見出し画像

マイホーム


 ◆くつろぎ

 人にも動物にも、居場所があることは重要だ。
 どうやら、我が家の盲導犬・エヴァンはダイニングのテーブルの下が、最も居心地がいいらしい。

 エヴァンの夕食は六時前後と早い。家族がゆっくり食べたり吞んだりするのを、ケージのそばで忙しく尻尾を振りながら、見ている。そのうち就寝前のワン・ツー(トイレ)。庭で済ませて戻ると、リードを外され、指定席でくつろぐことができる。

 日課になっているので、この流れがすっかり理解できている。妻がワン・ツーに連れて行った時など、飛ぶような勢いで帰ってくる。何をするでもなく、ただテーブルの下で寝そべっているだけだが、私が「ツー・ザ・ベッド(お休み)」と言うまで動かない。

 ◆失われた時間

 二〇二〇年六月、大阪の日本ライトハウス盲導犬訓練所で三週間の合宿訓練を受けた。この時、エヴァンが私と部屋にいる間は、リードでつないであった。そういうものだと思い込み、徳島でも昼間は治療院に、夜はケージのそばにつないでいた。

 訓練士が定期的な巡回訪問時に「リードを外して、そばにいてやってくださいね」と言ったことがあった。以前も言われていたのを、おそらく聞き漏らしていたのだろう。この空白の時間を、とても申し訳なく思った。

 ◆前科の数々

 実は、リードを外すことには抵抗があった。
 外出から戻り、私が玄関でモタモタしていて、ダイニングに逃走したことがあった。家庭犬のシモンが食べ残したエサに一直線。あるいは、置いてある野菜を狙う。ある時など、福島の友人から贈られたデラウェアの高級品をくわえていた。もう野に放った虎みたいだった。

 寂しそうに一家のだんらんを眺めている日々が、続いていた。訓練士の来訪は、エヴァンにとって願ってもないタイミングだった。お許しが出たわけだ。
 しかし、油断はできない。焼き魚をつつきながら一杯やっていて、いつの間にか魚が完食されていた。以来、食べ物はテーブルの真ん中へんに置くことにしている。

 ◆怖い先祖返り

 元々は、山野を駆け巡り、狩りをして暮らしていた。集団で行動するなどの社会性から、人間にも馴染み、やがて飼い犬となったものだろう。

 それから、とてつもなく長い年月が過ぎた。もう犬は人間を離れては、生きていけない。ただ、どこかに狼のDNAは残っている。捨て犬などが野犬化し、鹿などを襲うという話を聞く。家庭犬や家庭猫などから、居場所を奪ってはいけない。

(犬に関する興味深い話を集めた「犬のエッセー集」を出版しました。詳しくは My図書室|yamayamaya (note.com) で)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?