かったと思う。それが、00年代あたりから風潮が変わってきて、10年代になるともうすっかり世間に浸透していた。最近では電車に描かれていたりするし、公的機関のポスターにも採用されていたりする。自分はそれなりに漫画、ゲームに慣れ親しんできたとは思うが、それほどその方面に詳しいわけでもないので、あの手の絵柄がどういう経緯を辿って今に至ったのかはよく知らない。自分もオタク的性格を結構備えている方なので、オタク的なものや萌絵的なものに対して蔑んでくる世間の空気はあまり好ましく感じない。だから、今の方が生きやすいと思っているが、その反面オタクや萌絵はすでに権威化しているなあと感じることもある。あまりにも萌絵が持ち上げられる風潮に辟易することもある。今の時代なら、誰でも気軽にオタクを名乗れるし、むしろ好印象を持たれたりするのだろうか。形骸化して流動性を失ったオタク的なものが、世間に深く根付いてしまった気がする。日本の社会の衰退と、オタク的なものが花開いた時期は重なっている。まあ自分も萌絵はどちらかと言えば好きな人間なので、こういう物言いは自分の首を絞めることになるが、事実なのだからしかたがない。萌えとか推しとか言って、自分の素直な感情を吐露できる世界の中で充足しながら緩やかに衰弱していく。今の日本社会はそういう段階にいるらしい。そう言えば最近は安楽死の話題がよく取り上げられている。

 萌絵のキャラは目が大きくて、鼻と口が小さい。顔のパーツの中で目を極端に誇張している。近代はルネサンスあたりから始まると言われるが、その時代の絵画では中世と違い写実性が重視されるようになった。同じくらいの時代に科学の発展が本格化したが、その科学を支えたのは観察と実験であった。両者に共通するのは、自分の目で外側の世界を正確に把握する態度だ。さらに印刷機の発明によって、文章は社会の中で氾濫するようになり、人々は目を使って文字を頻繁に読むようになっていく。西欧で近代が始まってから今日に至るまで、目の重要性は増していっている。情報は目から得るものだという認識は、21世紀の今日ではますます強まっている。この数百年で(ある側面から見た場合に限り)西欧人は目を酷使するようになり、目に重要な意義を持たせるようになっていったのかもしれない。

 日本の近代は明治維新から始まる。明治の前の江戸時代に日本で流行っていたのは浮世絵だった。浮世絵で描かれる人物は、鼻が大きくて目と口が小さい傾向にあり、萌絵に比べるとまだパーツのバランスがある(例外も多くある。あまり知らないので適当なことを言っているかもしれない。)。明治を迎えてから西欧の思想と文化と思考法を取り入れ続けた今日までの約150年間で、日本の大衆が好む絵柄も変わっていった。顔のパーツの中で目の重要性は増して徐々に大きくなっていき、口は小さくなり鼻にいたってはほぼどうでもいいものになった(耳は微妙で人によっては丁寧に描いている印象がある)。萌絵は目に多様性を持たせることに意義があるらしく、目を描き分けることでキャラを区別している。

 また、萌絵は漢字文化圏特有のものではないかと思うことがある。中国人などの絵師は日本人と同じような萌絵を描くが、アルファベッド文化圏になる東南アジア系の人たちが描く絵は、目の大きい絵柄ではなくて、幾分現実的なものになる。アルファベッドを母語として身に着けた人間は、おそらく西欧特有のグロテスクな描写に親和性を持つようになるのだろう(あくまで自分が観察した範囲内であり違うかもしれない)。話は変わるが、萌絵を好む風潮とマスク社会にはなんらかの関連性があるかもしれないと思ったりもする。

 萌絵で描かれるキャラは幼い。幼い顔に可愛らしさを見出し、それを好ましく思うところがオタク文化にはある。これに似た傾向があると考えられるのがアイドル文化だと思う(あくまで自分の感想)。日本で人気のあるアイドルというものは、他の国にはない特有なところがある。少年や少女を愛したがる傾向は病的だが、長らく日本に存在している根深いものがありそうだ。日本人は他国に比べて見た目が幼いというのは割に正しい。アジア人は白人などに比べて年をとっても若々しかったりするが、とりわけ日本人はその傾向があるようだ。ネオテニー的には、日本人は最も進化した人種かもしれない(賞賛していない)。

 そういえば、最近某芸能事務所の性的セクハラが話題になっている。あれだけ子供たちに手を出してそれがほぼ周知の事実であったにも関わらず、今までお咎めなしであり、しかも数々のアイドルを輩出して日本の大衆に大きな影響力を持ち続けたのはなぜだったのか。前からあの事務所の幹部たちの周囲はどうなっているのかと、疑問に思っていた。なぜあの姉弟が芸能界を牛耳ってこれほど長い期間にわたり君臨し続けたのか。自分のような人間に知る由もないが、姉の夫の存在が大きかったのはわかる。だが、それ以上は藪の中であり、どんな人間が関与していたのかはわからない。際どい人物の話も出たりするが、あまり不確実なことを言うのはよくないだろう。

 漫画、アニメ、ゲームなどは日本の戦後社会において特有の発展を遂げて、世界でも評価されるに至った。これらのサブカルチャーがなぜ生まれ、これほど巨大化して世界に向けて影響力を持ったのか。一つ考えられる理由としては先にも少し触れたが、日本語特有の文字が関わっていると思う。おそらく日本語は、世界の中で最も複雑な文字表記を採用している。表音文字と表語文字の両方を使いこないしている主要言語は、おそらく日本だけだろう。アルファベッドはせいぜい30個の文字を覚えればいいが、日本語ではそうはいかない。このあたりはまたの機会に考えることにする。

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