見出し画像

尹雄大『聞くこと、話すこと。 人が本当のことを口にするとき』大和書房

著者は多くの人とインタビューセッションを行っているが、本書はいわゆる対談集ではない。

第1章は、映画監督、脚本家の濱口竜介さん
第2章は、教育学者で、琉球大学教授の上間陽子さん
第3章は、ユマニチュードを日本に紹介したイヴ・ジネストさんと、医師の本田美和子さん
第4章は、建築家で作家でもある坂口恭平さん

著者が行っているインタビューセッションは、一般の人から、ただ相手の話を聞くだけのもので、カウンセリングでも、悩み相談でもない。

本書に登場する人たちは、いずれも表現者であり、初対面かもしれないが、誰にも言ったことがないことを言葉にしているわけでもないであろう。

しかし、著者にとって、いずれにも共感をしようとしないし、共感を手がかりに話を理解しようとしないことが共通なのかもしれない。

著者は、「積極的に受け身」であることを重視し、まず相手の声や表現や雰囲気、存在が著者にとってどういうものかひたすら感覚することから始めるしかないとする。

相手が話しきるのを待つ。言い淀んだり、言葉が出てこないあいだも待つという。誰もわかってほしいがわかられたくない気持ちを抱えている、他人と私は違うのだから、わかるはずはないとする。

自分のものの見方は、どこに立って、どの角度から、どのように見ているから成り立っているのか。自分の見方について省みる。これを徹底して客観性になりうるかもしれないとする。

私たちは物事のジャッジするとき、善悪は対象に属していると思っている。そうではなく、自分の解釈が善悪正誤を決めているのだという。

自分への観察を行っていると、自分の気持ちや感情を伝えることへの怖れが出てくる。怖れを大事にするとは、拘束感や圧迫感がやってくることを避けるのではなく、目を瞑ってなかったことにするのでもなく、積極的に受け身になって迎え入れることだという。

対談相手について興味がある人は、著者がインタビューを通じて言葉について得たことを知るために読むことを薦めたい。言葉について考えてみたいみたい人は、インタビューを通じて他者の言葉に耳を傾け、話すことの意味を考えるために読むことを薦めたい。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?