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[実話怪談]沖縄の海

Rさんは小学生のとき、夏休みに子供だけで参加する3泊4日の沖縄ツアーに参加した。
そのツアーは、関西全体から小学生を集め、ボランティアの大学生と一緒に、沖縄のいろいろな島を巡るというものだった。
人見知りだったRさんを見て「良い機会になれば」とRさんの母親が申し込んだのだ。

参加した子供は合わせて数十名にもなり、Rさんと同じ学区から参加した子は少なく、始めは心細い思いをしたという。
しかし、そこは小学生。2日目を過ぎたかころにはすっかり仲の良い友達ができていた。

最終日の夜、明日には解散となってしまうため名残惜しい気持ちでいたら、引率のお兄さんが「夕食後にこっそり探検に行こう」と言いだした。

その時、周りにいた何人かの子供に声をかけていたので、Rさんの知らない子供もまざっていた。
探検といっても夜の遠出はは危険なので、近くの浜辺に散歩に行くだけだったが、
沖縄の浜辺は星空がとても綺麗で、波音も幻想的で、違う世界に迷い込んだようなワクワク感があったという。

散歩の途中、2列に並んで座れる階段があったので、そこに座って世間話をした。Rさんが初めてみる子供達もおり、少し変な感じがしたが、楽しかった。

そのうち、大学生の発案で怪談をしようということになった。
ひとりずつ順番に怖い話をし、ときより男の子が「ワッ!」とびっくりさせたりし、盛り上がった。
そして最後、8番目に話す女の子がこんな話をした。

「ある村に、海から男の子が流れ着きました。
その男の子は、助けてくれた女の子と仲良くなり、兄妹みたいに育てられました。
そして、女の子は次第に男の子にのことを好きになりました。

それからしばらくの間、村に獣が襲ってきたり、洪水が起きたり、悪い事が続くようになりました。
村人たちは、それは男の子が来たからだと言うようになりました。
村の祈祷師は、男の子は神の子だ。その子を地上においているから悪い事が起きる。神様に返そうと言いだしました。
女の子と、その家族は抵抗しました。でも無理やり男の子は捕らえられてしまいました。

その日から、男の子は大きな樽のようなものに入れられ、重石で蓋をされて閉じ込められました。
女の子はどうしても最期に会いたくなり、村人の目を盗んで、樽が入っている倉庫に潜り込みました。
外から声をかけると「そこにいると見つかってしまう。重石を外して中においで」と言われました。
女の子は、頑張って重石を外し、樽の中に入り込んで、ばれないように蓋を乗せました。

幼い子供2人が入るくらいの狭い空間で、女の子と男の子は語り合いました。
そして、話に夢中になってしまい、気づけば眠ってしまっていました。

女の子は目をさますと樽が揺れていることに気がつきました。様子を見ようとしても、乗せていた蓋はビクともしません。
女の子は必死に叫びました、でも誰も気づいてくれません。外からはお経のようなものが聞こえてきます。
恐ろしくなった女の子は、どうしたら良いのか分からず、男の子の方を見ました。
木の隙間から入ってくる光で、かすかに見える男の子の顔は、ニヤニヤと笑っていました。

その瞬間、体が中に浮き、樽が海に投げ捨てられてしまいました。
だんだん水が入ってきます。女の子は恐怖のあまり男の子にしがみつきました。
でも、男の子は泥に変わっていました。
女の子はさらに混乱し、海水に溺れ、海に沈んでしまいました。

そして、私は死んだの」

Rさんたちは呆気にとられた。「私は死んだ」の意味が分からず混乱していた。
すると、隣にいた男子が「いや、生きてるじゃん!」とツッコミをいれ、その場は和んだ。
作り話のような内容ではあったが、彼女の話し方が真に迫っていたため、内心Rさんは怯えていたという。

すると男子たちは「ウソつくな」と彼女を責め始めた。女の子は「証明するから、あの崖に行こう」と言いだした。
彼女が指差したのは、Rさんたちがいる浜辺から1キロほど先にある小高い崖だった。

雲に月明かりが反射して、シルエットしか見えないが、夜に歩いて行くには遠く感じた。
「あそこに行けば本当だとわかる」という彼女に、数名の男子は「じゃあ、行ってみよう」となったが、
大学生が「危ないからもう戻ろう」と、みんなを止めてくれた。

キャンプ場に戻ると、Rさんたちが抜け出したことがバレており、ひどく怒られた。
特に引率の大学生はこっぴどく叱られていた。
責任者の40代くらいの女性は、心から安堵した様子で「よかった、、、ちゃんと7人いるね」とつぶやいた。

それを聞いた大学生は青ざめた。慌てた様子で
「8人だったはずです」と訴えるが「ちゃんと点呼をとり居なくなったのは7人だった」と言われた。
「僕も出発するときと、戻るときに人数を数えました。ひとりはぐれているはずです。」と
大学生が探しに行こうとしたが、改めて全員を名簿と照らし合わせたところ、全員が揃っていた。

Rさんたちは釈然としない気持ちで、テントに戻り、床についた。
「もし本当に、ひとりはぐれていたらどうしよう、、、」
「もしかして、同じ人が2回話した?そんなはずはない、、、」
寝袋に入っても、Rさんの頭には色んな考えが巡った。

なにより
「もし、あの崖に行っていたら、私たちはどうなっていたのだろう、、、」と思うと、
恐ろしく、あの女の子がテントの外に立っているような気がして恐ろしかったという。

「子供の頃の話なので、どこまで本当だったのか、どこから思い違いなのか分からないんです。
でも、私を含めて怖い話は8つで、大学生のお兄さんは話を聞いているだけだった。
薄暗い中だったので、全員の顔と名前が分かるわけでも無かったし、、、」

と今思い返しても不思議な経験だったとRさんは語った。