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【韓国旅行記】顔面妖怪BBAがアルミホイルVISAと人の優しさに触れ空港アナウンスをされるまで

人間ドックの結果を受け、白湯を飲んだりウォーキングやピラティスに精を出してはみたものの、見事にストレスが溜まって食べ散らかしてしまい善行がオール無に帰す、という賽の河原スタイルで日々が過ぎていった。
フルリモートはメンタルに優しい働き方とはいえ、強い意志を持ち合わせていないと一気にフィジカルを崩壊させる。

むしろこの1歩をどう踏み出したのか

鏡を見る頻度がぐんと減り、BBAとしての風格だけは悲しいかな、ぐんぐんと増してゆく。その異変に気付いた時も、はじめは、おや?時空が歪んだかな?ぐらいの感覚だったのに、徐々に徐々に看過できない領域へと広がってゆき、ついには「老い老い!そりゃあないぜぇ!」と面白くもない高齢ギャグ(ギャグなのか)を臭い飛沫のスプリンクラーで撒き散らかすこととなった。
そこら辺のブルドックよりよっぽどブルドック然とした姿が鏡に映し出されている。もちろん新しいペットのデコピンではなく、俺ピンである。
ドジャースで年俸100億稼げるならブルドックでも構わないけれど、年俸わずか数百万のババァースだ、大谷が許しても(いや許さないだろう)俺が許せない。
リフトアップする器具やエステが有象無象に転がる今、とりあえず片っ端から試す時間もお金もないので、10秒思案した結果こうなった。

「渡韓して肌管理だ!もはや物理で肉を持ち上げる他ない!」

ちなみに渡韓(韓国に行くこと)して肌管理(クリニックで施術)するのは昨今の流行であり、SNSでは乙女達の美肌へのあくなき探求心が今日も尽きることなく燃え盛っている。

そうと決まればまずクリニック探しだ。
この熱量でやっていれば社長賞も軽々獲れるのでは?と同僚が辟易する勢いでSNSを隅々サーチする。やはり日本で施術を受けるよりはるかに安くて技術も進んでいる韓国、江南カンナムにある有名美容皮膚科に早速予約を入れた。

毎度口を酸っぱく、こんな唇にキスされそうになったら秒でビンタしてしまうというお墨付きまでもらうほど、すぼめを極めた口で言うが、「着いたらすぐ帰る、旅は日帰りのみ」が己の信条だ。
ド平日の水曜日、日帰り航空券を買った。もちろんその日の仕事は架空の病欠予定だ。

思えば去年の10月、スケジュールゼロのままパスポートを更新した。
一応、いつヒュージャックマンに見初められてもいいように、が裏の理由ではあったが一向にオファーはこず、このままパスポートの有効期限が切れるか・ヒュージャックマンが俺以外の誰かと再婚するか・俺が死ぬかの3択が脳内でせめぎ合っている状態だった。
パスポートも予期せぬ機会到来に心なしか輝いて見える。

実に15年ぶりの海外旅行(といっても実家に帰省するより安くて早い)。渡韓までの数週間は、スマホを現地対応できるようにしたり、地下鉄に乗るために必要なワオパス(韓国版パスモみたいなやつ)のアプリ導入や韓国に特化した地図・翻訳アプリの入手、施術が終わって引き締まった顔はどんなもんやろうか…と妄想に妄想を重ねることに余念がなかった。

3月5日火曜日、「明日は通院のため休みます(※あながち嘘ではない)」と上司に欠勤報告をしたら、退勤前にもかかわらず心はもう韓国へ飛んでいた。
3月6日水曜日、10時の便なので9時に到着すれば余裕のチェックインではあるが、夜通しヒュージャックマンが寝かせてくれなかったが如く(※あくまで個人の願望による比喩です)興奮と緊張で過ごした前夜だったので、その勢いのまま6時前には起床し、7時30分にはみなぎる下半身を携え羽田に到着していた。その時点で2時間の余裕が、確かに存在していた。

9時40分過ぎ、保安検査を終えた俺が免税店を冷やかしていると頭上でアナウンスが響く。

「大韓航空○○便で金浦空港へご出発予定のやん様~、至急○○番ゲートへお越しください、当機は間もなく….」

ええ?!呼ばれた?!今、俺、呼ばれてる?!

