【1人・15分・声劇台本】悪女の作り方

女1

【あらすじ】

ひとりの「悪女」と呼ばれる女は、幼少期より様々な境遇にあってきた。そんな女の物語。

【台本】

私は悪女と呼ばれる女だ、ただ。定義もわからないから、悪女の作り方を教えてください。

小学生のに聞いたのは、母親が怒る声だった。原因は私だった。ある日、風邪カゼをひいていたが、無理矢理学校に行った。しかし、保健室で早退ソウタイ余儀ヨギなくされ、家に帰ると、男性のクツが置いてあった。リビングに向かうと、母親と知らない男性が裸で叫んでいた。それがよくわからず、自室に入り、静かに寝た。

その夜、母親に起こされて、おかゆを食べた。父親も帰ってきて、心配してくれた。私はふと父親に質問した。

「(咳き込む)こっほ、こっほ、ねぇねぇ、パパ?なんでママは、今日裸だったの?…うん、なんか知らないおじさんも裸だった」

次の日、母親は吸っていた煙草タバコを私のへそに押し付けた。

「はぁっ!あんたって子は!このクソガキが!!
ほら、こっちおいで!!…
どう?熱いでしょ?苦しいでしょ?それが私の苦しみよ!!
この火傷ヤケドを見て、私のこと思い出せばいいわ!ブスガキが!」

その時の顔を忘れない。これ以降、母親には会ってない。

中学生の時に聞いたのは、綺麗なお姉さんの冷たい声だった。自営業ジエイギョウだった父親の会社を手伝っていた私は、父親の部下たちとも仲良くしていた。ある日、急に熊木クマキ、という女性社員から色々なものを貰うようになった。

熊木さんは、30歳前後サイゼンゴで、すらっとした立ち姿に、綺麗な顔立ちだった。そんなお姉さん的な存在に憧れていた。彼女がらないといった服やアクセサリー、高そうなバッグを身に着けるとまるで彼女になれたような感覚で、学校の友達にもうらやましがられた。

「なにそれ!!すごい綺麗!てか、これって、もしかしてエルメスのカバンじゃない!?しかも!しかも!グッチのトレーナーまで!
めっちゃ羨ましい!!いいなぁーーー!!」

いつからか、土日も一緒に遊ぶようになった。ある日、熊木クマキさんの友人の車で遠出トオデした。日帰りで帰るはずだったが、台風の影響で1泊することになった。今思えば、あれはラブホテルだった。そして、その日、全員が寝静ネシズまった時、その男性にオソわれた。私は、熊木クマキさんに助けを求めたが、断られた。

「何言ってるの?こうやって、男を覚えるのよ。その若い体、求められているうちが女のハナよ。ほら、まず脱いで、恥ずかしがらないで。
てか、あんたも手伝いなさいよ、このロリコンが!!早く20万払いなさいよね!!この子もう連れてこれないから、早くして!!
…あ!ちょっと、待ちなさい!!このメス餓鬼ガキ!」

2人が言い争いを始めたタイミングで、スキをみて逃げた私は、台風の中、びしょぬれになりながら、走った。運よく、交番を見つけ、んだ。わけがわからなかった私は、名前と住所、父親の電話番号を言った。すぐに、父親が迎えに来た。

怖かった。優しい男性が、何か知らない真っ黒な生物として私にオオいかぶさっていた。

その1週間後だった。家に来た警察に父親が連れていかれた。その日のニュースでは、父親と見知った男性が映っており、アナウンサーが事件を話していた。
本日未明ホンジツミメイ児童ジドウポルノ法違反ホウイハンで中学生をオソった男性と、中学生の父親が逮捕されました。男性は、1週間前の夜、友人女性と金銭キンセン取引トリヒキをし、犯行に及びました。中学生の父親は、それにイカり、その男性を殺害しようとしました。中学生の父親は、殺人未遂サツジンミスイの容疑で逮捕されました。」

高校生の時に聞いたのは、後輩の子が泣きつく声だった。両親のつてをくし、一人で暮らしていた私はバイト三昧ザンマイの高校生活を送っていた。唯一ユイイツ、休める場所は学校だった。バイトは禁止だったので、学校から離れた場所の喫茶店キッサテンだった。ある日、来た同級生の男の子には、黙っててもらった。面白い事に、彼は時より喫茶店キッサテンに立ち寄り、私だけに注文をした。いつの間にか、彼が来るのを待っている時間があった。

学校で会えるのに、話せるのは喫茶店キッサテンだけ。私は店員、彼はお客さん、そんな不思議な関係が心地よかった。ある日、彼はLINEのIDをくれた。登録してみた。その夜に、電話が来た。1か月も話せば、お互い好きになって、バイト帰りに告白され、付き合った。

嬉しかった。私を愛してくれる人がいる事に、驚きもした。

バイト帰りに、公園でデートをする。夏はアイス、冬は肉まんをハンブンコした。しかし、1年も経ち、受験で忙しかった時、彼氏の部活のマネージャーで、後輩の女の子に泣きつかれた。

「(泣きながら)う、う、う…あの、ほんとに好きなんです!…お願いしますぅ、先輩が大好きなんですぅ…でも、でも、あなたがいるから付き合ってくれない…って!!
ねぇ?私の方が、かわいいし、若いんですぅ…お願いしますぅ。
別れてくださいよ!!」

