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世界の猫案内―写真家・岩合光昭さん―

動物写真家として、世界各国の動物たちを長年に渡り撮影し続けている岩合光昭さん。野生動物のエナジーを感じさせる写真は、世界でも高い評価を受けている。中でも岩合さんが長年撮り続けているのが、猫だ。NHK BSで放送されている『岩合光昭の世界ネコ歩き』を筆頭に、さまざまな猫写真や映像を撮影し続けている。そんな日本を代表する動物写真家に、今回は世界の猫について話を伺った。

猫の顔を見て涙が溢れてきた、高校時代。

岩合さんが猫の虜になったのは、高校時代に遡るという。「高校の友人がネコ20数匹と暮らしていて、そこへ遊びに行ったことがあるんです。そのうちの可愛い三毛ネコを友人が肩に乗せて、僕の目の前に見せてくれたのですが、それまでネコを1m以内で見たことがなくて。そのネコの顔をまじまじと見ていたら、突然『あっ』と目頭が熱くなって、涙が溢れてきたんですよ。たぶんネコの魔力に魅了された瞬間だったんですけど、高校生でネコを見て泣くなんて恥ずかしいじゃないですか。だから友人が振り返る前に涙を拭って、『可愛いだろ』って言われたから、『可愛い、可愛い』って言って誤魔化したのを覚えています。たくさんいるネコの動きを見ていたら、『写真になるな』と感じていましたが、この当時はまだ撮影してなかったですね」。

 大学生になってから、拾った猫と暮らし始めた。「雨が降っている日に電信柱の下に段ボールがおいてあって、そこを開いたら子ネコが入っていたんです。そのネコたちを実家に連れて帰って、一緒に暮らすようになりました。暮らし始めてからは、一緒にいるので写真を撮るようになって、また友人の家でも写真を撮らせてもらうようになって……というのが、ネコ写真を撮り始めたきっかけですね」。

機窓から見えた、地中海の島々に猫たちを撮影したくなった。

今では世界各国の猫たちを撮影している岩合さんだが、世界中の猫を撮り始めたきっかけは旅の最中だったという。「アフリカにライオンを撮りに行った時に、ヨーロッパからアフリカ大陸に向かっている機窓から、地中海の島々を見下ろしていたんです。その時に、あのような島にはネコがたくさんいるんだろうなと思い、そのことを雑誌の編集長に伝えました。そしたら、『ヨーロッパに行って撮ってみる?』と言われたんで、『ネコだけ撮りに行ってもいいんですか?』という話をして、その後初めてネコだけを撮影しにヨーロッパまでいきました」。

「これまでも野生動物を撮影しにいく際、都市を経由する時にはネコの写真は撮っていました。でも、当時はデジタルカメラじゃなくてフイルムカメラだったので、フイルムを持っていく本数が限られていたんです。途中でネコを撮ってしまうとフイルムがなくなってしまうので、その辺は我慢しつつでした」。

エーゲ海をバックに佇むネコたち。

初めて猫だけを撮影しに行った国は、トルコやイタリア、ギリシャが中心だったそう。「地中海を中心に、おそらく最も都市の中でネコが多いと言われている、トルコのイスタンブールはもちろん、イタリアのローマとベネチア、あとはギリシャへ行きました。エーゲ海の島々を回って、ネコが必ずいるサントリーニ島にも行きましたね」。

地域や育てる人によって、異なる猫の性格。

各国の猫たちを撮影している岩合さんだが、国によって猫たちの性質や性格は異なるのかを聞いてみた。「ヒトが違えばネコも違いますからね」と話す。「国や街、村、集落、いろいろな形があるので一概には言えないです。僕は撮影をする前に必ずネコに挨拶をするようにしているのですが、アメリカからイギリスへ行った際、ロンドンのネコに『Good morning』とアメリカ英語で声をかけたんですよ。そしたら無視されたので、これは違ったと思ってイギリス英語に切り替えて挨拶し直したら、向こうもこちらをちゃんと見てくれた。イギリスのネコは気高く、イタリアのオスネコは自己主張が強く、ギリシャのネコは誇り高い顔をしているなど、環境や一緒に暮らすヒトによってネコも、性格のようなものが変わってくると思います」

