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凧と地震(2024.01.01)

再び妻の実家。

凧あげをした。妻の実家そばにある、古い球場で。

球場はかつてはジャイアンツやヤクルトと言ったプロ野球チームがオフシーズンに使うこともあったらしいが、今やたまに地元の草野球チームが練習で使うくらいで、ほとんど忘れられているような存在だ。

妻の妹家族と凧あげやサッカーをして私たちは遊んだ。妻の妹が福岡のコストコで買ったという「ドラゴン」という大仰な凧はシンプルなのとは程遠く全体にゴテゴテしており、容易に風に乗らない。龍の頭が派手に飾り付けられているが、威勢が良いのはその姿ばかりで、すぐに落ちてくる。

私たちはかわるがわるそのドラゴンを飛ばそうとしたが、ついに風に乗せることが叶わなかった。代わりに、アンパンマンがプリントされたシンプルで安価な凧はとてもよく飛んだ。3歳の甥っ子や、4歳のうちの長女ですら風に乗せる事が出来た。

長女は初めて凧を空高く飛ばす事が出来てとても嬉しそうだった。時刻は15時過ぎくらい。少しずつ日が傾いて来ていたけど、空は青く、時々遥か上空を飛行機が飛んで行った。飛行機はとても小さく、そこに何百人という乗客が乗っているとはとても思えなかった。飛行機はとても短い飛行機雲を空に刻んで飛んで行った。

綺麗だなぁと思っていたら、長女は凧の持ち手をふいに手放してしまったようで、凧が風に乗って飛ばされていた。凧のずっと下に、持ち手が浮遊していて、私はそれを掴もうと走ったが、持ち手は私の2mくらい頭上を飛んでおり、掴むことはできなかった。

凧は自由を手に入れたみたいにのびのびと飛んでいた。捕まえようとする私を笑っているみたいだった。でも凧は球場のすぐそばの高い木にひっかかった。

凧はそれからずいぶん長い間楽しそうに風に泳いでいた。私たちは手の届かないところに引っかかった凧をずっと見ていた。長女は泣きそうになるのを必死にこらえていた。

でもそうやって皆が気にかけて見ていたのに、凧はいつの間にか消えていた。凧がどこか遠くの空へ飛んでいったのか、それとも落ちて木にひっかかっているのか、それは分からない。私たちは球場を後にして、妻の実家へ帰った。

帰ってすぐ、妻の妹の旦那がスマホをいじっていた。それをすぐ横で見ていた妻の妹が「石川で震度7の地震」という記事を見つけた。私もそれを見て、目を疑った。

すぐにテレビを付けて確認すると現実に、石川で大きな地震が起きている。震度7とか、よく分からない。

騒然とする妻の実家。子供たちの大半はそれがどういう事か分かっていないが、うちの長男だけは事の重大さを少しは理解しているみたいで、固まったままテレビを凝視している。

言っても、元旦で浮かれていた私たち。地震のニュースを目にして正月気分が消失した。代わりに東日本大震災や熊本地震の時の陰鬱な気持ちが蘇ってきて、でもニュース映像をかじりつくように見てしまう自分がいて、私は、大きな災害の前では実際的な発揮できる影響力とは別に、地震に対して意識的に抵抗する事すら難しいのだなと思った。妻はしきりに「起こってしまった事は仕方がない。どうしようもない」と言っていたが、それはなんとか自分の無力さと折り合いをつけようとしているように思えた。

明日の朝、地震の被害状況がより明るみにされると思うが、どうかできるだけ少ないものであるように願う。

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