「繰り返します、大韓航空○○便で金浦空港へご出発予定のやん様~」

名前を呼ばれたことは理解できたのに、ゲートの場所が全く分からない。
なんせ日帰り旅行なので予定は圧縮袋よりもタイトであり、到着時刻に合わせて皮膚科も予約してあるし、皮膚科の終わる時刻に合わせて帰りの飛行機の便も決めた。ここで乗り遅れたら水泡に帰す!俺の初韓国が!念願のパスポート使用チャンスが!アラフォーにもなって!飛行機の1本すらまともに乗れないなんて!詰んだっ…………………!!!!!

とにかく走った。慌てて走った。どこに行けばいいのかも分からないまま、フォレストガンプ顔負けの走りを見せた。俺という人間は窮地に追い込まれるとじっとしていられなくなる。ついでに思考力もゼロになる。
向こうからインカムを付けた空港スタッフさんが走ってくる。

空港スタッフ「やんさん?!ああ!よかった!大韓航空○○便搭乗予定の、やんさんですか?!」

やん「そうです、わたしがへんなおじさんやんさんです!」

図らずも変態的な自己紹介になってしまったが、彼女に声をかけられたとき、地上の天使とはまさに彼女の事だ、俺が死ぬときは全財産あげよう!絶対あげよう!と天に誓った。

ス「いいですか、本当に時間がありません、走りながらパスポートと搭乗券を出しておいてください、とにかく今できる、一番早い足で、走ってください!」

一生分の全力疾走をした。
航空券を無駄にしないために、迎えに来てくれた天使のために、時間に余裕をもって搭乗し、たった一人ののろまな俺を待ってくれている皆さんのために、何より、今日まで準備を頑張った、俺のために!

ス「見えました!あそこでパスポートと搭乗券を出して!」

ズェーッズェーッズェーッ(呼吸困難)

ゲートのCAさん「アニョハセヨ~」

パスポートと搭乗券を出す。

ゲートのCAさん「間ニ合イマシタ~ヨカッタデス~」

ズェーッズェーッズェーッ(呼吸困難)

機内に走る。

や「ズェーッズェーッズェーッ、すみません!遅くなり…ましたっ!本当にすみません!ズェーッズェーッズェーッ」

機内のCAさん「ダイジョウブデス、ユックリ~ユックリ~!」

ようやく自分の席を発見し腰をおろすも、今度は咳が止まらない。

ちょ、俺の身体どないなってる?!心肺機能衰えすぎやんか!!泣!!!

隣の親子が不安げにこちらを伺うのを肌で感じる(※体が動かせないため肌が唯一の探知機)。待たせた挙句、気持ち悪い呼吸困難さらしてほんまにすいません!俺なんて努力もせずに金でエイジング解決しようとしているただの金満です!(嘘言った)
そこに角材か六角レンチがあるなら殴ってほしかった。むろん機内にそのような鈍器はあるはずもないので、心の中でひたすら額を地面に擦り付けて土下座した。
ズェーッズェーッズェーッ、ゲーッフゲフゲフゲフ。なおも呼吸は乱れ、咳は止まることを知らない。これまで自分の心肺機能になど微塵も思いを馳せたことなどなかった。たった数百メートルの疾走でこんなにも心身に支障をきたすなんて!やっぱり老化舐めてた!STOP老化!ダメ、ゼッタイ!