どうすればいいかわからなかった。その瞬間に彼氏がきて、安堵アンドしたが、彼女は私の彼氏に泣きついた。女の子を泣かせていると勘違カンチガいされた。その日から、彼氏にはLINEもブロックされ、学校では嫉妬̪シットで後輩の女の子を泣かしたと噂された。学校では、2人の関係は知る人はいなかった。

その数日後、バイトが原因で停学になった。都合がよかった。受験は終わっていたので、特に思う事もなく、むしろ学校に行かなくてもいいのは都合ツゴウがよかった。

大学生の時に聞いたのは、友人の飽きれた声だった。新しい生活と意気込イキゴんで入った大学は、「Fラン」と呼ばれる大学だった。誰かが知っている学校ではないが、気になっていた芝居サークルに入った。芝居は初めてだったが、楽しかった。演じている時だけは、世界の主人公になれた気がした。自分じゃない誰かになれる事がすごく心地よかった。私は、とてもキラキラしたお姫様、モテモテのOL、魔法の使えるエルフになった。2年生になり、先輩に「ロミオとジュリエット」の主役をツトめないかと言われた。

わくわくした。自分が世界的な恋愛ストーリーの主人公として、みんなが見てくれる。

相手役は、憧れの部長で、読み合わせの練習とショウして家にお邪魔した。先輩が忙しくない時に家で、読み合わせをする。先輩は、役作りの方法を教えてくれて、その一環イッカンとして体をカサねることもあった。台本の「愛している」というセリフが、だんだん心にヒビいてきた頃、先輩に告白された。答えは悩まなかった。

公演終了後の飲み会で、トイレに立った時、煙草タバコをふかしている先輩達の話を聞いてしまった。告白は、冗談だった。演技の為だった。それにショックを受けた私は、飲み会を抜け出して、同じサークルの友人に電話をけた。彼女は、知っていた。

「うーん…有名な話なんだよね…あの先輩…
家で練習とかしなかった?…うん、他の子もそうやって沼ってるんだよ
ごめんね…知ってると思って言わなかったよー
大丈夫だよ、すぐに次の人見つかるって…え?まだ別れ話無いって?
んーーー…すぐだと思うし、多分辞めた方がいいよ」

先輩かサークルか、どっちを辞めればいいかわからなかったから、両方辞めた。すぐに就活にセイを出した。しかし、就活では大学のレベルを見られて、上手くいかなかった。ギリギリで1社だけもらえた内定は、30人程度の訪問販売ホウモンハンバイの企業だった。父親の会社で手伝っていた会計の知識を頼られて、入った。

社会人の時に聞いたのは、怒りを抑える声だった。新卒で入った会社で、1年を過ごし、上司に怒られる事もあったが、その度にすぐに仕事をやり直した。残業代も高くないくらいに出るし、長時間労働もなかったので、普通の企業だと思っていた。ある日、警察が会社にきて、逮捕された。のちに知ったのは、売っていたのは違法ドラッグで、いわゆるヤクザのフロント企業だということ。私は、特におトガめなく、入社1年という事もあり、執行猶予シッコウユウヨが付いた。

社会とはヒドいもので、前科が付いた私の就職先シュウショクサキはなかった。働けるのは水商売ミズショウバイしか残ってなかった。キャバクラで働いたが、話す事が苦手な私はすぐに首を切られた。次に、入ったソープでは、短時間で稼ぐ事ができるという話だったが、実際は仲介手数料チュウカイテスウリョウノゾくと大したお金は残らなかった。女の子達は、全員が円盤エンバンと称して、本番行為で稼いでいた。私も真似すると、すぐに金が稼げた。

2年もした頃だろう。家に税務署ゼイムショ家宅捜索カタクソウサクにやってきた。確定申告カクテイシンコクを知らなかった私は、同僚ドウリョウに言われた通りやっていたら、脱税ダツゼイしていたらしい。家宅捜索カタクソウサクで家を荒らされている間、見ているテレビでは汚職政治家オショクセイジカが数千万から数億円の裏金ウラガネを貰っていると聞こえた。テレビのおばさんコメンテーターが、悪態アクタイをつくように言っていた。

「これがね?裏金ウラガネじゃないとするのであれば、その根拠コンキョが必要ですよねぇ?
もし、会計資料カイケイシリョウ記入キニュウし忘れてたとするのであれば、納税ノウゼイの義務がありますから。
これを国税庁コクゼイチョウは、見逃してはいけませんよ!
国民がね?もし、これだけ記入し忘れてたとするのであれば、すぐに逮捕されますからね~」

最後に聞いたのは、人妻の叫ぶ声だった。コメンテーターの言っている言葉、その意味はもう頭に入ってこなかった。税務署ゼイムショの後ろには、警察も一緒にいた。家から連れられて外に出ると、1組の男女が立っていた。その男性は、良くしてくれた顧客コキャクだった。

「なんでこんな悪魔みたいな女がいいの!!もう結婚して20年よ!!
…本当に最悪!!何してくれてるのよ!!このあばずれ!くそビッチ!
地獄に落ちろ!!そうやって、男を漁ってるからよ!!」

それが、このオリの外で聞いた最後の言葉だった。私は、悪女と言われる部類の女だろう。ただ、私が悪いのか、運が悪いのかはわからない。そうして、今日も就寝シュウシンの点呼を終わらせて、眠りに入る。

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