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フランスの大統領選挙が語ること

【ニュース】

I feel very very happy for France of course but also Europe. Today, is the fight between pro-Europeans and anti-Europeans.

訳:私は、もちろんフランスだけでなくヨーロッパにもとても満足しています。 今日、ヨーロッパ優先派と反ヨーロッパ派の戦いがあります。

【解説】

フランスの大統領選挙で、マクロン候補が当選しました。

この文章は、ニューヨークタイムズの取材に答えるフランスの若い有権者のコメントです。彼が英語で話しているのをそのままここに紹介したので、多少文法的にずれているところがあることはご理解ください。

この選挙は極めて重要な選挙でした。

最近divide(分断)という言葉をよく耳にします。フランスも、有権者の意識が大きく分断されていました。彼のコメントのように、ヨーロッパの市民としてのフランスの立場をしっかりと踏まえてゆく(pro-Europe)のか、それともフランスのみの国益を最優先に考える(anti-Europe)のかという選択に、人々は挑んだのです。

イギリスがEUからの脱退を決めた国民投票。そして、アメリカ第一を掲げて大統領となったトランプ氏が起こした旋風。この風にのれば、フランスがEUから脱退し、移民も締め出し、元のフランスに戻ることを唱えたルペンLe Pen氏が当選しても、決しておかしくない雰囲気がフランスに漂っていたのです。

Divideがおきている状況を地域別にみると面白いことがわかってきます。

失業率が9%以上の地域、特にフランス北東部や南東部でルペン氏への支持が固まっていたことが投票の結果から色濃くみえてきます。こうした地域は失業率のみならず賃金格差にも見舞われ、低賃金、高失業率の地域となっています。

その一方で、左派勢力の支持母体であったフランス北西部(ブリタニー)では、有権者が決選投票で中道をゆくマクロン候補に投票したことが、39歳という若い指導者がフランスの大統領に選ばれた原因となっています。

ルペン候補はマクロン候補に大きく引き離されたとはいえ、彼女の率いるNational Frontは、2002年の大統領選挙の時の倍にあたる全有権者の36%の支持を集めたことも忘れてはなりません。また、オランド大統領のもとで経済相をつとめたものの、マクロン候補自身も既成政党に属さない金融エリートだったということも注目されます。

オランダに続き、フランスでも極右勢力が敗退したことは、一時先進国を巻き込みそうになった自国中心主義の潮流をせき止めたことになるのでしょうか。この後のイギリスやドイツでの選挙がさらに注目されるものの、EUが崩壊するのではという不安を抱いていた人々にとっては、まず安堵した選挙結果になったといえましょう。

EUはもともと、19世紀から第二次世界大戦に至るまで犬猿の中といわれたフランスとドイツとが、第二次世界大戦の悲惨な教訓から、この2国がイニシアチブをとって造られた欧州石炭鉄鉱共同体European Coal and Steel Communityがその母体となっています。それは石炭と鉄鋼を共同管理すれば、一つの国のエゴで戦争をおこすことはできないという画期的な発想によるものでした。

それだけに、今でもEUの中核をなすフランスとドイツの動向は、EUそのものの将来に大きな影響を与えることになるわけです。

しかし、現実はまだまだ厳しいといっても過言ではありません。

フランスやドイツではイスラム教過激派によるテロが頻発し、経済的にも格差に悩んでいます。Divideにさらされている国民の中でも、失業や貧困に怯える人々は、移民とテロ行為とを直結させ、さらに、そこに移民と失業問題とを結びつけて、フランスをフランス国民の手にと考えます。ルペン候補の主張は、選挙での敗退とは裏腹に、そうして有権者にしっかりと支持の根を下ろしたことになるようです。

今、イギリスでもドイツでも、さらにフランスでも、国家はもともとの国民であった人々のみのものではなくなっています。イギリス人、ドイツ人、そしてフランス人というアイデンティティはかろうじてその地域で話される言語によって保たれているのです。それは、世界中からの移民で構成されているアメリカ合衆国が英語という言語でまとまっている状況と似通ってきているといっても過言ではありません。

このグローバリズムを多用な価値観を共有できる人類の未来への希望と捉えるのか、それとも自らの存在意義を脅かす脅威と捉えるのか。

フランスの大統領選挙が問いかけた課題は、これからの世界の動向を占う上で重要なテーマだったのです。

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