タテカン@鼓丗キネマ

この月は、立て看板と共に過ごしていました。鼓丗キネマです。今回の公演は照明も凝っていて、スタジオに入ると数多の配線が床を這っています。生命の宿った配線に足を食われそうになりながらも、安全地帯はどこかここかと安息を求めてステップを踏んでいきましょう。所々置かれたボウルには、どこの国で育った誰彼が見ても猛毒と明らかな色の塗料が入っており、触れてはなりません。触れたらどうなるかは分かりません。それを跨いでやっと辿り着くのが作業中の立て看板です。作業中と言えど僕と優秀な後輩2人を除けば、この板に手を加える人間はいないので、僕がいない間、180×270cmの空中権は侵害されておらず、作業が保存されています。時が止まっています。ここは、自分が上に乗った時に限り時間が進む空間です。全ての世界とは隔絶されて非常に居心地が良い。好きな音楽を流し、好きな小説を読み、好きなパンを食べ、好きな時に寝る。寝ても起きても未だに1人。スタジオには誰も来ていません。仮に来ていたとしても、大変そうだな頑張っているんだな、お疲れ様ですと、全く見当違いのエールを僕の寝顔に向かって飛ばしただけでしょう。さて寝ている間どれほどの時間が経ったのでしょうか。僕が世界の終末を寝過ごしたマヌケだったとしても、洪水のなかタテカンと共にプカプカと漂流し、挙げ句の果てには二度寝だってできる事でしょう。スタジオの壁にかけられた時計を見ても12時間周期で1周する何周目かのいつかを指し示すばかりで、全く自由に健全な生活をしている僕にとっては情報のフリをした益にならないガラクタです。とはいえ寝過ぎた。ああ、描かなきゃ描かなきゃ。いまは何日何曜日。プレイリストを再生し切ったスマホは音楽の供給を放棄して、スタジオの外のザアザアという環境音だけが聞こえます。雨か?マズい。洗濯物干したまんまだ。数日前に干して雨に濡れ再び乾いているだろう服達が2度目の雨に当たってしまう。しかし、しばらくすると屋根にあたる雨粒の破裂音が無いことに気付き、なんだ強風か、風が調子に乗っているだけかと安心し、どこか遠くの自宅で健やかに乾いている洗濯物達に思いを馳せます。どうか貴方が幸せでありますように、洗濯物。さてさて。さてと、タテカン作業を始めますか。

そんな楽しい作業の日々、彼自身ハチャメチャに自由な奴ですが、丸投げしてくれた演出には感謝しています。うーむ、次はもっと良いもの作れる気がするな。

ボツ(初稿)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?