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着尺「円環」のこと

今年の夏頃、「円環」という名前の着尺を織りました。
どんなことを考えて作ったのか、書いてみました。



制作メモのようなもの


何かをつくるとき、まず大きなイメージをぱらぱらと書き出してみます。
とりとめのない、なんでもない、
そのとき思いついた単語や言葉を並べていきます。


夜      
       宵                     闇  
 降る             隙間
        ところどころ       深 
   明るくて暗い
          暗いなかの明るい
                       空間の切り取り
   俯瞰       メタ
                    電子
     不可思議                  ミクロ
               マクロ
  座標     幾何          きか      
                             いくばく 
    線を引く       区切りではなく流動的な


夜を考えていた
夜をそっと纏うような
そういうものをつくろうと思った

夜から連想して
巡りめぐって
祖父母の家にあった古い地球儀と双眼鏡をぼんやりと思い出した


自分では見ることのできないもの、景色を
見えるようにしてくれるもの
常に変化していくものの
その一瞬を捉えたもの

ここから始めたのか、始めたからここがあるのか
よくわからないけど
形あるものもないものも
その他いろいろが知らない間に繋がって
そのうちに浮遊してくるように

感覚的な
曖昧な
見えないものが通り過ぎていること
物理的に
それとも非物理的に?

言葉とか思いとか
あってもなくても
そのままでいいかもしれないもの

その軌跡を。

とても私的であり
かつ
誰かの偶然のよう

であればいいなと思いました




夜の色と布の名前

夜を考えているとき、
それはきっと一色じゃなくて
ゆらゆらと移り変わっているような気がしました。

ログウッドで青を、矢車附子で灰色と淡い茶色を染めました。
それをベースに濃度や媒染を変えて染めたり、染め重ねたりして、
まとまって見えるけれど複雑な色を目指しました。

偶然性が欲しかったので、経糸の淡い茶色の絣はランダムです。
ただ、絣の糸が入る間隔は最初に計算して決めました。
整経が大変でしたが、いい感じになったのではないかと思っています。


タイトルの「円環」は、織り上がって、少し経ってから付けました。
意味としては「まるい輪」というところでしょうか。

その言葉を初めて見たのは確か、小説だったと思います。
短編集のなかのひとつ。
終わりのような、始まりのような。
絶望のような、希望のような。
相反するものの近さというか、紙一重のようなものを見た気がしました。

なんとなくそれがしっくりきて
この布の名前にしました。

ぜひ実物をいろいろな角度から見ていただきたい布です。
写真で見るのとは違う発見があるかもしれません。

よかったら、ぜひ。



*こちらの着尺は千成堂着物店さまでお取り扱いいただいております
https://www.sennarido-kimono.com/c-item-detail?ic=A000007614


記事を読んでいただき、ありがとうございます。いただいたサポートは制作のために使わせていただきます。