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たったひとりの最終決戦

1990年10月17日。生き方を決定づけられた。12日後に7歳になる前、この日が人生を産まれ直したバースデーだった。

ドラゴンボールのTVスペシャル『たったひとりの最終決戦』

サラリーマンの悲哀と抵抗、男の死に様を描いたアメリカン・ニューシネマ的アニメ。そんなものを見せられたら6歳の生き方が変わってしまうのも無理ない。会社員になってから「社内不適合者」と呼ばれ続けたのも、たった独りの戦士に憧れたからだ。

孫悟空の父・バーダックは戦争の最中、呪いの拳によって未来が見える体になる。未来に呪われてしまう。変えられない未来が見えてしまうのは、変えられない過去よりも苦しい。

上司であるフリーザの裏切りを知ったバーダックは仲間の血で染まったバンダナを巻き、迷彩柄の戦闘服をまとう。その姿はベトナムから帰還したランボー。惑星ベジータに戻り仲間に蜂起を促すが、サラリーマン気質であるサイヤ人たちは危機感を抱かず、そのまま長いものに巻かれる。孤立したバーダックは、それでも圧政に屈するわけでも逃亡するわけでなく、たった独りで強大な敵に立ち向かう。

息子のカカロットが向かった地球に亡命すれば生き延びられるのに、勝てないと分かりきった怨敵に向かっていく。仲間を殺された怒りやチンケなプライドではない。バーダックは自分の死ぬ未来が見えている。誰よりも冷静で冷徹。なのにフリーザに向かっていく。

抵抗ではなく反抗。理由なき反抗。あるとすればサイヤ人だから。血がそうさせる。容姿や内面は変わっても血は変わらない。己の血に逆らわない。

桜は枯れる姿を見せず、そのままの姿で散っていく。滅びの美。生き様ではなく散り様。敵ではなく己に屈しない。それが戦うこと。

昨年に会社員を辞めたとき、ある女性が「いろんなものと戦ってらっしゃったんですね」とメッセージをくれた。6歳で知った自分の血がそうさせた。

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