私の好きな短歌、その46

秋の日は洩れきて砂に動きをりもう一度だけ会ひたきものを


 宮柊二、歌集『獨石馬』より。(『宮柊二歌集 p220』岩波文庫)
 「米川稔」と題された一連中の一首。1971年(昭和46)の歌。米川稔は宮柊二と共に北原白秋の門人で親交があった。宮が1912年(大正1)生まれ、米川が(おそらく)1897年(明治30)生まれなので、米川が宮より15歳若い。米川は鎌倉在住の産婦人科医だったが、1943年(昭和18)に47歳で軍医少将として召集され、翌年に南太平洋で戦死(病衰のため手榴弾で自決)。
 1971年(昭和46)に米川の遺歌集「鋪道夕映」が出版された。手元の岩波文庫「宮柊二歌集」ではこの一首前に「砂敷かれ落葉掃かれて啼く蟬のほかに音なきこの墓どころ」とあるのでおそらく墓前へ出版の報告に来ているのだろう。
 光景と心情の一致が美しい。木漏れ日と、戦死から30年近く経っても、やはり友に会いたいのだ、という切ない気持ちが揺れている。結句の終助詞「ものを」が味わい深い。

 『獨石馬』は1975年(昭和50年)刊行。刊行時作者64歳。作者生没年は1912年(大正1)ー1986年(昭和61)、享年75歳。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?