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熊野谷葉子『マトリョーシカのルーツを探して 「日本起源説」の謎を追う』 岩波書店

ロシア土産のマトリョーシカ、ずんぐりした形の人形で、ひねると上下に分かれて、中から一回り小さい人形が出てくる。それを開けると、さらに小さい人形が出てくる。また、それを開けるともう一つの人形が、次々と出てくることがユーモラスである。

だれもがロシアの古くからの工芸品ではと思っていると思うが、実は、19世紀末ころ、「子どもの教育」という玩具・雑貨店の付属工房で製作されたのが始まりのようである。手作りの素朴な民芸玩具ではなく、最初から都会の店で販売することを目的とした。

では、日本ルーツ説はどこから来ているのであろうか。著者は、2007年のNHKテレビ「ロシア語会話」の番組で、モスクワ州セルギェフ・ポサードのおもちゃ博物館の館員が、マトリョーシカの生れたいきさつを説明しているのを見たことから興味を持ったそうである。

その館員は、二説あるとし、一つは、日本の人形から生れたというもの、二つ目は、昔からの木工ろくろの技術で、復活祭の卵の入れ子などを作っており、これが起源となったというものだと説明した。

日本起源説は、日本の入れ子七福神だというもので、日本の本州からもたらされたものだという説がソ連で言い始められたが、その起源が外国にあったとすることへの反発もある。

箱根で、幕末か明治初年に一人挽きろくろが登場したことで、挽き物の生産効率が上がり、入れ子細工のような小さく薄い挽物の大量生産が可能となり、入れ子七福神などの挽き物玩具を作り、輸出をし始めた。

著者が、ロシアに行くたびに、マトリョーシカについて聴き取りしたほか、日本国内でも調査をしてまとめたものが本書である。マトリョーシカなど、玩具について興味がある人ばかりでなく、木地師など木工技術に興味がある人は読む価値があると思う。ロシア民俗学を専門とする著者であり、内容が信頼できる。


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