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SNSで人気の自然ガイドの原点は、カナダでスノボができなかったこと!?

インスタグラムやX(Twitter)などで、身近な自然の「へぇ!」という発見や「そうそう!」と言いたくなるネタを発信している自然ガイドのくますけさん。このたび初の著書『エナガの重さはワンコイン 身近な鳥の魅力発見事典』を出版されました。
刊行を記念して、くますけさんにSNSで発信をはじめたきっかけや、自然ガイドとしてのあゆみ、自然の魅力を伝える際に意識していることなどを伺いました。

自然ガイドのくますけさん
くますけさんのInstagram。鳥や草花、昆虫まで、身近な自然の「へぇ!」となる、楽しいネタを発信していて大人気!

——自然ガイドとして活躍されているくますけさんですが、子どもの頃から生き物や植物が好きだったのでしょうか?

くますけ 茨城県結城市という地方出身なので、夏にはカブトムシを捕りにいったりしていましたが、ごくふつうの田舎の子どもという感じで、そこまで生き物博士というわけではありませんでした。当時の僕がハマっていたのは、恐竜です。中学に入る頃までは、ずっと恐竜が大好きで、実際にはどんなふうに生きていたのかを想像してはワクワクしていました。

数学や理科も好きでしたが、何を血迷ったか、高校では文系を選択、大学は経済学部に進みました。なぜ農学系の大学を選ばなかったんだろう、と自分で自分が不思議です。今でも、社会人入学しようかなと、通信で学べる大学を調べてしまうことがあります。

カナダでスノボができない!?

——もともと生き物がご専門ではなかったとは驚きです。ネイチャーガイドになる前は何のお仕事をされていたのですか?

くますけ 大学卒業後に入社したIT企業を2年ほどで辞めたあと、カナダ・バンクーバーに留学しました。理由は2つ。英語を学びたかったからと、大学で始めたスノーボードがやりたかったから(笑)。当時の僕は、休みのたびに雪山に出掛けるほど、スノーボードが大好きだったんです。

カナダ留学時代のくますけさん

ところが、僕がカナダに行った2004年の冬は記録的な暖冬で、なんと雪不足でスキー場がオープンしませんでした。「カナダでスキー場がオープンできないって、どういうこと!?」とショックを受け、そこから地球環境への関心が一気に湧いてきました。

すると、調べれば調べるほど、気候変動の深刻さが迫ってきます。このままでは好きなスノーボードもできなくなるかもしれない…。
そこで帰国後、環境問題を扱う仕事に就こうと、カナダで培った英語力を活かして、東京の環境コンサルティング会社に就職しました。

——カナダでの体験が、今のくますけさんの原点というわけですね。

くますけ そうですね。あれがなければ、きっと帰国後は英語を使う別の仕事に従事していたのではないでしょうか。スノーボードをしにカナダに行ったようなものだったのに、雪に出会えなかった、あのショックは大きかったですね。

——環境コンサルティング会社では、生き物に接する仕事をしていたのですか?

くますけ 環境コンサルティング会社といっても、僕が従事していたのは温室効果ガスの排出量取引をめぐる業務で、一日中パソコンと睨めっこする毎日でした。自然や生き物と触れ合う機会はほとんどありませんでしたね。

法律や技術があっても、教育がなければ環境問題は解決しない

——そうですか……ちょっと意外です。そこから、なぜ環境教育の草分け的存在である静岡県富士宮市の「ホールアース自然学校」に転職されることになったのでしょう?

くますけ 環境問題を解決するためには、「法整備」「技術革新」「教育」という3つのアプローチが必要だといわれています。環境コンサルでは、法整備と技術革新の両方に携わることができて、その点では非常に満足していました。でも、教育だけはやっていなかった。

当時僕は、温室効果ガスの排出量取引をめぐる業務を担当していたと言いましたが、これは、それぞれの企業や国が排出できる二酸化炭素量の枠を決め、その枠を超えて排出してしまったところが、枠以下のところから排出枠を購入することで、排出量を削減したとみなすことができるようにする制度です。つまり二酸化炭素にお金の価値をつけて売買するのです。

