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【読書感想文】命を献げる熊への愛と許しに賢治の自然観を想う『なめとこ山の熊』

猟師の小十郎と熊との奇妙な関係を描いた物語です。主人公の小十郎は、熊を仕留めて自分と家族の生計を立てている猟師です。ある日、小十郎は山で熊に出会い鉄砲を構えるのですが、熊はどういうわけか、自分の命は必ずやるから二年待ってくれというのです。二年後、熊は約束通り小十郎の前に現れて息絶えます。小十郎は熊に感謝し、その後も猟を続けるますが、別の熊に襲われて命を落とします。

私が思う本書のテーマは、資本主義社会における搾取の構造ではないかと思います。小十郎は熊を撃つことで家族を養っていますが、その熊の皮や胆汁は、町の旦那に安く買い取られているのです。小十郎はそのことに気づいていながらも、この関係をやむを得ないと思っています。

「僕はしばらくの間でもあんな立派な小十郎が二度とつらも見たくないようないやなやつにうまくやられることを書いたのが実にしゃくにさわってたまらない」

本書のこの言葉は、あくまで賢治の個人的な強い憤りとして表現されています。しかし、私はこの中に、第一次産業に従事する人々が搾取される構造への強い怒りを感じるのです。

もう一つ印象に残ったのは、熊と人間の命のやり取り、そして命のやり取りに負けた側は、死を当たり前のように受容する姿勢です。これを自然の摂理といってよいのかは分りません。しかし、食う・食われるという営みに対して、個体の意思や感情が抗おうとすることの無常観を思いました。

賢治の自然観や死生観が詰まった本書。資本主義社会を当たり前のように生きる私とっても、想像を拡げて自然や生態系に思い巡らせることの大切さを気づかせてくれました。


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