見出し画像

世の中を 何にたとへむ あかねさす 朝日待つ間の 萩の上の露

世の中を 何にたとへむ あかねさす 朝日待つ間の 萩の上の露

『源順集』より

 この句は、平安時代の歌人である源順みなもとのしたごうによって詠まれたものだという。意訳すると、「世の中を何にたとえようか。朝日を待っている間の萩の葉の上の露のように、すぐに消えてしまう。」といったところであろうか。高名な仏教的価値観である、「無常」を歌ったものであると言えるだろう。現世において全てのものは生々流転して、永遠不滅なものなどないのだ、という。

 「あかねさす」とは、「日」や「昼」、「光」、「紫」、「月」、「照る」、そして「朝日」などに係る枕詞であるという。現代では「茜色」と言われると夕焼けの色を思い浮かべる人がいるかもしれないが、中世においては空が朝焼けに染まってから中するまでの太陽の色も含めて、淡い赤色のことを「茜色」と呼んでいたのかもしれない。


 そして今、とあるバーチャル世界においてまた一人、流転の波に乗る人が現れた。



 朝日南アカネ。世怜音女学院高等部一年生の女の子。彼女はどこにでもいるような、しかしどこにもいないような、そんな女の子だった。


彼女は最近のトレンドや流行をよく把握していた。彼女が作るTikTokやYouTubeショートなどのコンテンツは、常に流行を意識したものだった。男性の私にとっては相容れない世界であったかもしれないが、それでも彼女から流れてくるファッションやコスメの情報には常に「かわいいな」と心を踊らされていた。

彼女の作るTikTokやYouTubeショートのコンテンツは流行りのガーリーそのもの。かわちぃ。


彼女は旅好きであった。日本のみならず世界各地を旅行しているようで、数少ないゲーム配信でもGeoGuesserをよくしていた印象がある。海が人一倍好きで、マリンスポーツも好んでいるようだった。卒業間際には念願のVlogも作成し、動画を通じて旅行の楽しさを伝えられたことに嬉しさを感じているようだった。

Vlogでは石垣島周辺での旅程を撮影。旅に行きたくなるような内容であった。


彼女は典型的な機械音痴であった。にじさんじに入るより以前には「デスクトップパソコン」や「Ctrl +C」などの言葉も分からず、配信には苦労したようである。現在ではパソコンもある程度覚え、一人前程度に使えるように成長したようであるが…?


彼女は努力家であった。彼女は「有言実行」をモットーに掲げ、妥協を絶対に許さないような人物であった。彼女は「みんなからもらったスパチャは全部活動資金に使っている」と常日頃から言っており、アルバイトまでして豊富な歌動画を生み出すために奔走していたようである。にじさんじでは恒例となっている3Dお披露目配信に関しても、そのクオリティに関して妥協を許さず、活動日数に対しては遅めの披露であったが、非常に満足のいくものを見られて眼福であったのを覚えている。

彼女の3Dお披露目配信は、お世辞抜きで私が今まで見たことのあるどの3Dお披露目配信よりも素晴らしいものであった。


彼女は歌が得意であった。彼女自身は「もともと歌うことは苦手」であったと語っていたようであるが、にじさんじに入ってからは何本も歌動画を投稿し、歌枠で生歌を披露し、歌以外の配信においても歌や音楽を絡めたコンテンツとして昇華し、「音楽が好きで、歌が得意なライバー」として知られるようになった。彼女の歌はボカロ曲を原キーで歌いこなせるほどの高音域から、しんみりとしたコクのある低音域まで歌いこなせる音域の広さと、リリックに込められた意味をしっかりと伝えるような表現力が持ち味であった。彼女の夢は「歌で大きなステージに立つこと」であった。

彼女のオリジナル曲「カナリア」は、ボカロPの164によって書き下ろされたバラードであった。彼女の想いが直に伝わってくるようなリリックとボーカルには、胸を打たれた。


彼女は夢を叶えた。2022年6月23日からは、戌亥とこ、町田ちまらとともに音楽ユニット「Nornis」のメンバーとして活動を開始。デビュー曲「Abyssal Zone」では、荘厳な音楽と3人による神秘的なハーモニーで人々を驚かせた。2023年3月15日には、グランキューブ大阪メインホールにて「Nornis 1st LIVE -Transparent Blue」を開催。およそ1800人の満席の観客を相手に、そしてオンラインで視聴している数多の観客を相手に、見事な歌声を披露した。私も現地にて彼女の歌声をも目の当たりにしたが、あまりの美しさに言葉すら出てこないほどであった。


彼女は実にファン想いのライバーであった。ファン一人ひとりのことをしっかりと覚え、スーパーチャットでは細かいところまで言及してくれるような、優しい人であった。彼女は常に誰かを楽しませることを忘れない、エンターテイナーとして生き続けた女であった。

朝日南アカネは、最高の女であった。


彼女は何に対しても一生懸命で、勉強熱心で、真摯な人物であった。そういう部分に、私は惚れていたのかもしれない。私が覚えている彼女との思い出は、彼女の「Henceforth」カバーのツイートを引用RTにて拡散したときに、わざわざリプで感謝の言葉を述べてくださったことである。私は当初にじさんじにこのような丁寧な方がいるとは思わなかったので、驚いたとともに彼女の人柄に惚れたのだと思う。

彼女との初めての思い出、そして大切な思い出。





 彼女はこれから何をするのだろうか。どこに行くのだろうか。それは誰にも分からない。だけれども、彼女の人生は彼女だけのものだ。これから先、彼女にしか描けない、彼女オンリーの人生を作ってほしい。彼女の未来に、幸あれ

そして、あーこちゃん、今までありがとう。あーこちゃんの歌声の素晴らしさとあーこちゃんと過ごした日々は、一生忘れません。これからは、海を見てあーこちゃんを思い出し、フェスに行ってあーこちゃんが好きな音楽を体感しようかな。


さよならは未来のために
さよならが今背中押す
さよなら言えたその瞬間
僕の心は真っ直ぐに
揺れる水面とこの空の境界線
溶け合い 世界はひとつになるんだ
「もう大丈夫だね」空が導くその先へ

Nornis「Goodbye Myself」



サムネイルイラスト:CloVer

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?