山野羊

写真を撮ったり小説を書いたりする人。 全てがフィクション。独り言みたいなお話が多め。 …

山野羊

写真を撮ったり小説を書いたりする人。 全てがフィクション。独り言みたいなお話が多め。 「誰かを真似たい日々と日記と言葉の零し」 早く人間になりたい。

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  • 裏でちょっとだけ評判良かったやつ

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ホットミルク

牛乳をマグに半分、電子レンジで50度 ティースプーンに蜂蜜を絡めて白色へ沈める。 カラカラと軽い音、優しい香りがゆっくり肺を満たしていく。 テーブルにはスマホスタンド、イヤホンが絡まないように設置してコール画面をタップした。 「おはよう」と言っても返事が無く、珍しいなと思っていれば何やらパタパタと音がして、「こんばんは、ごめんトースト取ってくるからちょっと待って」と言うとまた音が離れていった。 きっと起きて直ぐにこの通話を繋いでくれたのだな、と胸の奥がじんわり暖かくなった気が

    • 溶けて

      薄暗い部屋の中で牛乳をカップへ注いでいる時、なんだ罪悪感に似た感覚がじわりと迫って来る。 人のものをこっそり取ってしまったのでは無いか、そうソワソワして、隠すように電子レンジに仕舞う。 いそいそとチョコレートを出してきて、テーブルに並べて、そうすると電子レンジが私を呼ぶのでまた隠れるみたいにこっそり歩いて温かくなったカップをチョコレートの横に並べる。 一人きりの静かなパーティーをしているみたいで嬉しくなって、多すぎるチョコレートのことは見ないふりをする。 進まない人生を見

      • 青色

        夜から朝にかけて、世界が青く見える時がある。 それはまるで精神の海の中で寝転がって遠すぎる水面を眺めてる気分だ。 そういう時はやけに鳥や雨、近くを流れる川の音が耳に入るから、なんだか豊かになった気持ちになる。 いつだって睡眠の足りない脳は熱を持っているようで、それも青い世界にゆっくり冷やされていくようで気持ちがいい。 熱を出した日の雪みたいな。 こたつの中で食べるアイスでもいいけど。 夜から朝にかけて見るこの青色は心と世界と同じ色と呼んでいたけれど、誰かが精神の色と呼んで

        • 自分の心を抱きしめる

          私が、心を壊さないために、崩れかけた心を優しくすくい上げて大切に抱きしめるために、ただそれだけのために書いたもの達。 歌をイメージしたり、祈るような気持ちだったり、ただ眠るような心地だったり、色んな感覚の中で書いているから、統一性は無いと思う。 自分とは関連性がない創作の話ばかりだけど、確かに自分を大切にするために、自分の心を抱きしめるために書いたもの。 こういうのはベッターに置くようにしているのだけれど、こちらにも少しだけ。 生命の夢 祝福されて生まれたはずだった 時

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        ホットミルク

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        • 裏でちょっとだけ評判良かったやつ
          3本

        記事

          灰掻きの話

          魂と肉体を分別して、魂は一旦燃えない方、肉体は凄く質が良いものだけ残して燃える方、でも基本みんな燃える方。 燃えない方はリサイクルにして、燃える方は灰にして、そうして灰になったものがここにたまる この灰を今度は命の木の肥料にするやつと粘土みたいに捏ねるやつに分ける 粘土みたいにこねるやつはだいたい神様のところに行く、地上の生き物はみんな命の木から生まれてると言っていい、 燃えない魂は大抵、命の木の種になったり、神様のところで溶かされて綺麗にされてリサイクルされる、地上に根付い

          灰掻きの話

          偽の星と愛しき日常

          近くからはパラパラと、遠くからはザアザアと、そうした音は部屋へ、暑さに耐えられず吹き込まないように細く開けた窓から遠慮なく侵入してきて部屋を満たす。 暑さを避けるために薄暗くされた部屋、充電器のために窓際の椅子へ座っていたのだが、ふと窓の方を見てみると、そこには宇宙が広がっていた。 窓の水滴が部屋の明かりと目の前を通る道路の街灯に照らされて満天の星空のように見えたのだ。 ねえねえ見て見て、とすぐそこのテーブルで寛ぐ家族を呼んだ。 母は「本当だ」と笑ってどこかへ行ってしまい

          偽の星と愛しき日常

          暑い日

          夏はどうしても暑いから、風にしばらくここで吹いてくれと頼んでみる。 すると風はここだけにいることは出来ないよと風らしく去っていく。 空に浮かぶ雲に向かって雨や降る気は無いかいと尋ねてみる。 雲が今日は雨さん乗ってないよと答える。 私はそうかいそりゃ仕方ないと窓の前で次の風を待つ。 部屋を満たす湿気に空へ上がって雲にならないかと提案してみる。 空気に漂う水たちがさすがに無理だと答える。 私はそりゃあそうかと床に寝転がる。 再びやってきた次の風にやっぱりここでしばらく吹いてい

          地味な男

          これは、一人の中学生の話である。 彼の名前は秋生、秋に生まれたから秋生、大変分かりやすい名前である。 彼は大変地味な男であった。 狭いコミュニティである義務教育中でさえ、そういえばそんなやつがいたなという程度で、そんなやついたっけなんてことも珍しくはなかった。 しかし彼はごく一部の人間にはよく知られた変人で、彼の周りにはあぶれ者や変人が集まった。 はっきりとは話さないが人に言えないと秘密を抱える者も多かった。 彼もその秘密について察しながらもそれに触れることは無く、しか

