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追悼 ジェフ・ベック ①

昨年リリースされたジェフ・ベックとジョニー・デップの共作アルバム『18』
のジャケットには、18歳の頃のふたりの姿が描かれている。

このカバー・イラストはジェフ・ベックの奥方サンドラによるものだが、 オフィシャル・バイオでのベック曰く「ジョニーと俺が一緒にプレイし始めたとき、俺たちの中にあった若々しさに満ちたスピリットとクリエイティヴィティに火がついたんだ。まるで18歳の頃に戻ったみたいだなってよく冗談を言い合っていたから、そのままそれをアルバム・タイトルにすることにしたのさ」ということなので、本作の内容(非常に青春的だ)を端的に表現したアートワークと言えるだろう。

非常に残念なことに、ジェフ・ベックにとって最後の作品となってしまったこのアルバム・カバーを初めて見た時、私が思い出したのが、1989年の来日公演で目の当たりにした彼の姿だ。 

その時の日本ツアーは、ベックの他にも複数のアクトが出演、メインであるベックのステージは、当時リリースされたばかりの傑作アルバム『ギター・ショップ』を中心としたスリリングで強烈なものだった。

ベースレスのトリオ編成のなか、終始トリッキーかつ奔放なプレイを繰り出すベックのギターは圧倒的で、今まで観たどのロック・コンサートとも違った緊張感がステージを支配していたことを今でも覚えている。

ただでさえ刺激的なベックのギターをこの時、さらにアグレッシヴにしていたのが、アルバムでも強力なビートを叩き出していたテリー・ボジオで、当時この超絶ドラマーがデヴィッド・ボウイのバンド、ティン・マシーンのメンバー候補だったとは思いもよらなかった。

そして、そのライヴが終わったあと、次に出演するこの日の大トリ、チャック・ベリー(!)を呼び込むMCとして、再度ステージに現れたベックの颯爽とした姿がとても印象的だった。

まず、ギターを持たずに(当たり前だ)登場した”丸腰のジェフ・ベック” がやけにインパクトがあった。それだけ彼にとって、ギターという楽器は身体の一部になっているということなのだろうが、偉大なる先達(実際、舞台裏では例のごとく、バックバンドを現地で調達するチャックのワガママぶりに辟易していたようだが)をオーディエンスに紹介する当時45歳のギター少年はどこか初々しく、ほんとうに少年のように見えた。

ほんの僅かな瞬間だったが、この時、ジェフ・ベックというアーティストの実像に触れたような気がした。

60年代半ばにヤードバーズのギタリストとしてシーンに登場して以来、決してひとつの場所に留まることなく、いつの時代も革新的ギター・プレイヤーであり続けた彼もまた、当然のことながら自己の音楽ルーツにとても忠実なミュージシャンなのだと思った。

彼が50年代ロックンロールの洗礼を受け、特にロカビリーがそのギター・スタイルの原点であることはファンにはよく知られているが、彼の作品の多くには、アメリカ黒人音楽への憧憬がストレートに表現されていると思う。

この日、ギター・インストで演奏された”ピープル・ゲット・レディ”もその想いに溢れていたが、カバー曲が大半を占める『18』でも、ヤードバーズを脱退した頃の彼にとって、癒しになっていたというビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』からのカバーとともに、2曲のモータウン・クラシックがとてもいい仕上がりだ。

しかし、『ギター・ショップ』から10年間、オリジナル・アルバムが発表されなかったことや、その後のアルバムに馴染めなかったこともあって、彼の音楽とは少しずつ、疎遠になっていった。


自分にとって再びベックの存在が大きなものとなったのが、2012年11月のロンドン、O2アリーナで行われたローリング・ストーンズのコンサートで客演した ”ゴーイング・ダウン”を動画サイトで見たことだった。

https://www.youtube.com/watch?v=kZoXUtFL1eA


そのプレイはあまりにも鮮烈だった。当夜の主役たちを完全に圧倒していた。
第2期ジェフ・ベック・グループのセカンドに収録、以降ジャム・セッション等でも取り上げられることが多かったナンバーだが、ここで炸裂するベックのギターは凄まじくエッジーで、またも進化していた。

最初はストーンズのサウンドにまるでそぐわない、やたらハイパーでエキセントリックな音にも聞こえたが、ロック界最高のヴォーカルに呼応しつつ、とてつもなくソウルフルでエモーショナルな音をしていた。

10代の頃の自分にとって、最も深いエモーションを感じさせるギタリストであると同時に、エレキギターの「音」そのものでロック特有の”衝動” を表現し得るジェフ・ベックは唯一無二の存在だったが、最後までそれは変わりなかった。


今年1月10日、細菌性髄膜炎のために亡くなったジェフ・ベックの葬儀は、2月3日に故郷ロンドンで執り行われたという。
ロッド・スチュワートやエリック・クラプトン、ロバート・プラント、最後の音楽パートナーだったジョニー・デップほか錚々たる顔ぶれが出席、ジミー・ペイジの弔辞が読み上げられたとのこと。

”ロック・ギタリスト”、ジェフ・ベックの心からのご冥福をお祈りいたします。






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