【中国動向観察】女性ミサイル技術専門家、全国政協委員資格が取り消しに:汚職で更迭か・背後に軍需の好景気?

 中国経済誌「財新」のネット版「財新網」は25日、中国航空宇宙産業大手の中国航天科工集団傘下のシンクタンク・第三研究院(中国航天科工三院と略称)の技術者で全国政治協商会議(全国政協)のメンバー(委員)でもあった張金紅女史の全国政協委員の資格が取り消されたと伝えた。全国政協の委員にも選出されるぐらいなので、張金紅女史はミサイル技術の専門家としてこのシンクタンクを牽引する立場だったということが分かる。

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   衆議院と参議院に相当するともされる、全人代と全国政協だが、全人代会議と全国政協会議の二つを毎年3月に同時に開催することを文字って「両会」と呼ばれている。この「両会」準備のために中国全土では各省・自治区・直轄市などの地方自治体でも当地の全人代や全国政協会議が開かれており、張女史の全国政協委員の資格取り消しも24日に開かれていた全国政協の事前会議で決定・承認された。3月の「両会」前に更迭されたのであろう。

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 しかし、張女史の資格取り消しの理由は伝えられていない。中国国内で報道される張女史の処遇は「資格取り消し」という事実のみだ。

  張金紅女史は河南省舞陽出身で1965年6月生まれの55歳。1986年に北京航空学院有翼ミサイル総体設計専攻卒業、同年に航空航天業業部三院三部ミサイル設計専攻大学院に進み、1989年8月に入社。その後、航天科工三院で長期にわたりミサイルの研究開発に従事しており、同院第三部総体室副主任、主任を歴任、現在は型の総設計師としてミサイルの型の設計、開発を担当している。そして感度も表彰されるほど傑出した業績を積み重ね、優秀共産党員との称号も得た。2018年、2019年に「両会」への出席が報道されていたことから、ここ数年は中国の航空宇宙産業政策について航天科工を代表して政府に政策提言をするほどだったことが窺える。

 ここで少し中国航天科工三院について記しておこう。
 親会社である中国航天科工集団(China Aerospace Science and Industry Corporation Limited:CASIC)は中国に10ある軍需産業(十大軍工集団)の巨大コングロマリットの一角をなす大企業で、2020年には世界トップ500社のうち332位。中国の航空宇宙産業ではもうひとつの中国航天科技集団と二大巨頭をなす。

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 前身は両社とも1956年10月に設立された国防省たる中国国防部の第五研究院である。中国航天科工は傘下に比較的大きな企業だけで21社、小さなものも含めると500社以上を抱えるという。そして職員も15万人近くを擁する。毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦濤、習近平と歴代の指導者は皆同社を視察している。

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 張女史が属する三院は中国航天科工のシンクタンク機能をはたす組織で1961年に設立されたという。本部は北京にあり、職員は25000人。ミサイル開発・製造を主な業務としている。

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 全国政協委員については第13期については2018年1月に選出されたのは2158人で、中国航天科工からの選出は三院からの3人を含む8人となっている。こうした人事構成からみても中国の政治体制は軍産複合体としての性質を強く帯びていることが分かるだろう。

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  張女史の資格取り消しの理由は公表されていないと書いたが、政府や企業の高官が摘発される場合に段階を追って公表されるケースは少なくない。

 最近のケースでは胡問鳴氏のケースが注目を浴びた。空母建造を率いてきた中国船舶重工の胡元董事長が摘発された時も公表は段階的だった。2019年8月に突然、胡董事長の「退職」が発表され、姿を消した後、2020年5月に規律違反が明かされ、調査を受けていることが公表されたのである。この際に興味深かったのは胡氏「退職」後の10月に中国船舶重工は中国船舶工業と合併し、中国船舶集団が誕生したのだった。

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江沢民氏に瓜二つの胡問鳴・中国船舶重工元董事長

 そしてこの際にトップに就任したのが最近まで董事長を務めた雷凡培氏であり、彼は船舶工業でも船舶重工でもない中国航天科技という航空宇宙産業から送り込まれた人物だった。

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 張女史に話を戻すと、このところ解放軍の兵器装備産業は活況を呈しており、盛んに宇宙に衛星がロケットに載せて打ち上げられており、解放軍の兵器装備も更新され続けている。まさに活況最中に張女史が協商委員の資格を剥奪されるのは業界の好調さと軌を一にしているのかもしれない。あるいは昨年数回続いたロケットの打ち上げ失敗が関係している可能性もある。

 とはいえ、このところ中国の大企業のデフォルトなどが報道され、景気の先行きが懸念される一方で、兵器装備の更新や原潜や空母の建造、ミサイル、ロケットの打ち上げは衰える気配がない。摩訶不思議な軍需産業の動向も注目してみるべきだろう。

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