          記録の記憶

          世界は目の前で流れていく。 これは記憶に残らない、そう思ったことだけ覚えている。 それが私の日常だった。 板が一枚、私の前に立ちはだかる。 質の悪い液晶のようなその板を通して世界を見て、あるかも分からないスピーカーからボソボソと鳴っているような音を聞く。 常に意識がはっきりせず、常に脳に霧がかかっているような、自分が呼吸をしているのかも分からないほど、私の意識はそこに無い。 どうせ忘れてしまう今日を諦めたのはどれほど前のことなんだろう。 必死につかもうとしていた過去があった

          記録の記憶

          呼吸

          君、そこの君、まだ小説を書いているかい。 それからそこのあなた、絵は描き続けているかい。 あなた、小さい頃の僕、人を諦めた僕、工作を諦めた自分。絵と小説を並べて絵を手放した私、向かない小説を選んだ自分。 まだ、書いているのかい。 息を吸わなきゃ吐けないよ、吐いてばかりじゃ苦しいだろう。 どんなに息が長くとも、そろそろ呼吸の折り返し、吐いた分だけ吸う時間。 今はペンを置いて、顔を上げてみて。 夜の空気は美味いだろう、月の明かりは優しいだろう。 夜も意外と賑やかだろう、穏や

          天秤

          つまらない生活、不健康で病だらけの体。 全てが己の怠惰からなるものだとしてもその全てから目を逸らし身を投げたいと願う。 起き上がることを諦め、光を浴びることを諦め、動くことを諦め、怠惰のみで過ごす。 楽を手に取り、豊かさを捨てる、そして周りからもじわり奪うように命をゆっくり溶かしていく。 体も脳みそもとうの昔に腐らせた。 それでも私はまだここにいて、生きている。 人らしく生活など出来てはいないが、生存だけはしている。 人から逃げるように存在を忘れさせるように引きこもり、

          知ろうとしたことってあったっけ

          私は冬と共にある。 故に冬と共に死ぬ。 そう思って生きている。 春が来て、世の中は桜だなんだと騒ぎ始める。 引きこもり窓の外もテレビさえ見ない私の元に桜の知らせがやってくる。 冬が解けて、春が来る。 冬と共に死にたかった。 私の居場所はそこにしかないから、そこだけが平穏で安寧で、それ以外は私の命を削っていくから。 冬が好き、というよりは、元はと言えば冬以外がダメだった。 春は花粉といわゆる春の陽気、人が騒がしくなり始める憂鬱さ。 夏は温度、ひたすら温度の暴力、そして近

          知ろうとしたことってあったっけ

          雪に、焦がれている。 音を吸い込み、世界を静寂に包む。 空気から気温と埃を吸い取って消えていく。 雪が降る世界は静寂と美しさを作り出す。 そこは私にとって、世界で唯一の居場所のように思った。 世界が停止する、そんな世界でのみ、私の存在は許される気がする。 それはただ一つ、呼吸がしやすいというそれだけでしかないが、たったそれだけが世界という巨大なものにこのちっぽけな存在を許されたかのように錯覚する。 私は神なんぞ信じていないが世界の営みは信じていた。 冬の間だけは、生きられ

          大掃除

          大晦日、家の中では人が慌ただし行き交い、埃が舞う。 他の家がどうか知らないが我が家は大晦日に大掃除をする。 毎年掃除と埃から逃げるように部屋の隅に縮こまるか外出してしまう私も今年は掃除に参加していた。 部屋のあれもこれもを捨て、整頓し、多少足の踏み場が出来てくると通りかかった誰かが褒める。 普段掃除をしないからなお良く見えるのだろう。 そうして少しずつ床の面積が増え机が見えるようになり、もののほとんどが捨てられ整頓されると部屋は初めて人が過ごせるような姿になった。 ゴミ

          息が止まる音

          ドラマもないごく平凡な現実を書ききれない ペンを取った、手は動かない。 書ききれない、まとまらない。 糸くずは糸くずのままで繋がらない。 紐を編むことが出来ない。 ノートを開いた。 殴り書きで散らかったノートはあちこちに二本線が引かれて、消して書いての痕跡を残したままだった。 必死に呼吸していた、その過去に触れていた。 その青い文字をなぞったって過去の自分の力は借りられない。 劣る未来の自分しか存在しない。 それでも過去の自分の痕跡に触れるのは、過去の自分さえ美しいと感

          息が止まる音

          ケーキ

          「ねえ、ケーキ焼こうよ」 ソファでくつろいでいた夜11時。 突然に声をかけてきた彼女の姿が見えず、私は無理やり重たい体を起こした。 「突然、何?今から?」 なんて言いながら顔を出すとスキンケアでもしていたのか顔がキラキラと部屋の光を反射している。 「今作らないと明日クリーム塗れないよ?」 彼女はそう言いながら、キッチンへ消えるその背を見て、少し考える。 明日、ケーキ?と思ってそういえば今12月だったかと思い出す。 「え、今日何日?」 「はぁ?23だよ?」 「あー、クリスマス」