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都会と田舎、カナダの最果て、ガスペの「ムースまつり」(3/4)

そんな音楽にひかれるように駐車場に行ってみて、びっくり。

集まる車のボンネットや天井に、ムースmooseの頭がかざられているのです。

ムースはトナカイに似た大きなツノをもつ野生の鹿です。地元の人々が猟をして、その獲物の大きさを競い合うために、そこに集まっていたのです。

森の主とも言える巨大なムースが、首を切られて車の上に乗せられています。男だけではなく、家族ぐるみで集まって、その大きさを競い自慢し合うのです。

私からみると残酷な光景でした。

地元の人々は、ムースを殺し、その肉を干し肉にして厳しい冬を過ごすのです。

このムースの大きさを競い合うお祭りは、長年にわたってこの地方の風物詩として、受け継がれてきたのでしょう。

このとき心の中をよぎったのが、和歌山県の太地町の古くから地元の人々に受け継がれてきたイルカの追い込み漁を撮影した「The Cove」という映画でした。

この2009年にドキュメンタリー映画が公開され、太地町は世界中の動物愛護団体から批判を受け、日本政府までがこうした「野蛮な」伝統をサポートしていると避難されたのです。

ニューヨークに戻って、このガスペでの祭の映像をみせたところ、ほとんどの人が眉を潜め、こうしたことを話題に出すこと自体がタブーであるかのような厳しい反応が返ってきました。アメリカの都市部では、動物を殺すことへの強いアレルギー反応があり、人が食のために必要としない殺生は、それ自体モラルに反することとして、切り捨てられてしまいます。

確かに、ガスペでのおまつりは、食の流通が整備されている現在、不要なものでしょう。それは太地町でも同様のことかもしれません。

共通しているのは、そのどちらも、それぞれの国の辺境の地での出来事だということです。それは人間の所属する都市と田舎という二つの空間の意識の対立を象徴している出来事なのです。

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