いつもより空が近いね厚底のブーツで君の景色を歩く (哲々)

なんとかわいらしいデートシーンであろうか。自分より10センチくらい背の高い彼氏と同じ高さになるような厚底ブーツをはいてはしゃぐ女のコの感覚を見事に表現している。この歌なら単品で♡をつけてしまうくらい好きなのだが、驚きはそこにとどまらない。なんと、この作者は女のコではないのである。時には青年、時には老婆、時にはオヤジ、時にはプレママ、おそろしいほど変幻自在に姿を変えるメタモル妖怪である(と私は思っている)。まぁ、歌謡曲の歌詞でも女心は男性作詞家の独壇(擅)場であるし、演劇の世界でも自分と遠いキャラの方が演じやすいので不思議なことではないのだが、この歌の少女の憑依ぶりは桁違いだ。まず「君の景色」つまり(彼から見た世界やわたしはどんなだろう)という感覚は、少女特有の空想から生まれる言葉だ。オシャレな本格的厚底ブーツも歩きにくくてデートに履くのがやっとのアイテムだ。この下句から、どれだけ主体が恋にどっぷり浸かっているかがわかるしくみだ。そして、その彼と一緒にいられる喜びと未来への希望が上句に最適な表現で表されている。ふたりとか一緒とかいう単語を出さなくとも、「ね」という語尾から会話であることがわかるあたりも精巧だ。「空が近い」という六音で最高な気分が表現できているところもすごい。まだまだ読みたい作者である。


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