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「人的資本」でヒトと組織は変わるのか?〜人的資本開示と人的資本経営の違いについて〜

こんにちは、世界中のヒトや組織の可能性を拡げたい、山崎です。株式会社アトラエ で Wevox のカスタマーサクセスを担当しています。

早速ですが、本日は「人的資本」について少し語りたいと思います!

実は直近で「ISO30414(人的資本の可視化・開示の規格)」の講座を受講していまして、「ISO30414 リードコンサルタント/アセッサー」の資格を取得しました。少しだけ「人的資本」に詳しくなったので、自分自身の整理がてらアウトプットさせていただきます。

ヒトや組織に強い関心のある方々、HR領域のサービスに携わっている方々、そしてもちろん人事の方々にとって、多少は学びになる部分があると思うので、ぜひ読んでみてください!


1. 人的資本とは何か?

まず最初に、「人的資本とは何か?」から説明していきたいと思います。厚生労働省の「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」のページでは、「人的資本経営」を以下のように定義しています。

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

※経済産業省:「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~

つまり、人的資本においては「ヒトを資本と捉える」ということが大事な要素になりますね。

それでは、「資本」とは何か?
資本の定義から考えると逆に分かりづらくなると思うので、資本の対義語から考えていきたいと思います。資本の対義語が「人材版伊藤レポート2.0」の図で分かりやすくまとまっているので、引用させていただきます。

※「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~」p.7:https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

見ていただきたいのは一番上の「人材マネジメントの目的」の部分です。旧来の経営は「資源(コスト)」、人的資本経営は「資本(投資)」という対比になっていますね。

つまり、人的資本経営の文脈において「資本」の対義語は「資源」であり、「ヒトを管理の対象ではなく、その価値が伸び縮みする資本として捉えましょう」というのが、人的資本経営のベースとなる考えです。言い換えると、ヒトに関する支出を「短期的なP/L(原価や販管費)」ではなく、「中長期的なB/S」で捉えましょう、って感じですね。

2. 人的資本の歴史

では、「ヒトに関する支出をコストではなく投資として捉えましょう」という考え方は今までの日本になかったのでしょうか?答えはNOです。

かの有名な松下幸之助は「事業は人なり」という言葉を残していますし、本田宗一郎が残した「Hondaフィロソフィー」には「人間尊重」という言葉が出てきます。これらの実態がどうだったかは分かりませんが、ヒトを大事にすることの重要性は古くから説かれていたと思います。

※https://www.facebook.com/Peace.Happiness.Prosperity.jp/photos/a.144531488922268/4105437552831622/?type=3

それではなぜ今になって人的資本が盛んに唱えられるようになったのか?その歴史を以下にまとめてみたいと思います。

▼2000年以前

「人的資本(Human Capital)」という言葉が使われ始めるようになったのは1950年代後半〜1960年代前半頃のようで、セオドア・シュルツやゲイリー・ベッカーによって改めて再定義されました。「資本(Capital)」という言葉は古くから用いられていましたが、経営学の発展に伴って人に投資することの重要性に改めて注目が集まったタイミングだったようですね。

▼2001年〜2016年

21世紀に入ってから、「ESG投資」という言葉が出てきます。
2006年に国連が主導して策定した「Principles for Responsible Investment」から端を発し、GRI(Global Reporting Initiative)が企業向けのESG報告の国際的な標準を発表したり、リーマンショックを契機に投資家が持続可能な企業に資金を配分するようになったり、パリ協定の採択でESGに再度注目が集まったり…ESG投資(ひいては非財務指標)は、株式市場においてなくてはならないものになっていきます。

ちなみに、人的資本はESG投資の「Social(社会)」に位置付けられるケースが多く、実は非常に近い関係の言葉です。上場企業がIRで公開している「統合報告書(アニュアルレポート)」「サステナビリティレポート」で、ESG投資ならびに人的資本について報告しているケースが多いです。

▼2017年〜2021年

2017年にアメリカで「人的資本マネジメント連合(Human Capital Managament Coalition)」が結成され、米国証券取引委員会に対して人的資本に関する情報開示の拡大を求めるロビー活動を開始します。その結果、2020年に米国証券取引委員会が人的資本に関する情報開示をルール化します。

日本においても、2021年にコーポレートガバナンス・コードが改訂されたことによって、「人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。 」と明記されます。