落ち着こうと思って映画「バービー」を見るも、
全然落ち着かせる気のないセリフに楽しくなる心
令和は世界中がパイパン・スタンダードだ
ハラスメントとは
性器が揃っていることを申告する時代、令和

総じて翻訳が素晴らしく(内容については割愛)、限りなく思考ゼロで見られるよい映画だった。

上空で飛行機が安定したころ、CAさんが機内食を配ってくれる。腹にまるで余裕がないので断ろうと思いながら、そういえばCAさんは皆日本語がカタコトだったことを思い出す。よく考えればこの飛行機は韓国に行く便だ。韓国語は通用しても日本語はCAさんの努力で辛うじて通じるレベルなのだ。むしろ先ほどは日本語で話してくれてありがとう、カムサハムニダとにっこりマッコリでも差し出すべきだったのだ。

ケンチャナ、カムサハムニダ、サランヘヨしか語彙がない!パボすぎる!日本に来る外国人が当たり前に英語を話す場面に遭遇し、日本に来るなら少しは日本語勉強してこいや!とほざいていた自分を殴りたい。嗚呼そうだ、ここに鈍器はないんだった。

よし、じゃあせめて英語を話そう。ブロークンイングリッシュでいいから伝えるんだ。

や「ノーセンキュー、アイハブアンアラジー(俺はアレルギーがあります)」

CA「Oh…OK!」

“お腹がいっぱい”という英語が分からなかったため、とっさに嘘をつく形となってしまい恐縮だが、とにかく通じた。

や「ワラ、プリィズ(お水ください)」

CA「…?Ah…Orange juice?」

いや、ちゃうやろ!ワラやん?ウォーターやん?通じん?俺の発音があかん?水ってワラやなかった?もしかして“Rの発音悪すぎて分からないんですけどワラ~”みたいなスタンス?

や「あ、ウォーターです、ウォーター!」

CA「Umm…Cola?」

NOーーーーーッ!!!!!

俺は席を立ち、ワゴンを見回すと透明な液体の入っている容器を指差し、「ディス!」と叫んだ。欲しいものがあるなら、言語にこだわらず全身を使って伝えようとすることが肝要だと学んだ瞬間だ。

突如身に覚えのないSMSが届き、慌てて電源を切る。
海外使用プランの設定を到着時刻に合わせていたことを思い出す。
ようやく海外に来た実感が湧いた。

映画も満喫し、水で喉も潤せたところで早くも韓国へ到着。もうここは日本ではないのだ、I am 異邦人~!
現在13時、メインの美容皮膚科は15時予約。余裕だ。
ささっと入国審査終わらせてワオパスを作って地下鉄に乗ろう!

うそうそうそうそ、ディズニーやん。
ここはスペースマウンテンか?
いや、韓国だ

15年前に行った香港でどのくらい時間を費やしたかは記憶にないので比較検討などできないけれども、目の前の韓国への入国審査には長蛇の列ができていた。

いや待ってこれ何時間待ち?!皮膚科の時間に間に合わんかったら何のために渡韓したか分からんやんどないしよう!!!

じりじりと進む列。貧乏ゆすりが大富豪ゆすりみたいになっても見えてこない審査口に毛穴から噴出する脂汗。

まず美容皮膚科に連絡。幸いなことに日本語が話せるスタッフ常駐の皮膚科のため、LINEのトークのみではあるものの(ほんとは今すぐに電話したい)一報を入れる。入国審査にかなり時間がかかっているので、どうにか時間をずらせないか、このために韓国に来たので施術を受けられないとキツいし辛いし悲しいし厳しい、お願い、お願い神様お願い、スタッフさんお願いだよ!!!欲しいものは全身で、全力で伝えるんだとさっきも学んだ。速攻で活かされる教訓。やはり現場でしか成長できないこともある。

時に体を揺すり、頭を抱え、歯を震わせながら2時間、ようやく順番が回ってきた。皮膚科は1時間なら時間をずらせるがそれ以上は無理だと断られたので、是が非でも16時には江南に到着せねば。
飛行機で配られた出入国カードを審査官に渡す。

審査官「○ヹ×△☆♭●♯⒥▲★※?(韓国語)」

無理!!!無理ゲーだわこれ!!!