このシステム自体は、非常によくできていて、本来の想定通りに運用されれば、温室効果ガスは今よりずっと減らせていたはずだと僕は信じているのですが、実際にはそうならず、昨夏の猛暑のような事態が世界各地で頻発してしまっています。それがなぜかといえば、教育が足りず、システムが正しく使われていないからだと思うんです。

システムを使う人間側の教育の重要性を痛感し、悶々としていたとき、「ホールアース自然学校」の創業者・広瀬敏通氏の著書『自然語で話そう――ホールアース自然学校の12ヵ月』(小学館)を見つけました。立ち読みした途端、「うわ! これこそ僕がやりたいことだ!」と興奮しました。

広瀬敏通『自然語で話そう――ホールアース自然学校の12ヵ月』(小学館)

すぐに「ホールアース自然学校」のホームページを見たところ、ちょうど研修生を募集していたので、ダメもとで履歴書を送ったら、一次審査に通ってしまって。後から聞いたら、履歴書は全員通っていたらしいのですが(笑)。
それでも面接で様子を見なければどんなところかわからないよな、と思い、気軽な気持ちで面接を受けたところ、本当に受かってしまった。

——急展開ですね!

ただ、めちゃくちゃ悩みました。年収は半分以下になるし、茨城の田舎から出たくて東京に行ったのに、また静岡に行くのか、とか、車も買わなきゃいけないな、とか。

でも同時に、法整備・技術革新がどんなにできていても、教育のせいでうまく回らなければなんの役にも立たないのだと、環境コンサルの仕事を通じて痛感していましたから、やっぱり大事なのは教育だ、と思い直して。環境教育をやるなら「ホールアース自然学校」が最適だし、行くなら今しかない、と決断しました。
(続く。第2回は2/1 公開予定です)

(構成:高松夕佳)


くますけさん、初の著書!
⾝近な⿃の意外な姿や生態にまつわるトピックが満載です!

絵・文 くますけ
監修 上田恵介
定価 1650円(本体1500円+税10%)
四六版 本文192ページ

内容紹介

「さえずりが止まらない 毎日2000回」 ウグイス
「にじみ出るジャイアンらしさ」 シメ
「国立競技場でも席が足らない」 アトリ
「翼を広げたら改札2つ分が通れない」 アオサギ

思わず「へぇ!」と唸らされ、人に話したくなるような身近な鳥の知られざる姿や魅力を、ユーモラスなイラストと解説でたのしく紹介。
ふだんの散歩やバードウォッチングが、いっそう楽しくなること間違いなし! 日頃から鳥を見ている人にも、鳥のことは詳しくないけど興味があるという方にもオススメの1冊です。

「街の鳥」「公園・緑地の鳥」「野山の鳥」「水辺の鳥」と見かけやすい環境ごとに、80種類ほどの鳥を紹介しています。

著者紹介

絵・文 くますけ
子どもたちに、自然の楽しさを、やわらかく伝える専門家。自然ガイ
ド歴15年。関東平野の真ん中で筑波山を眺めながら、すくすくと育つ。
20代最後の挑戦で、体験型環境教育を実践するホールアース自然学
校へ転職。柏崎・夢の森公園での勤務を経て独立。ふざけすぎない、
くだけ方で、行政・企業・先生のウケがいい。おうち時間が増えたの
をきっかけにイラストを描き始め、公園や庭で見られる自然の「へぇ!」
という発見や「そうそう!」と言いたくなるネタをSNSで発信している。
影響を受けた本は『自然語で話そう』(広瀬敏通著)と『足もとの自
然から始めよう』(デイヴィド・ソベル著)。 一番好きな鳥はヒヨドリ。

インスタグラム https://www.instagram.com/kumasuke902/
X(Twitter) https://twitter.com/kumasuke902
Note https://note.com/kumasuke902

監修 上田恵介
鳥類学者。日本野鳥の会会長、立教大学名誉教授、山階鳥類研究
所特任研究員。生態学者として著書多数。日本動物行動学会会長、
日本鳥学会会長なども歴任。2016年第19回山階芳麿賞、2020年日
本動物行動学会日高賞を受賞。

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