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本の話①

【怪奇小説の傑作『ねじの回転』】
英米の怪奇小説で、発表から100年以上経つにもかかわらず、今なお高い評価を得ている作品がある。ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』である。彼は心理学者ウィリアム・ジェイムズの弟で、兄の影響か心理描写を得意とした。見えない恐怖と戦う主人公の心理描写が焦燥感を煽る傑作である。
心理学と怪奇小説は相性が良く、主人公の心理描写が細密であるほど怪奇小説は恐ろしい。ジェイムズは怪奇小説を得意としたらしく、「エドマンド・オーム卿」「古衣装の物語(ロマンス)」などの傑作短編を残している。
スティーヴン・キングは、『ねじの回転』を高く評価している。


【バロネス・オルツィと『隅の老人』】
シャーロック・ホームズが活躍した19世紀末〜20世紀初頭は短編推理小説の黄金時代だったが、シャーロック・ホームズの二番煎じみたいな探偵が多かったらしい。そんな中、バロネス・オルツィはまったく違う姿の名探偵を想像しようとして隅の老人を生んだ。
隅の老人は名前、素性、経歴が一切不明という怪人物。喫茶店の隅の席に陣取り、知り合いの新聞記者ポリーに自分が興味を持った事件のあらましと、自分の推理を語って聞かせる。安楽椅子探偵の元祖とも言われるが、検死審問を傍聴するなど自分で情報を集めているので、安楽椅子探偵ではない。


【人間の2つの顔を描いた小説】
19世紀、科学と哲学によって人間というものが分析されていく中で、人間の善と悪を「偽善」という側面から描いた小説がいくつか登場する。
「ウィリアム・ウィルスン」エドガー・アラン・ポー
「ジーキル博士とハイド氏」R・L・スティーブンソン
「ドリアン・グレイの肖像」オスカー・ワイルド
このうち、ポーの「ウィリアム・ウィルスン」だけが19世紀前半と古いが、これは天才ポーによる後の文学の主要テーマの先取りであろう。
後の2作が生まれた19世紀後半〜末は産業革命による貧富の差の拡大など社会の歪みが明らかになり始めた頃で、そうした風潮が影響を与えたのかもしれない。


【コナン・ドイルと心霊研究】
コナン・ドイルは晩年、心霊研究に没頭するが、そうした超自然現象に対する関心は早くからあったようで、「ササッサ谷の怪」など初期の心霊小説にそれが現れているほか、マン島の魔犬伝説を元に『バスカヴィル家の犬』が書かれている。
しかし、初期は論理で心霊現象を否定する側だったコナン・ドイルは、晩年には心霊現象を肯定する側に転じ、『失われた世界』の続編にあたる『霧の国』では心霊現象を実在するものとして扱っている。コティングリー妖精事件を肯定的に紹介したのもドイルである。どのような心境の変化があったものか、一ミステリーファンとしてすごく興味がある。


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