私の好きな短歌、その45

いさぎよき口調をつかひ物売と応接なしき銭なき妻が

 宮柊二、『日本挽歌』より。(『宮柊二歌集 p110』岩波文庫)

 かつては、魚売りや果物売り、花売りなど、色々な物売りの人が町にいたと思う。百科事典や英語教材でも訪問販売があり、我が家でも買って(買わせられて?)いた。一首の場面は、買う前提でか、押し売りを撃退しようとしているのかわからないが、いずれにしても時代の勢いがうかがえる。皆が貧しかったが、生活は良くなることを漠然と信じていた時代。「銭なき」と言い切っても必ずしも悲壮感へはつながらない空気がある。
 二句の「口調」と四句の「応接」という2つの漢音のリズムが小気味よい。

 『日本挽歌』は1953年(昭和28年)刊行。刊行時作者42歳。作者生没年は1912年(大正1)ー1986年(昭和61)、享年75歳。

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