【20分・5人・声劇台本】自殺屋さん

男4:女1

【演じる上で注意点】

内容が過激なので、読む際には「塗れ場」「自殺」が苦手な方はお控えください。
注釈:以下は、読まないでください。
 () 描写(読まないでください)
 [] セリフ読み方
【】各場面転換ですが、通しで呼んでください

【あらすじ】

東京にあるビル群の屋上。そこに男はぽつんと立っていた。足元には、靴をまとめて、1通の手紙が添えてある。そんな彼のもとに、自殺屋と名乗る男が姿を現す。

【配役】

  • ギーク・スザーランド(不問)・・・自殺屋の死神。胡散臭い身なりと声をしており、めんどくさがり屋。チャラい10代くらい。

  • 山本優斗ユウト(男)・・・人生に疲れて自殺をしようと会社のビルの屋上で、自殺屋と出会う。30代

  • 板垣健治ケンジ(男)・・・大地の親友で、香織と恋に落ちてしまう。30代

  • 森山香織カオリ(女)・・・大地の彼女。大地の親友と浮気をする。30代

  • 佐藤サトウ(男)・・・大地の上司で、パワハラの常習犯。50代。

【台本】

(優斗はビルの屋上で、今まさに飛び降りようとしていた。
そこに、後ろからギークが近づいてきた)
ギーク「どーも!…ほら、お兄さんってば!!」
優斗「えっ…」
ギーク「はい!ようやく、こっち向いてくれましたね、山本優斗ヤマモトユウトさん」
優斗「…はい」
ギーク「かれこれ、もう2時間もそうやって、下を見つめてますね?」
優斗「それは…気にしないでください」
ギーク「死なれるおつもりで?」
優斗「いやっ…違います」
ギーク「まぁ~、ここ50階建てのビルの屋上で、そこに靴をそろえて脱ぎ、隣には手紙が添えてある。そして、あなたはビルの端に立っている。(沈黙)
これを見て、自殺以外に考えられないという推理は、合ってますか?」
優斗「…ん」
ギーク「黙っている。…ということは、黙認として捉えましょう!」
優斗「すいません」
ギーク「[食い気味に] なんで?何か悪い事でもしたんですか?」
優斗「あなたは、誰ですか?」
ギーク「あ!これは、失敬!こういうものです」
優斗「じ、自殺執行グループ・第2課日本国所属、ギーク・スザーランド?」
ギーク「はい!僕は、言わずと知れた、自殺屋ですよ」
優斗「いや?知りませんけど…」
ギーク「え、えええええええ!僕の事知らないの!?…これは困ったなぁ…僕、自殺志願者界隈ジサツシガンシャカイワイでは、有名なんだけど」
優斗「自殺…志願者…界隈?」
ギーク「あ、気にしないで。それでは少しだけ、自殺屋の説明を…コホン!」
優斗「別に」
ギーク「あれ?僕の事知りたいと思って、説明をしようかと」
優斗「いや、いりません。いいから、もう帰ってください」
ギーク「帰るかぁ~…では、てくてくてく、って!!帰るわけないじゃないですか!
(少し沈黙)
あれ?スベりました?ノリツッコミしたのにぃ~」
優斗「もう、どうでもいいです」
ギーク「それは無理なお願いですね。てか、まだ説明できてないですし…」
優斗「どうぞ」
ギーク「それでは!…僕は自殺屋のギーク、自殺屋とは僕たち死神職業の1つ、自殺をしたい人間のサポートをしております!ほらほら、死にたいけど、今1つ踏み込めない駅のホームで、ポンッと背中を押したり…あれ、僕らの仲間の仕事です」
優斗「は?…てことは、背中を押しに来たと?」
ギーク「んー?まぁ、そうなるつもりだったんですけど、僕はめんどくさいので、死なないでもらます?」
優斗「え…どういうことですか?」
ギーク「ほら、2時間経っても死ねずに、こうやって僕との会話もしてくれますし。別に、死ぬ必要あります?」
優斗「そんなことは…すいません。もうすぐ、飛び降ります」
ギーク「あー!待って待って!!まだですって」
優斗「はい?」
ギーク「だ・か・ら!飛び降りて欲しくないんすよ!」
優斗「なんで?」
ギーク「僕は、めんどくさいんすよ!この仕事!」
優斗「何、仕事?」
ギーク「知ってますー?1人の人間が死ぬと、僕の上司の閻魔大王エンマダイオウに死亡届っていう申請書を出して、あなたの人生を全部精査して、報告書も書かないといけないんすよ…仕事増やさないでもらえます?」
優斗「それは、そっちの都合じゃないですか…?」
ギーク「まぁ、自殺するのもそっちの都合と言いますか…あ!なら、なんで自殺をしたいのか教えてくださいよ」4:45
優斗「いいですよ…私、一般的に言われる、ブラック企業に勤めてまして…そこの上司が―――」

