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Mission「時」:旬を活かす流通へ、木という素材のもつ時間軸と向き合う


木の時間軸

 木という素材は、自然素材らしい時間の流れを抱えています。数十年単位での森林の時間軸から、数年単位での経年変化、そして季節単位での旬の移り変わりなど、木には本来独自の時間軸が流れているものです。
 工業的な素材として年中流通している、現代の木材感覚では、それは非常に見えにくいものとなっていますが、それは変わらず現代においても受け継がれているものです。時期の良い秋冬には、良質な素材が出回るため、各社単価を出しながら、原木在庫の確保に動きます。一方で、時期の悪い春夏には、原木仕入れを絞り、相場も下がります。こうして、中間流通においては、いまなお木の時間の流れに沿った木材事業に取り組んでいます。
 木の時間軸を、情報流として最終ユーザーにまで共有しきれないかと、やまかわ製材舎では考えています。いつの時代、いつでも同じものを供給する考え方ではなく、むしろ木の時間軸を商売に組み込み、この時代だからこその提案、そしてこの旬だからこその提案を増やしていけないものでしょうか。
 木という素材がもつ一回性を、「旬」と「時代」の2点に分けて、提案していきます。

原木市場に並ぶ大量の広葉樹(岩手・盛岡県森連)
冬が来ると、シーズンの始まりを感じる(岐阜・飛騨古川)

「旬」を楽しむための短期乾燥

 木の旬は、なんといっても秋冬です。冬の寒さでカビや干割れが少なくなり、品質劣化の心配がなくなります。とりわけ落葉樹は、葉を落とし、光合成をやめて眠りにつくため、それに比例して根からの水の吸い上げもなくなり、鮮度の高い状態が保たれます。
 そうした品質上の利点もあり、秋冬には天然生の素材の出材が活発になり、賑やかなシーズンが始まるのです。この現場だから出てきた素材や、今年だから出てきた素材など、刻一刻と素材状況は時間の流れのなかで変化していきます。タイムリーで一回性のある素材流通は、直接関わる当事者には肌感覚で伝わっていますが(ドキドキハラハラで堪りません!)、分業の連続である木のサプライチェーンのなかでは、徐々に削ぎ落とされ、旬な時間感覚は共有されません。特に広葉樹の場合、天然乾燥を一年以上置かなければいけないということが、このタイムリーな旬の時間感覚をお客様と共有しにくくしています(こんなにも楽しいのに!)。

温水式乾燥機にて、天然乾燥なしで人工林乾燥にかける

 そこで、私たちは2022年より約2年間、天然乾燥を省略した人工乾燥技術の開発実験に取り組んできました。温水式というローテク方式ですが、ローテクだからこそ、地域内のインフラ・技術で施工することができ、文字通りの地域内内製化で成立しています。
 これまでは天然乾燥1年という期間が、現実のよりクイックな商売の時間軸と噛み合わず、どうしても製品在庫の中からでしか、素材を選ぶことができませんでした。短期乾燥を流通の選択肢に組み込むことで、いまここにある素材を、一から選別・製材・乾燥し、案件に組み込むことが可能になります。そうすることで、これまで私たちが体感してきた木の「旬」な時間軸を、サプライチェーン全体で体感しながら、価値提案していくことができるはずです。
 既存の木材流通に、旬な時間軸を組み込んでいくことで、地場の素材の新しい可能性を広げていきます。

「時代」ごとの森の不可逆性

製材所に眠る、旧営林署が出材した国有林の素材たち

 森は本来、不可逆的です。かつてあった森の姿は、現代には残らないし、いまある森の姿も、未来には残りません。森を取り囲む生態系は、生まれ、成長し、朽ちるを繰り返しており、様々な外的要因との掛け算のなかで、諸行無常に変わり続けています。

飛騨の里山広葉樹林は60~80年生、大径木は少ない

 かつては奥山の国有林より、良質な天然木が大量に切り出されていた時代がありました。この時代に対する是非はともかく、60~80年生の里山広葉樹林が主体の私たち世代にとっては、憧れと羨ましさに溢れた素材がたくさんあり、当時の木材関係者は本当に贅沢な商売をしていたなとおもいます。
 里山の木と奥山の木は、当然のことながら、まったく異なる木です。奥山からは里山の木は出てこないのと同様、里山からは奥山の木は出てきません。それらは場所性に加えて、時代性も大きく関係しており、特定の時代の特定の森だからこそ、流通していた素材というものが存在するのです。それが、木の抱える「時代」性です。
 奥山の素材は、現代の社会背景のなかでは流通することはないですが、唯一それが可能なのは、製材所に眠る過去の遺産材です。全国の製材所や材木屋の在庫には、各時代を反映した遺産材が眠っています。それらを不良在庫として扱うのでも、銘木として尊ぶのでもなく、後にも先にも出てくることのない文化資産として、大事に使っていく流通を増やしていきたいと考えています。
 いまある素材は大事に使いつつ、私たちの森ではできないことを、かつての森の素材の力を借りて、大事に使っていくという文化を育てていきます。不可逆的である森だからこそ、そこから生まれる木という素材もまた不可逆的です。各地の想いある製材所や材木屋と連携し、時代時代の森と人との関わりが集約された「時代」性のある素材の価値を広め、流通させていきたいです。

「旬」と「時代」を楽しむ、味わう

 なによりも強い想いは、この木ならではの時間軸を、最終ユーザーさんも含めたサプライチェーン全体で楽しみたいということです。季節を味わい、時代ごとの雰囲気を楽しむ、そういう情緒ある流通を皆で味わいたいのです。
 木の時間軸を楽しむ輪が、少しずつ広がっていくことを願い、やまかわ製材舎は事業を展開していきます。

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