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リサーチャーを育てよう(2) -解像度について-

「解像度」とは何か

前回、私は「解像度を自力で高められること」を育成上のポイントとしましたが、そもそも「解像度」とは何でしょうか。そして、なぜ解像度は高い方が望ましいのでしょうか

解像度とはもともとは画像の密度を表す言葉だそうですが、マーケティングやリサーチの文脈では、顧客などの対象をリアルに捉えられている度合いを表すときに使われます。

私なりに正確な表現をするために少し固い表現を許していただければ、ある対象の構造-対象を構成する要素群とそれらの間の関係性-を理解している度合い、ということです。

「構造」という言葉もよく使われますが、例として「人体」などの生命体を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。
(医学的知識に乏しいので、もしも以下の記述に間違いがありましたら、ご指摘くださいますようお願いします)

・人体は臓器など様々な組織で構成されます。
・各組織はそれぞれ役割を持ちつつ、協働という関係性を持っています。
・そして、基本的に各組織とも細胞で構成されます。
・細胞は種類ごとに違う役割を持っています。

人体を「組織」という要素で捉えれば「それぞれ別の役割を持ち、協働する組織の集合体」と言えます。
また「細胞」という要素で捉えれば、「種類ごとに役割の違う細胞で構成された組織が集合し、役割分担しつつ協働する個体」と言えるでしょう。
もっと細かく、細胞の中身まで見に行くのももちろんあり得ます。

人体をただ人体と捉えるのではなく、組織や細胞などの「構成要素と関係性」という「構造」で捉える。
この構成要素と関係性を細かく網羅的に把握するほど「解像度が高い」と言うことができる。
私はそう捉えています。

そして、解像度が高くなると問題の所在を把握しやすくなります。
これはピンポイントで効果的な対応ができる可能性を上げるものです。

①具合の悪そうな人がいる
②悪いのは胃らしい
③胃の○○部分の細胞がおかしい
④おかしい原因は✖️✖️ということである
⑤良くない食生活が✖️✖️を引き起こしやすい

①ではせいぜい安静にしていることしかできないでしょうが、②でも胃をどうすればよいのか、よくわかりません。ヘタをすると胃を全摘しますかという乱暴な話になる可能性もあります。
ただ③なら切るにしても一部で済むでしょうし、④までわかれば投薬治療で何とかなるかもしれません。⑤までわかれば再発予防も検討しうるでしょう。

さて、この例における人体を「社会」や「市場」、組織を「セグメント」、細胞を「人」などに置き換えてみてください。
マーケティングにおける解像度とは何か、なぜ解像度を高める必要があるのか、少しイメージしやすくなったのではないでしょうか。

なお「解像度を自力で高めることができる人材」とは、マーケティングにおいて、市場の要素と関係性を網羅的に、自力で可視化できる人材ということになります。

事業の解像度

マーケティングにおける「解像度を上げる」とは、前回のお話から「事業の解像度」と「顧客の解像度」を上げていくことになります。
上記の「解像度とは」を踏まえた上で、もう一度それぞれを見ていきましょう。

まず「事業の解像度」について。
これはつまり、事業の要素とその関係性ということになります。

事業の要素分解の仕方は様々ですが、ここではKPIツリー的なものの当てはまりがよいと思います。
もちろん事業を構成する組織や役割ごと、あるいはヒトモノカネという分け方もあるでしょうが、マーケティングという観点ではKGI(重要目標達成指数≒組織の大目標)を頂点とし、影響力の強い構成要素と関係性を網羅したKPIツリーがイメージしやすいです。

なお、KGIを人体に例えますとKPIは臓器などの組織に該当し、構成要素としては大きすぎますので、もう少し細かく具体的にする必要があります。
KPIを構成する各要素も認識しておきたいところです。その方が解像度が高まります。

そして、KPIツリーが表す「要素間の関係性」を理解することがとても大切です。

「風が吹けば桶屋が儲かる」という言葉がありますよね。
どういう風が吹いたら、どの要素が影響を受け、それが別の要素にどう影響を与えるか。これが「要素間の関係性」です。
その理解の度合いがまさに「解像度」そのものとなるのです。

よく「事業は生き物である」と言われますが、おそらく解像度が高い方は本当に生き物のように感じていらっしゃるのでしょう。
各要素が協働して事業を構成していく様は、確かにどこか生物のようでもあります。

この解像度のレベルを上げておくと、何か問題が発生したときに原因や該当箇所のあたりをつけやすくなります。

例えば「ここ最近、業績がふるわない」ときに、解像度が低いと「みんなで頑張ろう」といった対応になりがちですが、解像度が高いと「あのへんに問題がありそう」という勘が働き、根拠のある仮説を元に動けるようになる、ということです。