【上司編】
佐藤「おい!山本ぉ!!!」
優斗「は、はい」
佐藤「お前さぁー?なにこれー?なんもできてないじゃんか」
優斗「え、いや、それは言われた通りに…」
佐藤「はぁ!?!?俺が何か間違った事言ってるってぇー?」
優斗「すいません」
佐藤「だよなぁ?俺が言ってる事が全部!正解なんだよ!そんなこともわらんねーのか?お前が夜遅くまで仕事してるのは~、お前が無能だ!か!ら!わかるー?」
優斗「すいません」
佐藤「お前、なに?「すいません」しか言えないの?謝罪の自販機なの?」
優斗「いや…」
佐藤「いや?なに?なんだよ?口答えするつもりなの?」
優斗「すいません」
佐藤「あーダメダメ、平謝りしか出来ない奴は、いつまでたっても成長しない…
だから、この俺がお前みたいな出来損デキソコないに、優しく教えてやらないとな」
優斗「はい」
佐藤「俺の部下でよかったなぁー。お前だったら、他の会社では即刻クビだよ、クビ!わかる!?」
優斗「…ん」
佐藤「お前さぁ、なんか言えよ?せっかく、俺の貴重な時間を使って、お前なんかに話してやってるのに、目も合わせないし、人間のごみだなぁ…
[溜息] はぁ~」
優斗「すいません」
佐藤「もういいや、てか、この資料直して明日の朝までに俺の机な。俺はもう17時だから、家帰るわ。這いつくばってろ。[鼻で笑う] ふっ」

(沈黙)

優斗「…てことが、あって」
ギーク「へぇ…めんどくさっ!なにそいつ?なんか、変な上司に当たったんすね」
優斗「もう、仕事も辞めれないし、なら、死んでいいかなって」
ギーク「でも、それだけで死ぬなんて、相当その上司が好きなんすね」
優斗「何…言ってるんですか?」
ギーク「ほら、だって、なんかその人に嫌われてるから、もう死ぬー!って、なんかBLの2次創作みたい?」
優斗「きんもっ…」
ギーク「なんて言いました?ほら、今はLGBTQっていうじゃないですか?男同士の社内恋愛も、考えてみたり…ね?」
優斗「いや、私、彼女いたんです」
ギーク「[ドン引き] えー、なら、なんで死ぬんですか?」
優斗「いや、過去の話ですから」
ギーク「えっ!いつ、別れたんですか?」
優斗「1週間前です…」
ギーク「[嘲笑] めっちゃ最近じゃん!で、もしかして、それも死ぬ理由の1つですか?」
優斗「はい、そうです…」
ギーク「なら、次にその話を聞かせてください!」
優斗「あれは、1週間前のことです。家に帰ると彼女が――—」

【彼女編】
(優斗は、同棲している家に帰ってきた。香織と健治はベッドにいた)
香織「はぁ、はぁ、まって、いきそぅ」
健治「はぁ、はぁ、まだダメ」
香織「おねがい、はげしすぎるって、はぁ、ダメ」
健治「これが、はぁ、すきなんだろ?、ほら」
香織「[喘ぎ声]あんっ!、いくっ…」