ロンドンで出会ったネコ。

「土地によってどんなネコがいるのかわからないので、今回はどんなネコたちに会えるのかということを楽しみにしています」。これまで数々の国で数えきれないほどの猫と出会っている岩合さんだが、中でも印象に残っている猫について聞いてみると、「シチリアのコルネオーネというマフィアの親分が育った集落で出会った、オスネコです。初めて出会った時のことが忘れられずに、1年半後にNHKの番組で再度撮影しにいきました。番組のディレクターに話し、現地のヒトにそのネコのことを探してもらったのですが、『残念ながら子どもはいるけど、そのネコ自体は亡くなってしまっているよ』と言われたんです」。

それでもどうしても諦めきれず、シチリアへ渡り撮影しに行ったところ、驚くべきことが起こったという。「実は彼には街の中で7つほど名前があったんです。僕が知っていたのはドメニコという名前だったのですが、異なる名前で呼ばれていたから見つからなかったんですね(笑)。シチリアでもう一度、無事に会うことができました」。

7つの名前を持つボスネコ「ドメニコ」。

そして、ドメニコの1日の行動は驚きの連続だったという。「まずは魚屋さんに行って魚を食べ、次にお肉屋さんへ行ってお肉をもらう。そのあとカフェに行って、クロワッサンを食べるという、優雅な生活を送っていました。彼が教会の前で昼寝をする時間になったので、僕らも昼食休憩をとっていました。その時カフェの店員に、『今一番いいところだったのに撮ってなかったのか』と言われ、何事かと聞いてみたら、ドメニコが昼寝をしながらハトをジャンプして捕まえたと。ドメニコを見にいくと、草むらでハトを食べていたんです(笑)」。と当時の様子を思い出しながら話してくれた。

国や気候によって、猫の見た目は変わってくる。

環境や人によって性格が異なるという話をしていた猫だが、体格などは気候や風土によって変わってくるという。「ヨーロッパでも北へいくとネコの体は大きくなります。他の野生動物もそうなのですが、寒さに耐えるために体が大きくなるのが自然なんじゃないかと思います。ノルウェージャンフォレストキャットなんて毛が長いし、身体も大きいですよね。山で暮らしているネコは、行動範囲が広いんですよね」。

ミャンマーの湖上で暮らすネコ家族。

最後に日本の猫の印象についても聞いてみた。「NHKの番組では、47都道府県中、45都道府県に行っています。この前放送された回では、白川郷の合掌造りへ行き、日本家屋とともにネコを撮影しました。海外でもそうですが、歴史的建造物とネコは調和します。彼らの遺伝子はヒトと生きるようになっても、ほとんど変化していないので、古い建物とヒトよりもマッチしたりします」と話してくれた。「ネコはとても表情が豊かな生き物。昔、『ネコには表情がない』と言われたことがあるのですが、そんなことはありません。ネコはイヌと違って、ヒトによって変化させられることがあまりなかった。野性味を残している体だからこそ、動きが魅力的です。撮影をする時にも、動きの中から、表情の中から、ネコの野性味みたいなものを引き出そうとしています」

岐阜で撮影した田んぼを歩くネコ。

今後も猫をはじめ、さまざまな動物を撮影する機会が控えているという岩合さん。世界中の動物たちを撮ってきたからこそ見えるものについて、また話を伺いたい。

岩合光昭(いわごう・みつあき)
動物写真家。野生動物の息吹を感じるその写真は「ナショナル ジオ グラフィック」誌の表紙を2度も飾るなど、 世界的に高く評価されている。ライフワークともいえるネコの撮影にも力を入れ、NHK BS『岩合光昭の世界ネコ歩き』が好評放送中。著書多数。映画「ねことじいちゃん(2019)」「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族(2021)」で監督をつとめる。

スタッフクレジット:
photo:Toshiyuki Tamai edit&text:Makoto Tozuka
Produced by MCS(Magazine House Creative Studio)

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