なお、この流れでリサーチを依頼されることもあります。
そこで話を聞いていくと、依頼者や意思決定者がどのように事業の構造、つまり事業に必要な要素や要素間の関係性を捉えているかを知ることができます。

リサーチャーと同じように捉えていないことも多くあります。
ここから、依頼者・意思決定者のインサイトを見出さねばなりません。

事業の価値をどう捉えているのか。やりたいことの背景にあることは何か。意思決定者として譲れないことや原動力となっているのは、どういうことなのか。
意思決定者の組織内での立ち位置、支持の集まり方は。
もっとシンプルに、事業への愛情の程度は。などなど。

こじつけのようですが、意思決定者は事業の大きな構成要素の責任者であることも多く、それもまた「事業」の大きな要素と捉えることができます。
事業は結局「人」がつくり上げていくものです。

彼らが「本当に意思決定したいこと」は何なのか。
それを明示・言語化できるよう、事業の意思決定者の解像度を上げる必要があります。

顧客の解像度

「顧客」を構成する要素とその関係性は、いわゆるデモグラフィックの変数(人口統計学のデータ、性別や年齢などの属性が代表的)とサイコグラフィックの変数(心理学的データ、趣味嗜好や価値観などが代表的)で見ていくことが大半と思われます。

と言ってもなかなかピンとこないと思いますので、シンプルに「人物像」の理解レベルと考えていただいた方がよいでしょう。
(しつこいようですが、このあたりは動画で解説しています)

デモグラフィックとサイコグラフィックの集合体を「人物像」と捉えます。
その人が誰でどういう人なのか、ということです。

マーケティングとは、超シンプルに言いますと顧客を喜ばせ続けて対価をいただき再投資を続ける一連の活動という表現も可能と思いますが、相手に喜んで欲しいならば、相手のことをよく知っておいた方がいいことに異論はないでしょう。

人物像の理解度が高まれば、その人に対して想像力を正しく発揮できるようになります。
こんな言葉をかければ喜ぶだろう、あれには興味がないだろう、その出来事には怒りを感じているだろう、などです。

(まったく理解せずに「こうすれば喜ぶだろう」と、自分の考えを押し付けるのを「独りよがり」と呼びます)

同じように、あるマーケティングの取り組みにどのように反応するかも、人物像の理解が進めば概ね想像できるようになります。

大切なのは、直接その人に質問をしなくても想像がつくということです。
「そのことについては直接聞いていないのでよくわかりません」と言うなら、人物像の解像度が高い状態とは言えません。

その人のことが精度高く想像できるなら、その後は根拠ある仮説をもとに動けるようになります。

例えば、誰かへのプレゼントを考えるとき。
「あの人は以前に◯◯ということがあり、今は□□な状態で、実際にこの前は✖️✖️ということを言っていた。だからこのプレゼントはきっと喜んでもらえるだろう」と考えられる。

「相手に直接聞けばいいじゃないか」とおっしゃる方もいると思います。
それが機能するケースも多いですが、直接聞いても悪意なく嘘が返ってくる可能性には注意する必要があります。

「プレゼント欲しい?」と聞いたときに、本当は嬉しいのに照れて「いらない」と答えたり、本当はいらないのに断れなくて「嬉しい」と答えてしまうことはありがちでしょう。

でも、よく知る相手であれば「この反応は本音だな」「この反応は嘘っぽいな」と判断することができますよね。

相手の解像度が高ければ、相手の本音を洞察しやすくなるのです。

ちなみに、顧客の言葉を言葉のまま受け入れてはいけないことは、マーケティングでもよく注意喚起されます(これを読んでいる皆様には言うまでもないことと思いますが)。

有名な例がマクドナルドの「サラダマック」と「クォーターパウンダー」でしょう。
顧客の声に従ってヘルシーなメニューを開発したがヒットせず、どう考えても身体に悪そうなものがヒットした。

顧客の人物像をよく理解し、顧客解像度が高い状態であれば、顧客に対する想像や洞察の精度が高まる。
結果、本当に喜んでもらえる確率が上がっていく、ということです。

まとめ

事業と顧客、それぞれの解像度を上げることで、要するに「勘所」を掴みやすくなることがわかります。

今の事業の問題は○○の部分にありそうだ。これは顧客が✖️✖️だからだろう。ならば□□という活動をすればよい。
リサーチを依頼してきた人は△△と言っているが、これはあの要素について自分と違う捉え方をしているせいだ。ならば明らかにしなければならないのはそのポイントだな。よし顧客への質問はこうしよう。

などと、勘所を掴んだ筋のよい仮説を組み立てやすくなります。

これが解像度を高める大きなメリットです。

ここまでまとめたところで、次回はいよいよ解像度をどうやって高めていくか、具体的なメソッドの話をしていこうと思います。

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