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「天保十二年のシェイクスピア」終演のお知らせ


美しい陽気の2月29日です。

「天保十二年のシェイクスピア」を応援してくださった皆様に、あらためて心より感謝を申し上げます。


本公演は、2020年2月26日の昼に出された、新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のための「大規模イベント自粛」という首相要請に応じて、興行主の東宝株式会社より2月28日以降の公演中止が決定されました。

最終公演となった2月27日のマチネのカーテンコールにて、座長の高橋一生さんより挨拶がありました。この挨拶はカンパニー全員の気持ちを代弁してくれているとともに、音楽や演劇など舞台芸術に携わる全ての人の心の代弁になっているように思われます。

下のリンクより、是非ご一読いただければと思います。


まさに、一生さんの言葉通りですが、「心の底から無念としか言いようがありません」。

本来であればお客様の前で上演するはずだった2月28日の昼夜の2公演、そして2月29日の東京千穐楽、なにより2月5〜10日に開催予定だった大千秋楽を含む大阪での8公演、それらをご観劇いただく予定だったお客様の楽しみにしてくださっていた気持ちを思うと、とてもやるせない心持ちです。

また、劇場には駆けつけられずとも、全国各地からこの公演の無事な終幕をいつも祈ってくださっていたみなさまの思いを考えると、これもまた切ない気持ちでいっぱいになります。


僕が演者として演劇という仕事に携わりながら、いつも肝に銘じていることは「どの瞬間もその場限りだ」ということ、そして「次の瞬間なにが起こるかはいつだって全くわからないのだ」ということです。

そう思いながらも、繰り返される毎日の生活のなかに身を委ねていると、そういう言葉の意味と実感が、少しずつ軽くなっていってしまうことがあります。知らず知らずのうちに。

けれど今回、僕たちのカンパニーだけでなく、日本各地の演劇やコンサート、ライブ、イベント主催者の多くが「公演中止」という判断をしたこの現状を体験すると、

いま一度「どの瞬間もその場限りだ」「次の瞬間なにが起こるかはいつだって全くわからないのだ」という言葉の重みを痛感させられます。この思いは先の震災の時にも、大きな台風の時にも感じたはずなんだけれど。


いまはまず、コロナウィルスによる健康被害という直接的なダメージと、そこから派生する人々の不安や憤りという間接的だけれど重大なダメージが、はやく収束してくれることばかりを祈ります。経済的な混乱も、最小限に抑えられますように。

そしてなにより僕が気がかりなのは、この舞台のみならず、世に満ちていたさまざまな文化芸術を楽しみに日々を生きていらっしゃった方々のことです。

その「楽しみ」な気持ちこそを命の支えとして、毎日を過ごしていらっしゃった方もたくさんいるはずなのです。命の支え、という言葉は決して大袈裟ではなく。

そういった方々の絶望のことを思うと、本当にいたたまれない。

あるいは、「命の支え」とまではいかずとも、演劇や、コンサートや、舞台やライブを観にいくことこそが、心の支えであるという人もたくさんいるはずです。エンタメや文化芸術があるからこそ毎日を頑張れるのだ、と思う人が。

僕もそのうちのひとりです。

心の支えを失ったとき、人はとても脆くなります。いつもだったら「よいしょ!」と踏ん張って乗り越えられるような事柄からも、傷を受けることだってあります。


だからこそ。

できることなら、この事態が収束した暁には、文化芸術を愛してくださる皆さんと一緒に、再び、誰ひとり欠けることなく、楽しい時間を共有したいと思うのです。

その日まで、その瞬間まで、なんとか、悲しみや絶望に塗り込められてしまうことなく、ときめきや憧れや小さな喜びを心の中から失わずにいてほしいと思います。


不幸中の幸い、とでもいいましょうか、「天保」のカンパニーのみんなはとても元気です。

昨日28日には、劇場にお客様がいない状態で1回、「天保十二年のシェイクスピア」を上演しました。以前より告知していた「DVD・Blu-ray」用の撮影のためでした。

この経験は、僕ら(きっと「僕ら」と言っていいと思う)の演劇人生において、とても大切で、忘れがたい時間となりました。客席には誰も座っていなかったけれど、決して「無観客」ではなかった。そう感じたのです。

井上ひさしというひとりの人間の思いが生み出した演劇に生かされた僕ら演劇人たちは同時に、演劇を愛するみなさん方ひとりひとりの思いによっても、生かされているのですね。

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予定していた大千穐楽は迎えられずに、このような形の幕引きとなってしまいましたが、それでもこうしてみな健康に、最後のステージまでの期間をつとめあげられたという事実に心から感謝します。

また、上演決定の瞬間から今日の日まで、この作品とカンパニーに想いを寄せ、応援してくださったあなたにも、心の底から感謝しております。

「ひとまずおしまい」ということになりますが、ぜひぜひ映像ディスクがお手元に届く日を楽しみにしていてください。

もしお申し込みがまだの方がいらっしゃいましたら、下のリンクよりお手続きいただけます。


この作品を通して、本当に多くのことを学びました。稽古場も、楽屋も、板の上も、全ての瞬間がかけがえのないものでした。間違いなくこれからの僕にとって、財産となる経験です。

おそらくですが「天保」についてはこのあともいくつかの記事を書くことになると思います。自分の思いや感じたことを記録として残すため。そして、これからもひとりでも多くの方にこの作品のことを知ってもらうために。


たくさんの応援をありがとうございました。

みなさまの拍手や、笑い声や、真剣な眼差しや、笑顔や、そして言葉にどれだけ支えられ、気持ちが救われたかわかりません。本当に感謝しています。

またいつかお会いできる日がくることを願い、僕はまた僕として、日々精進して参りたいと思います。

この度は本当にありがとうございました。

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山野靖博

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