エロくてエモいあの和音
ジャージーボーイズ、本日のマチネで12公演が終了。
全国ツアー含めた全体のうちの25%ぐらいが終わったってことになりますね。約1/4。そう考えるとあっという間だなあ。
毎公演、満席の劇場で、たくさんの方がご観劇くださっています。ひとりでも多くの方の心に「ワクワク」や「喜び」あるいは「明日を生きる活力」みたいなものをお届けできたら幸せだなあと思っています。
きっと見てくださる方々それぞれに、胸踊るシーンがあることと思います。
そしてもちろん、僕にも、大好きなシーンがあります。
それを挙げはじめると、まあ、キリがないんだけど、特に好きなのは。
ボブ・ゴーディオがジョー・ペシの紹介で、スリー・ラヴァーズ(トミー・デヴィート、ニック・マッシ、フランキー・ヴァリ)たちと出会うところ。
そこで 「Cry fo me」 が歌われるあのシーンが、本当に好きなのです。
「ジャージーボーイズ」という物語を担っていく4人がようやく出会うシーンだからというのもあるでしょう。でもその出会い方が「音楽」によって導かれているのが本当に素敵で。
「Cry fo me」 の曲の冒頭。ボブ・ゴーディオ自ら弾くピアノで奏でられるのが「B♭7+5」という和音。
これがエモい、そしてエロい。
この和音がとってもセンセーショナルに響いて、「ボブ・ゴーディオという最後のピース」の存在感の特殊さを象徴しています。
いや、マジでエロい。
じつはこのジャージーボーイズという作品、1幕前半の楽曲の和音進行の7〜8割は定型なのです。それが「 Ⅰ → Ⅵ → Ⅱ(or Ⅳ) → Ⅴ 」という進行。
で、たとえば「I go ape」と「Short shorts」はブルース進行だったりして上の定型からは外れる。「まだ売れてないパッとしないグループ」を象徴する「 Ⅰ → Ⅵ → Ⅱ(or Ⅳ) → Ⅴ 」の進行から外れてるのがこの2曲なワケです。
ハンクを入れたシーンでの「I go ape」と、ボブ・ゴーディオがロイヤル・ティーンズと作った「Short shorts」は「まだ売れてないトミーたち」の音楽とは違うから。
あと、「I can't give you anything but love」と「I'm in the mood for love」も「 Ⅰ → Ⅵ → Ⅱ(or Ⅳ) → Ⅴ 」の進行からは外れます。この2曲はスタンダードジャズだから。
で、さっきの エロい and エモい と騒いだ「B♭7+5」って和音ですが。
上にあげた「 Ⅰ → Ⅵ → Ⅱ(or Ⅳ) → Ⅴ 」進行の曲のなかにも、イレギュラーな4曲のなかにも、いっさい出てこないのです。ええ、一度も。
「B♭7+5」ってのは「オーギュメント=増三和音」の響きを持っているんですが、厳密に言うと、増三和音は「I can't give you anything but love」と「I'm in the mood for love」の2曲のなかには出てきます。
けれど、どちらも経過和音的に出てくるので、そんなに印象的に抜けては聞こえてこない。
が!
天才ボブ・ゴーディオはそんな「ジャージーボーイズの幕が上がってきてから積み上げられてきた音楽的お約束」を1発目からぶっ壊してきます。笑
じゃらららーーーーん!!!!(どや)
って。笑
ボビーが弾く「B♭7+5」の構成音は「B♭ - D - F# - A♭」ですが、それがうまいこと転回されて、楽譜上は「A♭ - D - F# - B♭」という積み上げになっています。
そうすると!なにが!起こるのか!というと!!!
和音の下の方に「A♭ - D」という増四度音程が出現。(僕は増四度フェチです。ウェストサイド物語の最も重要なモチーフも増四度)
そして、「D - F# - B♭」には長三度を2つ重ねた増三度が出現。
ああああああ!!!!!センセーショナルっっっっ!!!!!
このセンセーショナルさ、なかなか文章だけだと伝わらないと思うんですけど笑
いわば、ずっとハイボールやホッピーばっかり飲んでた田舎の大学生の飲み会に、急に都会からきた新入生が参加して、なに飲む?って聞いたら「僕はキールロワイヤルを」っと注文されたぐらいの!!!!
それぐらいのセンセーショナルさです。笑
なんや!?!?ぜんっぜん違うやつがきたやん!!!!!
というワクワク感。
で、それをみんなで飲んでみたら
は!!!キールロワイヤル、美味いやん!!!!!
ってなったみたいな。
・・・・・伝わってんのかなあこれ。苦笑
あと「Cry fo me」の曲中には、ドミナントとして「B♭(-9)」っていう和音が使われるんですが、これもニクいよね。
え!そうですか!ドミナントでは「B♭7+5」は使わないんですか!!!!
みたいな。
わざとルート音とぶつかる「-9」入れてきますか!!!!!
みたいな。
でも、サビにいく手前の1発だけ「B♭+5」使ってくるぜコイツ・・・みたいな。笑
ボビーがあのグループに入ることを決めたのも、フランキーが歌う「I'm in the mood for love」を聞いたから。
手垢のついた「じいちゃんばあちゃん向け」なスタンダードジャズを、超人的な音域と音形のフェイクで歌い上げるフランキーに、それこそひと目惚れしちゃうんだと思うし。
フランキーはフランキーで、それまでのグループにはなかったセンセーショナルな響きを持った楽曲とボビーの天才性に、身体のどこかが確実に共鳴したんだと思うし。
その「音楽に導かれた出会い」が、のちにフォーシーズンズとなる4人を引き合わせたっていうのが、なんともロマンチックかつドラマチックじゃないですか。
すこーしマニアックな内容でしたが。
和音の種類とかは全然わからなくても良いですので、サントラで音楽を聴いたり、あるいはこれからご観劇いただける機会があるみなさまには
コレが山野のいってた
エロくてエモい「じゃららら〜ん」か!
と思って聴いていただければ嬉しいです。笑
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