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Value「川」:古来より山と町を結ぶ川


かつての川の風景

 その土地固有の自然風土を色濃く反映し、かつて山と町を繋いでいた象徴的なものが川でした。陸運より水運が中距離輸送の主役だった時代では、川上で伐採された素材は、川の流れによって町中へと運ばれ、町の流通へと乗せられていきました。筏による運搬や修羅出し、大井川の川狩など、地域風土に合った水運方法が各地で花開き、山と町、そして川上と川下は、川を通じて自然と繋がっていたのだとおもいます。水運が盛んだった時代の子供たちは、きっと川を流れていく木材たちが毎日目の端に写っていたことでしょう。

上流部の小川(飛騨)
北上川と岩手山(盛岡)
阿賀川(南会津)
帷子川とビル群(横浜)

現代に至るまでの川の変遷

 一方で現代は、そんな川の機能が削ぎ落とされ、川の水管理に社会のニーズが移っています。江戸時代より盛んに行われてきた河川の流路調整と、ダムによる水量調整により、社会経済活動への安定した水供給と、洪水氾濫による災害の減少が志向されているかと思います。結果として、川はより直線的になり、できるだけ素早く海へと到達させるかたちとなりました。

 時代によって、文字どおり紆余曲折の遍歴を辿っている川。そこには人と自然との関係性を考える上で、とても重要な要素が詰まっていると感じてなりません。だからこそ、私は製材所の屋号に「川」を掲げ、目指したい流通のかたちの象徴として捉えています。

屋号に「川」を掲げる意味

①川上・川中・川下全体で、1本の川と流域をつくっている

 木材業界は、幾多もの事業者による専業と分業によって、サプライチェーンを形成しています。そのため、木材流通では慣習的に、流通上の役割と立ち位置に合わせて、「川上」「川中」「川下」という表現が各事業者に対してされることがあります。かつて水運を主としていた時代の名残から、こうした表現が根強く残っているのでしょう。
 しかし、「川」そのものに対する議論がもっと増えても良いのではないでしょうか。どういった川の流れと流域を形成していくのか、どうすれば川上・川中・川下という分断を越えた流通ができるのか、そこに焦点をあてていく必要があります。
 川の流れに境はなく、どこまでもグラデーションを滲ませながら、連続的に繋がっています。

工務店さんと広葉樹施業の現場に入る

②変わり続けることで輪郭を保ち続ける川

 川の特徴、それは常に変わり続けている存在だということです。水はひとところに留まることなく、常に海へと向かって流れていきます。雨雪による天候と、人の水管理のバランスにより、その水量は常に最適解を見つけ出し、輪郭を形成しています。形変われど、川は流れ続けているのです。
 人と自然との関係性も、きっと同じことが言えるのだとおもいます。二者の関係性には、確実な答えがあるわけでもなく、常に二者のバランスと時代からの要請のなかで、変化し続けるべきものではないでしょうか。変わり続けることで保たれる関係性、それは動的平衡な関係性ともいえます。
 やまかわ製材舎では、そんな川の動的平衡なあり方を目指し、変わり続けられる流通を目指します。地場の素材情報と、作り手の方々が求める需要情報とを擦り合わせ続け、双方ともに活かされる動的平衡な中間流通の機能を高めていけたらと考えています。
 川の水が、常に座りの良い居所を探し、流れ落ち着いていくように、木と人の居所を探し落ち着かせる。

素材の集積場で、そこにあるものを提案し、活かしていく

③山と町を繋ぐもの、それが川

 どのように山と町の繋がりを回復させることができるのか。自然との直接的な関係性が薄まった現代社会では、自然への回帰や野生性の回復などが一部の人たちによって唱えられています。その点に関して、私は「直接的な関係性の回復だけでなく、間接的な関係性の更新」ができないかと考えています。つまり、産業側が鮮度の高い一次情報を漏らさずバトンパスしていき、届けていく流通ができないものでしょうか。
 たとえば、魚のことを考えてみます。ほたるいかは、富山湾をはじめとした北陸沿岸部にて4月頃に採れる魚介類で、春の風物詩として多くの方々に好まれています。旬なほたるいかが食べられるのはこの時期で、酒のつまみとして逸品です。この地物流通には、地域風土と旬があたりまえのように流通しています。地物のため、採れるエリアが限定されており、地域風土と関連が深いということ、そして採れる時期が限られているということが、食体験のなかで自然と伝わっているのです。
 地魚のような流通=川の機能が働いている限り、人は自然との繋がりを、暮らしのなかであたりまえのように感じることができるはずです。「そろそろほたるいかの季節だね」「富山にいくならほたるいか食べたいね」、そこには工業流通には留まらない、文化流通といえるものが垣間見えます。
 地域風土に紐づいた木という素材には、その土地だからこその人と自然との関係性が凝縮されています。文化を象徴する素材を中間流通から届けていくことで、その素材と流通は、きっと川のような媒介者となってくれるはずです。

町中で伐られたケヤキ。波々の杢が町らしい成長ぶり。
家具需要用に流通を見直し、家具屋さんの手元へ。

すべての繋がりはグラデーション

 やまかわ製材舎では、「山」と「川」を屋号に掲げています。山から川、そして町へと繋がる土地の連続性には、無限のグラデーションが広がっています。
 繋げることの先で、溶けさせること。製材所を軸に据えながら、その前後の関係性をグラデーション豊かに構築し、柔軟な中間流通を実現させます。
 

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