優斗「…えっ」(鞄を落とす)
香織「きゃぁっ」
優斗「なにしてんだよ」
香織「いや、その…」
優斗「[困惑]は? てか、なんで健治が…」
香織「……ごめんなさい」
優斗「離れろよ…。
(少し沈黙) 健治…お前…なんで家にいるんだよ」
健治「……優斗、ごめん」
優斗「なんで…だよ」
健治「…ごめん」
優斗「説明してくれよ!そういうことなんだろ!?」
香織「ごめん、優斗。私が悪いの…」
優斗「えっ…」
健治「いや、俺が…悪い」
優斗「何言ってんだよ!…なぁ?いつからだよ」
香織「…もう、半年くらい、本当にごめんなさい」
優斗「…なんで?」
健治「俺から誘ったんだよ…好きだったから」
優斗「は?好きだったって…いつから」
健治「優斗が付き合う前からだよ」
優斗「…でも、お前のおかげで、香織と付き合えたのに」
健治「…俺は、優斗から「香織が好き」って聞いて、諦めたんだよ」
優斗「意味が分からない!全然、諦めてないじゃんか!」
健治「うん…本当に申し訳ないと…思ってる」
優斗「なんなんだよ!謝ってばっかで…香織、お前は健治がいいのか?」
香織「…わからない」
優斗「[詰めよる] な?違うだろ?…なんか言えよ!!!」
健治「おい、怒鳴るなよ」
優斗「お前は黙ってろよ!」
香織「…健治、大丈夫だよ。ごめんね、優斗、
[涙声] もう好きじゃないの…」
優斗「…なら、なんでまだ一緒に住んでたんだよ」
香織「[涙声] わからない…でも、本当にごめん」
優斗「最近、俺と寝てなかったのは…健治としてたからか?」
健治「そうだよ」
優斗「お前ふざけんなよ!!!!」
健治「お前が大切にしないからだろ!!」
優斗「お前が俺の何を知ってるんだよ!!」
健治「俺だって!俺だって…最初は、香織とお前を応援したかったよ?」
香織「[涙声] 健治、待って…」
健治「それでも、お前仕事しか見てなかったろ?上司が誰かは知らないけど、そいつの愚痴ばっかりだって、泣いてたぞ?」
優斗「…それは」
健治「だから、もう諦めてくれよ」
香織「健治、やめてよ」
健治「大丈夫だよ、俺なら」
香織「いや…」
優斗「もういい!!2人とも出て行ってくれ!」
香織「ちゃんと、話したい」
優斗「もう…俺から…うるせんだよ、ビッチ」
健治「香織、もう行こう」
香織「…でも…。優斗?」
優斗「顔も見たくない。服着て、出て行ってくれ」
香織「はい…ごめんなさい…」
健治「香織、いこう」

(沈黙)

ギーク「それで、2人はその後は?」
優斗「わからないけど、荷物はそのままだよ」
ギーク「ほんと身勝手な女ですね。そんな女、結婚する前に別れて正解じゃないですか?」
優斗「わからないです。ただ、もう考えたくないです」
ギーク「別に考えなくてもいいのでは?」
優斗「家に、帰るだけで…もう無理なんですよ」
ギーク「あーー、そういうことだったんですね。家にも帰りたくなくて、仕事場にもいたくなくて、居場所がないと。だから、死にたいと?」
優斗「はい」
ギーク「[溜息]はぁ~、ならしょうがないですね。
背中を押してあげますよ」
優斗「え?」
ギーク「え?」
優斗「いや、今なんて」
ギーク「いや、死にたいなら、僕も自殺屋ですし、仕事をするまでと…
まぁ仕事が増えるのはめんどくさいんですが」
優斗「いいんですか?」
ギーク「え?死にたいんじゃないんですか?」
優斗「え、まぁ、はい?」
ギーク「なんか、中途半端ですね」
優斗「そうですよね…中途半端ですよね…死んだ方がいいですよね」
ギーク「いや、急にメンブレしないでくださいよ」
優斗「すいません」
ギーク「あ、なら、僕の愚痴聞いてくれませんか?」
優斗「いいですけど…」

