メディアの話 マンガと漫画家の出身地と売り上げと「地図」と。

こちらのサイトに、漫画の歴代売り上げランキングが載っている。

で、売れっ子漫画家の出身地を調べてみた。

パッとみた時に、思いませんか?

そう、地方出身者が目立つ。ような気がする。

じゃあカウントしてみよう。
東京出身者が関わっている漫画が何作品あるか。
100位中10.5作品(原作・作画で分かれている場合は0.5、生まれが東京だが育ちが別の場合も0.5 でカウント)である。
東京都の人口は1396万人 日本の人口は1億2000万人。
ということは、割と正確に、全人口における東京都民の比率と、東京出身の漫画家の比率は変わらない、ということになる。

なるほど。

じゃあ、なぜ私は、地方出身者が多い、と思ったのか。

それは、私の中に思い込みがあったからだ。

漫画を出しているのは出版社であり、アニメ化して流れるのはテレビ、そしてウェブである。
東京にすべての出版社やテレビ局が集中している。
つまり、東京=マスメディア、というイメージがある。
私の中にはある。

また、東京都のGDP(都内総生産・2019年度)は115.6兆円で、全国シェアは20.8%だ。人口比より2倍多い(でも、意外だった。たった2倍なのだ、もっと多いかと思っていた)。

ところが、漫画は違う。
漫画は、あらゆる地方の代表選手なのだ。
東京は何も特別じゃない。
そして、私たちは、広く日本の津々浦々の風土で育ったそんな漫画家たちの作品を愛している。

東京出身の漫画家で最も売れているのは第8位、秋本治さんの「こち亀=こちら葛飾区亀有公園前派出所:1億5650万部」だ。

ご存知の通り、こち亀は、地元漫画だ。
葛飾の、東京の右半分の、地方漫画である。

私の好きな東京出身の漫画家に、上條淳士さんと岡崎京子さんがいる。

上條淳士さんの「トーイ」に「SEX」。岡崎京子さんの「リバースエッジ」から「ヘルタースケルター」。二人は、東京という「地方」を描いていた。ぼんやりとした「都会」の物語なんかじゃなかった。

東大を筆頭に、偏差値上位大学の出身者は極端に首都圏に比率が傾いている。
ゆえに地方出身者が不利とされる。

が、漫画家は違う。

東京か地方かは関係ない。

人口比にしたがって日本全国から才能が生まれている。

学歴も関係ない。

これはどういうことか。

漫画というのが、作者の育った環境にものすごく影響される、かけがえのない作品なのではないか。

子供は、第二次性徴期を迎えるまでの0歳から12歳の間に、自分の地域を、地元を、周囲の自然を吸収して育つ。

優れた漫画家による優れた漫画は、その漫画家の「地図」だ。

岸由二さんの「流域思考」から、個々の人間は地図を持つ生き物、ということを教わったのだけど、ハッと気づいた。

漫画は、漫画家の地図なのだ。

「地図」は抽象的なものじゃない。
個々人が身体に刻む、極めて個別具体的なものだ。
優れた個別具体的な「地図」としての漫画こそが、数千万部、数億部売れる。
これは、私たちが、個々人の「地図」に対して、深く深く共感する何かを持っているからではないだろうか。

ちなみに、ゲームもまたクリエイターの地図だと思う。
ポケットモンスターは、作者の田尻智さんが町田の郊外でカブトムシやクワガタやザリガニをとった経験と地図とが練り込まれた作品だ。

己の地図を練り込め。

これはもしかすると、漫画家の出身と作品の内容とその売れ行きとが教えてくれる、あらゆるコンテンツを作る上で重要な法則なのかもしれない。

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