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【決算書分析】ホンダの「ネットキャッシュ」はどう計算する?

2021年3月期の決算を発表する企業が相次ぎ、大手企業の業績や業界の明暗が毎日のように新聞紙面を飾っています。

5月15日 日経新聞朝刊に掲載されたホンダをめぐる記事について、質問を受けたのでここに解説させていただきます。

該当の記事は↑↑。前日の決算説明会↓↓を受けての記事ですね。

私が受けた質問の内容は、記事終盤にある「手元資金から有利子負債を差し引いたネットキャッシュ(金融事業を除く)は21年3月末で約2兆円あり」の箇所。用語の定義についての質問でした。

記事によるとネットキャッシュの算出法はこうなりますね。

ネットキャッシュ = 手元資金 + 有利子負債

しかし、決算書(財務三表)には「ネットキャッシュ」も「手元資金」も「有利子負債」も、記載項目として存在しないので記事内容と決算書との照合がしづらくなっています。

そこで、ここではその照合方法を探りましょう。今後のホンダの決算書や、たしゃの決算書でネットキャッシュを知りたいときには自力で確認できるようになりますからね!

ホンダの決算書について

ホンダの決算書は「国際会計基準(IFRS)」に基づいて作成されています。
まだまだ日本国内では日本基準や米国会計基準の企業が多いので、見慣れない感じがするかもしれません。

ここで最低限知っておきたいことは、通常「貸借対照表(バランスシート)」と呼ばれる書類はIFRSだと「財政状態計算書」と呼ばれます。
(ちなみ私はIFRSを「イファース」と発音する派です)

もう1点。ホンダのような自動車メーカーは、消費者や販売店向けにローンなどの貸し付けをするなど「金融事業」を含んでいることがあります。

製造業と金融業とでは、収益や資産のバランスが大きくことなるため、これを一緒くたにした決算書では、事業の実態がつかみにくかったりもします。

そこでホンダは通常の決算書とは別に、「金融事業」と「それ以外」とを区分した決算書を公開しています。これはトヨタなども同様です。

上記日経記事も「金融を除く」とただし書きがありましたよね。

ホンダは、これを区分した決算書も併せて公開しています。

↑↑この文書の2ページめからが「事業会社と金融子会社を区分した連結財政状態計算書」となっていますね。タイトル設定してあげてよ、ホンダさん。

ホンダの手元資金

ネットキャッシュの計算式を再確認すると ↓↓ でしたよね。

ネットキャッシュ = 手元資金 ー 有利子負債 

ということで、手元資金から確認しましょう。

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「資産の部」→【事業会社】→「流動資産」→「現金及び現金同等物」の欄に、2,528,369とあります。
(右列の「当連結会計年度末」、単位:百万円)
つまり、約2兆5000億円が「手元資金(キャッシュ)」ということです。

「貸借対照表」ではここに「現金及び預金」と記載します。記載による違いはおもに定期預金の扱い方です。
「現金及び現金同等物」では満期まで6ヶ月以内の定期預金しか含めません。「現金及び預金」では1年以内までが含まれます。

ちなみに「現金及び現金同等物」は「キャッシュ・フロー計算書」にも記載がありますので、増減の理由を詳しく知ることが可能です。

ホンダの有利子負債

日本基準の決算書だと「貸借対照表」に「社債」とか「借入金」といった項目があり、それらの項目を合計して「有利子負債」を算出します。

ホンダの(IFRSの)「財政状態計算書」では、これらが「資金調達に係る負債」とひとくくりにされています。これがすべて「有利子」なのかどうか、はっきりしないところもあるのですが、ここではこの項目を「有利子負債」とみなして問題ないでしょう。

いま「ひとくくり」といいましたが、実際には同じ項目が2カ所に分かれています。返済までが1年以内なら「流動負債」、1年を超えてから返済するなら「非流動負債」と分けるためです。

では「財政状態計算書」から数字を拾いましょう。

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「負債及び資産の部」→【事業会社】→「流動負債
  →「資金調達に係る債務」(329,342)

「負債及び資産の部」→【事業会社】→「非流動負債
  →「資金調達に係る債務」(150,655)

これを合計すると 329,342 + 150,655 = 479,997

つまり約4,799億円となります。

ホンダのネットキャッシュ

ようやく数式に当てはめてネットキャッシュを算出します。

手元資金 2,528,369 - 有利子負債 479,997  
          = ネットキャッシュ 2,048,372

つまり約2兆円となり、日経の記事と一致しますね。めでたしめでたし!!

おしまいに、この数式の意味をかみ砕いてみましょう。

ホンダは現在(厳密には3月31日時点で)、約2兆5000億円の「現金及び現金同等物」を持っていますが、有利子負債(借金)が約5000億円あります。
借金は現金で返さなければなりませんので、2兆5000億円の現金(同等物)のうち、5000億円は返済用と考えます。でも、残りの2兆円は、ホンダが好きに使える現金(同等物)です。

借金の返済分を気にせず、経営のために好きに使える現金!
それがネットキャッシュということになります。

現実の経営では、ホンダのような企業がすぐに有利子負債全額の返済を迫られたりする可能性は低いでしょう。でも、自由に使える現金の額を知るには、ネットキャッシュがひとつの目安になると思いませんか?

どれくらいネットキャッシュがあれば十分なのか、という一律の尺度はありません。企業によってはマイナスになることも多々あります。総合的に見てホンダにとっての2兆円は十分という判断してよいでしょう。日経の記事にある「財務基盤は安定」という表現にも納得です。




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