【ギーク編】
ギーク「なんかー僕?、仕事ができないってよく言われるんすよ」
優斗「はい…」
ギーク「で、僕らの仕事って、何人自殺者の背中を押せたかとか、加担できたかっていうので、営業成績?を見られててー。でも、そんな事はしたくないじゃないですか?」
優斗「それで?」
ギーク「でも、閻魔エンマはもっと、もっとって…そんなに毎日死にたい人がいるかよ…って思ってたんすよ、そしたら、結構いるんすよね。日本に死にたい人って」
優斗「へぇ…」
ギーク「で、色んな人と話して思ったんすよ。みんな自己中だなって」
優斗「どういうことですか?」
ギーク「死んだ方は、楽だーって思ってますけど、結構地獄と天国行くかなんて、運で。どっちも結構、飽和してるんすよ。しかも、僕らは書類作成して、現実世界では死体処理に、警察、消防が動いて、行政まで動く始末。かつ、この建物は事故物件となり、価値が落ちますし…そんな事考えてないんだろうなぁって」
優斗「そんなこと言ったって…」
ギーク「そりゃ?もちろん、自殺屋としては勝手にする分にはどうにかしますけど、携帯とかで「死にたいでーす!」って…どっちー!!って悩みますよね」
優斗「…はい」
ギーク「で、しかも、死にたいとか簡単に言うじゃないですか?日本以外には、食べたくても食べれず、生きたくても死んでしまう人がいるのに…なんでかなー?ってね」
優斗「…そうですね」

ギーク「そうだ!もし、よかったらなんですけど、僕のあと、継ぎませんか?」
優斗「はい?」
ギーク「それがいいですよ!自殺屋になりません?」
優斗「急になにを?」
ギーク「ちょっと待ってくださいね…どこだっけなぁ…
こっちのポッケ…じゃなくて…あった!これです!」
優斗「これ…は?」
ギーク「契約書です。簡単に言うと、僕も過去の自殺志願者で、そこに前任ゼンニンの自殺屋が来て、僕に契約書を移行していった。ってなわけです。どうです?」
優斗「え、いや…」
ギーク「嫌ですか?どうせ、地獄に行っても、天国にいっても、仕事はありますよ?でも、現実世界と唯一関われる死神って、興味そそられません?」
優斗「やっぱいいです!!!」
ギーク「え?」
優斗「辞めますから!!!」
ギーク「…なにを?」
優斗「もう!!死にませんって!!!」
ギーク「え、そうなんですか?なら、僕のあと…を継いで?」
優斗「継ぎもしません!!!」
ギーク「なら?」
優斗「僕、生きます…まだ、もう少しだけ…生きていきます」
ギーク「えー!生きちゃうんですか?」
優斗「はい。もうなんか、ギークさんの話聞いて、イライラしてきたんですよ」
ギーク「はい!?僕、なんか言っちゃいました?」
優斗「そうですよ!!僕がどんな思いで、ここにいたか知らないくせに!グチグチ、グチグチ!本当にイライラしてるんですよ!」
ギーク「いや…それは、ごめんじゃん?」
優斗「だからね!!死んでやるもんか!!
僕が死んで、誰かが喜ぶくらいなら、生き抜いてやりますよ!」
ギーク「えー…結構変わりましたね…」
優斗「だから、これ!契約書なんていりませんから!
もう、帰ります!」
ギーク「(少しの沈黙) 
[遠くに行った優斗に向かって] あのー!靴と遺書!忘れてますけどー!
…って、行っちゃったし…あーあ」

(沈黙)

【ラスト】
ギーク「どーも!…ほら、お兄さんってば!!」
佐藤「えっ…誰だよ、お前」
ギーク「まぁまぁ、そんな事どうでもいいですから、えーっと、佐藤さん?」
佐藤「俺の名前をなんで…」
ギーク「もしかして~、後輩の子が辞めちゃって、労基ロウキにも報告されて…会社から訴えられてるとか?」
佐藤「[焦って] なんで、知ってるんだよ…」
ギーク「まぁまぁ気にしないでくださいよ。1か月前にも、ここに来ただけですから」
佐藤「1か月前…まさか…あいつが言ってたのって…」
ギーク「さぁ?どうでしょうね、まぁとりあえず、(少し沈黙)
[冷酷に] 死ねよ」
佐藤「お、お、おい!押すなって!あ!ーーー……」
ギーク「はぁ…仕事したし!とりあえず、帰って書類作るかー!!」

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