脚本:「あばら屋の少年少女」第一話

「あばら屋の少年少女」
第一話

-回想-
○商店街(夜)
 冬。雑踏の誰も気にしていない細道の奥に、光の漏れている隠れ家のようなあばら屋。
 それが気になり、親が離れた隙にあばら屋のドアを開ける幼い女の子。
○あばら屋
 雑貨屋のような、駄菓子屋のような、物がいっぱい詰まった棚。その中にあるキラキラした眼球を摘み、光に晒す。虹色の光が反射している。
 後ろから少年がやってくる。目元は暗くてよく見えない。
少年「お嬢ちゃん、お目が高い。目だけにね。それにする?」
 -回想内モノローグ-
「そう聞かれた」
「その時、頷いた気がする」
-回想終了-

○家の中
 髪を乾かす高校生の少女。制服。左目には白いガーゼを付けている。
モノローグ「私の目は、いつからか、人間の嘘が見えるようになった」
○下校中(夕)
 学校が終わり、下校時。チャットアプリからメッセージ。母から、「待ち合わせ場所って商店街を行った先?それとも、駅前」。「駅前で」と返答
 下校中。街ゆく人。言葉が黒い煙みたいに立ち込めている。
モノローグ「この街は嘘ばっかりだ。いや、どの街も」
 そこで、嘘が映らない人物を見つける。思わず後を尾ける。その人物は商店街の大通りから外れた細道を行ってしまった。
 暗く曲がりくねった細道を行く。最奥に、光が溢れているあばら屋。不審に思いつつ、ドアを開ける。
 かつて見た光景と同じ、雑貨屋と駄菓子屋とを合わせたような物がいっぱいの棚。その奥に、軍服のような制服のような、黒襟に金ボタン、茶髪の少年が座っている。背は主人公より低く、中学生か小学校高学年くらい。
少年「いらっしゃい」
モノローグ「昔来たことがある。ここで、目を交換した」
 主人公、確信めいた表情。
 主人公がガーゼで隠していた片目を見せる。オッドアイ。隠していた方の目は明るい色。
主人公(以下、主)「こんな目、いらない」
少年「……返品の話?だけど、君は望んでそれを手に入れたはずだよ。対価を支払ってね」
主「思い出せないの。対価が何なのか」
少年「契約の不備を指摘されちゃあ、調べないわけには行かないね。契約書、漁ってみるよ。今日はもう帰って」
 追い出される。
○商店街(夕)
 そう言われ、ハッと母親と待ち合わせしていたことを思い出す。商店街を足早に急ぐ。駅前、パフェ屋さんに到着
○パフェ屋
 母と主人公が席に座って、対面でパフェを食べている。
母「これ美味しいのね。果物がいっぱい」
主「でしょ?フルーツパフェがここの売りなんだ」。
 普通に食事する傍ら、「(良かった。これは嘘じゃない)」と主人公、安堵した目。
○アパート
 家に帰る。アパートの一階。あまり広くはない。必要最低限の家電と申し訳程度のテーブル。家には母と二人。
母「にくじゃがにしようと思ってたの」
主「うん」
母「にくじゃがはみんなの好物だから」
主「うん……」
 項垂れる。
 食事中。
 母「幸せね」
 はっきり、黒い字で「幸せ」というのが煙のように浮かぶ。主人公、切なそうな表情。
モノローグ「いつから、ママはこんなに嘘が濃くなったのだろう」「どうして、パパはいなくなったんだろう」
 自分の分のお皿を洗う。部屋に帰り、そのまま就寝する。
○自室
 次の日、スマホのアラームが鳴っている。それを止める。ホーム画面にはカレンダーから『パパと会う日』と表示されている。主人公、複雑な面持ち。
○商店街(夕)
 下校中。またあばら屋に立ち寄る。
○あばら屋
主「どう?」
少年「見つけたよ。プラチナの指輪。それと交換してる」

-回想-
主「そういえばあの時、遊びで結婚指輪を付けていた。ブカブカな指輪を。それを勝手に交換したんだ。綺麗なものが欲しかった、そんな理由で」
-回想終了-

主「私、その指輪が欲しい」
 決意のこもった目。
少年「元の目が欲しいわけじゃないんだ。良いけど、対価は?」
 読者には見えないように契約書を渡す主人公。
少年「なるほどね……使い物になるかは知らないけど、いいよ」
 あばら屋を飛び出していく主人公。
○ファミレス(夜)
 騒々しいファミレスの入り口。父が主人公の前に立っている。が、後ろに気づいてはいない。
 主人公、声をかけようとするが声が出ない。そのうち父は店員に連れて行かれる。
 メッセージアプリから、父「順番がきちゃったから先に座ってる。入り口からまっすぐ進んで左側」と言う通知。それを確認し、席まで歩く
 席について対面。
父「なあ……。いや……」
 言い淀む父。
父「……二人でご飯なんて、久々だな」
 接し方がわからなそうにしている。
主人公モノローグ「ちゃんと。ちゃんと、喋らなきゃ」
 目をつむる。そして、毅然とした表情。
主「私、思い出した。元はと言えば、これは結婚指輪を無くしたことから始まったんだって。だからパパ、ママに指輪を嵌めてあげて」
 指輪をテーブルに差し出す。困惑する父。
主「だって、大事に思ってたからこそ喧嘩したんでしょ?」
 そのまま席を立つ。
父「おい、どこ行くんだ!?」
主「散歩」
○店の外からあばら屋へ
 外に出て歩く。
 主人公独白。
「私が壊したものだった。それを直視するのが怖くて、今だって父にそれを任せている。きっと、このまま家に帰ったら私は良い子だと言われてしまうだろう。違う。私のせいだ」「だから、ここにたどり着く」
○あばら屋
 あばら屋の店内。
少年「やあ!」
 少年、笑顔。
少年「それじゃ、あの時受け取った契約書通り、問題ないね。」
主「うん」
少年「契約は、指輪を十二ヶ月働きで購入すること。一年間、君にはあばら屋の顔になってもらうよ。よろしくね、看板娘さん」
 少年、契約書を見せびらかす
少年「ところでお名前は?」
主「矢ヶ崎一美(やがさきひとみ)。そっちは?」
少年「僕?」
 少年、おどけながら言う。
少年「僕には名前なんてものないよ〜。人間ですらないし。よく似てるだけ」
少年「でもさ〜。あのくらいの指輪なら僕のところで働かなくても同じのを買えたでしょ。どうしてそう拘るの」
矢ヶ崎「それは多分。同じものじゃないからかな」
 ピロンと携帯の通知音。そこに目を落とす。
 『家族グループ』という名前のアイコンが無いチャットグループに招待されている。微笑む矢ヶ崎。

第一話完

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