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怒りをこめてふり返れ 1979/2017

デヴィッド・ボウイ、アルバム『ロジャー』(1979年)収録の ”Look Back In Anger” は、3分間の長さながら雄大なスケールを感じさせるナンバーで、カルロス・アロマー(ギター)による中盤のソロ・パートや、デニス・デイヴィス(ドラムス)が鳴らすライド・シンバルのベルがこの曲に疾走感をもたらしている。

ボウイが最高のリズム・セクションを有していたこの時期、そのデイヴィス、アロマー、ジョージ・マーレイ(ベース)からなる ”DAMトリオ” の強靭なブラック・ミュージックのリズムはここでも格別なのだが、このオリジナル・ヴァージョンで注目したいのは、デイヴィスによるコンガがオーヴァーダビングされていること。

ミキシング/音質面に不満が残る『ロジャー』では、その演奏はほとんど聴き取れず、以降のリマスター音源でもほぼ同じ印象(イントロ部分でほんの少し聴こえる)だったのだが、同作プロデューサーのトニー・ヴィスコンティが生前のボウイから了承を得たうえでリミックスを行った "2017 Tony Visconti Mix"(ボックス・セット『ア・ニュー・キャリア・イン・ア・ニュー・タウン1977-1982』収録)では、デイヴィスのドラムスがより前面に押し出されたクリアなサウンドに生まれ変わっており、この曲でのコンガ・プレイも以前より聴き取れるようになった。

こうした重層的なリズム・アレンジは、この曲ならびに『ロジャー』が当初からアフリカ音楽、ワールド・ミュージック的視座を持ち合せていた証左となるものだが、これにはやはり前年(正確には1977年~78年か)旅行で訪れたケニア滞在が影響しているのだろうか。

ちなみに、ボウイは1977年8月16日のエルヴィス・プレスリー死去を当時滞在していた西ケニアで知ったという。(2002年8月16日コンサートMCより)

話を元に戻すと、残念ながらデイヴィスは(ボウイ逝去から3か月後の)2016年4月に亡くなっているのだが、彼の御子息ヒカル君がその後、かつて父と共演したミュージシャンやプロデューサーにインタビューを行い、父の足跡をたどる"Tracing My Dad"という映像企画があった。

(別の回では前出のアロマーやマーレイも出演した)このシリーズには、トニー・ヴィスコンティも2018年に登場、当時11歳のヒカル君をスタジオに招き、デイヴィスのプレイでフェイヴァリットだというこの曲から彼のドラムとコンガ演奏を抜き出した"Isolated Tracks"を公開している。


ここでヴィスコンティが賛辞を惜しまないデイヴィスの ”雷のような”ドラムやコンガ・トラック(いつ聴いても素晴らしい)に耳を傾けると、改めてこの曲/この時期のボウイ楽曲における彼の貢献やリズム・サウンドの重要性に気付かされるし、パーカッシヴなアレンジが施されたこの曲をライヴ等で聴いてみたかった気もする。
(ただし、2002年ツアーで演奏されたこの曲では、キャサリン・ラッセルのパーカッションがフィーチャーされている。)

映像でヴィスコンティが話している通り、ハイハットやトップ(ライド)・シンバル、タムフィルなど多くの音を鳴らしながらも、決してせわしなくならない(聴こえない)デイヴィスのドラミングはそうした意味で実に適切で、エレガントなのである。

ヴィスコンティの解説を聞きながら、最高のドラム・プレイに接したヒカル君はこれまで以上に亡き父のことを誇らしく思っただろう。



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