▼2022年以降

2022年8月30日に「人的資本可視化指針」が策定され、2023年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」が公布・施行されます。国際的な株式市場の流れに対応する形で、日本においても有価証券報告書等における人的資本、多様性に関する開示が義務化されました。

※「人的資本可視化指針」:https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

3. 人的資本の現状

人的資本の歴史を見ていただいて分かる通り、人的資本の流れは「株式市場における人的資本(ひいては非財務指標)の可視化と開示の要求」から来ています。

そして、先ほど言及した通り、有価証券報告書等における人的資本、多様性に関する開示は既に義務化されており、2023年は「人的資本の可視化と開示」がテーマの1年だったと言っても良いかと思います。

私は「Wevox」というエンゲージメントを可視化するSaaSのカスタマーサクセスを務めていますが、2023年は「エンゲージメントや人的資本をどのように開示していけば良いですか?他社さんはどのようにされてますか?」という質問が非常に多かったと感じます。

「Wevox」のホームページに、「人的資本開示事例」のページを設けているので、各社がどのような情報開示をしているのかが気になる方はぜひご確認ください。

※「人的資本開示事例|Wevox」:https://get.wevox.io/for_humancapital_disclose

人的資本、多様性に関する開示は義務化されたものの、開示すべき情報や開示が望ましい情報が具体的に定められている訳ではなかった為、他社の様子を伺いながらリスクの発生しない範囲内で取り組みを進めていた企業が多かったように感じます。ただ、開示すべき情報や開示が望ましい情報を統一することが難しいことを考えると、ガイドラインが抽象的になってしまうことは致し方ないことのようにも思います。

それらを裏付けるかのように、2023年9月25日の日経新聞の記事で経営戦略と人材戦略を連動させた説明が不十分であることに言及しています。

人的資本開示のガイドラインとなっている「人的資本可視化指針」や「ISO30414」においても、人的投資を企業価値向上に繋げるストーリーを描くこと、意図や狙いをもった人的資本の開示を行うことが重要だと記載されています。つまり、人的資本に関するデータを開示することそのものが目的ではないので、戦略に応じて開示すべきデータを判断していくべきだという考えが根底にあるように思います。

※「人的資本可視化指針」p.6:https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

「人的資本可視化指針(+人材版伊藤レポート2.0)」と「ISO30414」の違いについてはまた別の機会で触れようと思いますが、「人的資本に関して、何をどう開示すべきか?」という観点だけでも非常に奥の深いテーマです。

4. 人的資本の今後

2023年が「人的資本の可視化と開示」の1年だったとするなら、2024年は「人的資本経営への進化」が問われる1年だと思います。

「人材版伊藤レポート2.0」では、経営戦略と連動した人材戦略について、3つの視点5つの共通要素が定められています。人的資本経営の押さえどころは、このスライド1枚にまとまっていると思います。

※「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~」p.9:https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

ちなみに、「人材版伊藤レポート2.0」が公表されたのは2022年5月13日で、人的資本開示の義務化が公布された2023年1月31日よりも半年以上前です。国際的な株式市場の流れには対応しつつも、経済産業省としては日本企業の組織変革に対して強い課題意識を持っているように思います。

「人的資本開示」が目的になってしまうと、統合報告書やサステナビリティレポートを担当する経営企画部などの部署だけで取り組みが完結し、株式市場ばかりを意識した表面的な取り組みになりかねないような気がしています。「人的資本開示」だけでは組織は変わらないと思います。

一方、「人的資本経営」を目的に置くのであれば、経営陣がリーダーシップを発揮して経営戦略と人材戦略を繋げた上で、人事やIR担当などの社内のステークホルダーと連携しながら、会社全体で取り組みを推進する必要があります。「人的資本開示」の流れを契機に、「人的資本経営」に意志と想いを持つ人たちを増やしていかなければならないなと感じています。

5. 最後に

「人材版伊藤レポート2.0」の要素④にも出てきている通り、「従業員エンゲージメント」は人的資本経営において非常に重要な要素です。

Wevoxはエンゲージメントの可視化だけにとどまらず、「組織力向上プラットフォーム」として「きづき」から「行動変容」までトータルでご支援しています。

弊社アトラエでは採用も引き続き強化しておりますので、少しでも興味を持っていただけたようであれば、以下のページもぜひご確認ください。

もし私宛に何かございましたら、Xから「@YamazakiTosh」に直接メッセージをお送りいただければ幸いです。引き続き、ヒトや組織に関する情報発信をしていきたいと思います!


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