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[実話怪談]キッチン

東京の板橋に住むMさんが小学生だったころの話。
当時、Mさんは両親、妹、弟の5人で、坂の上にある団地で暮らしていた。

小さいころから、かなりの怖がりで、夜ひとりでトイレに行けないほどだったという。
小学1年生ごろに妹、その2年後には弟も生まれ、お母さんは妹たちの世話にかかりきりになっていた。

ある夜、Mさんは夜中に目がさめた。トイレに行きたかったが寝不足気味の母を起こすのも申し訳ない。
勇気を出して、ひとりでトイレにいくことにした。

部屋を静かに抜け出し、廊下の電気をつけ、恐ろしいのでドアを開けっ放しにして洋式便器に腰をかけた。
まだ眠い頭をかかえ、ぼーっと用を足していると、廊下の先に見えるキッチンが気になった。
ぼんやりと見える半透明のゴミ袋がカサカサと音を立てている。
ゴキブリかな?と思い、しばらく眺めていると黒く小さいものが動いているのが分かった。
「うわぁ、、、嫌だな、、、明日お母さんに言おう」と思ったが、何か違う気もする。

よく目を凝らして見ると、それは、人の目玉だった。
半透明のゴミ袋のなかで、目玉のようなものが1つギョロギョロと動いているのだ。

恐ろしくなったMさんはトイレを流すことも忘れて、すぐに布団に潜り込んだ。
次の日になって、お母さんに「ゴキブリがいた」と嘘をつき、袋のなかを探してもらったが、それらしいものはなかった。

それ以来、Mさんは家のなかで誰かの視線を感じることが多くなった。
お風呂に入っている時、勉強をしている時、押入れやドアのわずかな隙間から、誰かが覗いているような気がするのだ。

思い切って、母に相談したが「怖いことばっかり考えているからよ、
昔から怖がりなんだから」と笑われてしまった。
Mさんは「本当に気のせいなんだろうか、、、」と思いつつ、それ以降おかしなものを見ることもなく、視線を感じても気にしないようにした。

その後、Mさんは順調に進学し、大学生になった。
ある日、料理を手伝っていると、突然母がこんなことを言い出した
「ねぇ、この家、私たちしかいないはずよね、、、?」
母曰く、自分の見てないところで、誰かの気配を感じる。
見たわけではないが、それは老婆だと思うという。
Mさんは目玉のことを思い出し恐ろしくなった。そして、Mさんも昔から視線の正体は老婆だと確信めいたものがあったのだ。

Mさんと母親は、なんとか父を説得し翌年には引っ越しが決まった。
キッチンで動く目玉を見てから10年近くの年月が経っていた。