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おおきなくらげ(2023.12.26)

最近就寝時間が遅い子供たち。余裕で22時30分を過ぎてくる。特に次男が寝ない。今日は歯磨きまではスムーズに済んだので、なんとか妻が風呂に入っている間に全員を寝かすべく、ひさしぶりに「怖い話」をしたのだが、結果的に全然怖くなかった。その話というのが以下。

大きなくらげ

大きな大きなくらげがいて、それは透明すぎて人の目には見えない。ずっと昔、恐竜の時代よりもっと昔から海の中に漂っている。どのくらい大きいかというと、日本列島くらい大きい。

ある日、くらげはあたたかくて広い海を漂っていた。すると大きな大きなイカがやってきた。イカは言った。

「くらげくん、ひさしぶりだね。君に会うのはいつ以来だろうか。会えてうれしいよ」

くらげとイカが会うのは何千年、何万年くらいぶりだった。地球じゅうの広い海をふたりともえんえんと漂っているのだから、しかたない。くらげは言った。

「本当にひさしぶりだ。そういえばイカ君、その足はどうしたんだい?前に会ったときは足が80本くらいあったはずなのに、今は40本くらいしかないじゃないか」

くらげがそういうと、イカは機嫌を損ねた。どうもふれてはいけなかった事らしかった。怒ったイカはスミを吐いて海の深いところに行ってしまった。

くらげは悪い事をしたと思ったが、しかたないので、また海を漂った。いつかまたイカに会えたら謝りたいと思った。

しかしひとつ困ったことがあった。イカのスミを浴びたせいで、全身が黒く染まってしまったのだ。透明で見えなかったはずのくらげは今や巨大な黒い塊となっていた。

やがて見えるようになったくらげは、文明が発達してきた人類に見つかることとなった。好奇心に駆られた人類は大挙してくらげを見ようとやってきた。そしていつしかくらげの上で住む者が現れた。どこの国にも属さずに、タダで世界中に運んでくれるくらげは大人気となって、たくさんの人たちがくらげの上に住むようになった。

家や塔のようなものまで人間がくらげの上に建てるものだから、くらげは痛かった。でもやさしいくらげはグッと我慢した。調子にのった人間はくらげの上に町を作り、国を作った。そしてくらげの上には世界に類を見ない高度な文明が生まれた。

ますます調子に乗ったくらげ国の人々。やがてくらげに大きな動力を取り付けて思い通りの場所へ移動できるようにした。そうして世界中の国と戦争をしては、服従させていった。

戦争がある度にくらげは痛い思いをした。頭の上でドンドンパンパンうるさいなとも思った。でもやさしいくらげはグッと我慢した。

しかしある時大きな戦争があった。見たことのないような大きな爆弾がくらげの頭の上で炸裂した。さすがにたまらなくなったくらげは何千年かぶりに海の中に潜った。そうしてくらげ国は一瞬で滅びた。くらげはヒリヒリする頭を冷やそうと冷たい海へゆっくり向かうことにした。

海の上では大きな国が突如なくなってしまい、大騒ぎだった。何千年もかけて築き上げた文明が一瞬で滅びたのだ。大変な事だった。その事は言い伝えとして長い間語り継がれることになったが、誰もそれが大きなくらげによるものだとは知らなかった。

冷たい海でくらげはまた何千年かぶりにイカに会った。イカは前に会った時に怒ってスミを吐きかけた事を謝った。くらげは少し痛みが引いた頭を撫でながら「いいよ。ぼくの方こそごめん」と言った。

久しぶりに見るイカの足はまた半分くらいに減っていたが、くらげは今度はグッと我慢してその事には触れなかった。

そうやってくらげの話を聞かせて、長女はあっさり眠ってしまい、長男は眠らず、また別の話を聞かせるようにせがんだ。次男はというと、全く眠ろうとせずに、風呂から上がってきた妻のところに行って、妻を不機嫌にさせた。作戦は失敗だった。

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