見出し画像

Did you play at maximum volume?

海外では先週から劇場公開が始まったデヴィッド・ボウイの公式ドキュメンタリー映画、"Moonage Daydream"(ブレット・モーゲン 脚本、監督)。

なぜか日本での公開は来年3月とのことだが(国内のIMAX上映館数が確保できなかったとでもいうのか)ここは気を取り直して、同時にストリーミング配信が開始された今作のサウンドトラック盤を聴いている。

長さ2時間以上、CD2枚組(日本では11月18日発売)のサントラ盤は、ボウイの主要曲を収めながらも一部ユニークな選曲がなされており、この映画のため新たにミックス、エディットされた音源を多数収録。他にもこれまで未発表だった音源、そしてボウイ本人によるダイアログ(映画のナレーションは彼自身が務めているという)等で構成されている。

ちなみに、ここでは抜粋版が収録されているフィリップ・グラス、ヒーローズ・シンフォニーの2曲は、2007年版のボーンマス交響楽団による演奏で、指揮者はつい先日、日本ツアーを終えたばかりのマリン・オールソップ。


まず、今回の目玉といっていい未発表音源3曲について触れておくと、ついにオフィシャル登場となったジェフ・ベック参加の”ジーン・ジニー"は、1973年7月3日のロンドン、ハマースミスのジギー・スターダスト最終公演からの音源。本盤では前半を中心に、同日パフォーマンスから他3曲(内1つはメドレー形式)ピックアップされているのが目を引くが、やはり映画『ジギー・スターダスト』(D.A.ペネべイカー監督)からのライヴ・フッテージは、本映画でもハイライトのひとつになっていると思われる。

続いて、本サントラ最大の収穫と言えるのが、『ハンキー・ドリー』収録の”流砂”の初期ヴァージョン。ストリングスが加えられる前の別ヴォーカルで、”2021ミックス”と表記されているが、映画ではどのように使われているのだろうか。
ボウイのハスキーなヴォーカルも味わいのある1974年、バッファロー公演の”ロックン・ロール・ウィズ・ミー”もいいライヴ・テイクだ。

そして、今回の新ミックス、エディット音源についてだが、"Moonage Daydream Mix"の名が冠せられた前者の大きな特徴は、ボウイが残したオリジナル音源から一部ヴォーカルや伴奏トラックを取り出し、他曲へ移し替えるなどの大胆なリミックスが積極的に行われていることだ。

そうした意味で、本盤の音楽プロデュースを務めたトニー・ヴィスコンティが以前(2013年)製作した 回顧展 "David Bowie is" 用のマッシュアップ音源に近い印象を持ったのだが、オフィシャルのプレスリリースには、その"Musical Mush-Ups Designed and Edited"にブレット・モーゲン監督の名が記されており、今回の異なる楽曲トラックを組み合わせるアイディアは、監督自身によるものだということか。

当のアーティスト不在で作られたこうした音源については、当然のことながら、純粋なボウイ作品として認めることはできないが、個人的にはあくまでこの映画のサウンドトラック作品として捉えればいいという気がしている。

オールド・ファンは、以前ジョージ・マーティン親子がシルク・ド・ソレイユのミュージカル・サウンドトラックとして制作したビートルズのリミックス・アルバム『LOVE』(2006年)のような位置付けをすればいいのではないか。

ただし、それと各トラックの出来の良し悪しとは話が別だ。
オリジナルを基にしたヴァージョンの途中で後年のライヴ演奏(1997年1月9日、MSGでのバースデイ・コンサートの音源と思われる)に切り替わる”スペイス・オディティ” などは、趣向としては面白いが、それはあくまで映画本編で使用すればいいのであって、一部のごく短い楽曲フラグメント共々、こうした音源を作品として発表する(音盤化する)必要があるだろうか。
また、ほとんどバックキング・トラックだけになった"D.J."や”モダン・ラヴ”も、何の面白みのない、凡庸なヴァージョンになっていると言わざるを得ない。

しかし、その他方で、シャトーデルヴィルのスタジオに紛れ込んでしまったようなオープニングが鮮やかな”サウンド・アンド・ヴィジョン”や、バックトラックに”ステイション・トゥ・ステイション”(ライヴ)のイントロ・パートが重ねられた”フリー・フェスティヴァルの思い出”などは、なかなかの好ヴァージョンに仕上がっていると思う。前者での聞き馴れないボウイのヴォーカルや、”ニュー・キャリア・イン・ア・ニュー・タウン”のギター・パートはどこから引っ張ってきたのだろう。

18秒ながら、”すべての若き野郎ども”が聞こえてくる ”ムーヴ・オン” の逆再生ヴァージョンも嬉しいサプライズだが、こういうのをCDの隠しトラックで収録してくれれば、もっと気が利いていたのにと思う。

ライヴ・トラックは安心して聴けるものが多いが、ヴィスコンティならではの細かいワザが随所に効いていると感じた。前出1997年1月、MSG公演の音源を基にした”ハロー・スペースボーイ”では、フー・ファイターズの面々が加わったトリプル・ドラムの演奏が聴けるが、冒頭部では同日”アイム・アフレイド・オブ・アメリカンズ”のノイズ・ギターがチラッと聞こえる。


けれども、本サントラを聴き通して改めて感じたのは、やはりアーティストが生前残したオリジナル・ヴァージョンがベストであり、”決定稿”であるということで、
こう言ってはなんだが、終盤ポツンと置かれた”スターマン”のオリジナル・シングル・ミックスや”チェンジズ”を聴くと、正直ホッとする。

映画で使用されたライヴ音源と新規ミックス/エディットを中心に、未発表音源を交えたCD1枚分の編集にしていれば、もっと引き締まった内容のサントラ盤になっていただろう。

1CDヴァージョンも出してくれないかな。
とにかく、来春の映画公開を楽しみに待ちたい。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?