や「イ、イングリッシュ、プリーズ?」

誠に申し訳ないし、韓国に来ておいて英語を要求する図々しさなどワンハンドレッドも承知で申し出る。とにかく、皮膚科に、間に合いたい!

審「OK,Fill △☆♭ the ▲★※ here」

や「Ah…Oh…あん?

意図せずヤンキー返しをしてしまう。あん?と言いたいのは審査官の方だろう。本当にパボでごめん、スチューピッドでごめんよ!でも分からん、その英語も分からんかったのだよ!

審「キョウ トマル ホテル カイテ ココ」

や「号泣ゥ~!!!!!!!!!

多分、口で“号泣”と言っていたと思う。俺みたいに母語しか話せないパボでスチューピッドな日本人が他にもいるからなのか、単に審査官が優秀なのかは知らないけれど、とにかく日本語で対応してくれることに心底安堵した。

や「夜に帰ります。ホテルには泊まりません」

審「エエ?! キョウ カエル? ビジネスゥ…?」

審査官が少々訝し気にこちらを伺ってきたので、とにかく、皮膚科に、間に合いたい!一心で、渾身の「イエス!」をかましてゲートをくぐり抜けた。

もうワオパスを作る時間はない。さっき調べたら地下鉄に乗るとだいたい1時間はかかると書いていた。仮にカード発行が秒で終わったとしても、地下鉄で迷わない自信が100億パーセントない。
実は今回、ワオパスを日本円で発行すると、お釣りをその場でウォンに換金できると知っていたので1円もウォンに換金してこなかった。とことん舐めた観光客だ。術後の顔に思いを馳せる前に、いくらかでも換金してくればよかった。
迫る時間、16時に江南、迷う時間なし、選択肢は一つ。

全部VISAカーーーーーーード!!!!!

余談だが俺は26歳から一切のクレカ類を所持していない。躁鬱を患っていた頃ショッピング依存症になって散財し、借金を抱えすぎて首が回らなくなった経緯から怖くて持つのをやめたのだ。
今回13年ぶりに仕方なく作ったクレカに、ものの見事に救われた。
VISA万歳!クレカ万歳!

前日の夜、韓国がカードスキミング大国と知り、
慌てて知恵袋に書いてあった即席スキミング対策を取り入れて
おにぎりみたいなアルミホイルVISAが爆誕した

タクシー乗り場へと走る。暑い。脇から汗が流れる。渡韓前に得た情報では、韓国は日本よりかなり寒いから心して臨むようアラートしていたのにどうしたことか、ゴリゴリの小春日和だ。とことん情弱な自分に嫌気が差す。

翻訳アプリに美容皮膚科の住所と、“ここに連れて行ってください!!お願いします急いでいます!!”と打ち込んで準備、目の前の車両にむかって威勢よく手を上げた。
当たり前だが後ろのドアは自動で開かないので自力で開け、運転手さんに翻訳画面を渡し、「ビビビビザカード、オーケー?!」とビシャビシャになった右手でOKマークを作って見せる。運転手さんは英語も日本語も通じなかったけれど、俺の熱意と大量の汗から“とにかくこいつは急いでここに行きたいんだな…”ということだけは伝わったようで、「ケンチャナ!」と笑って車を発進させてくれた。VISA万歳!クレカ万歳!

亡くなった祖父に背中がそっくりで
ひっそりと胸を熱くした車内
韓国でも肩身の狭そうなヤニ吸う人々
たぶん今しか時間ない!
と焦って撮影した韓国っぽい看板

15時55分、皮膚科の前に到着。高速を使って40分ほどの乗車で3万ウォン(約3,400円)、安い!ありったけのカムサハムニダと日本が誇る最高敬意度のお辞儀を5回ほど見せつけて3万ウォンタクシーの運転手さんとさよならをした。VISA万歳!クレカ万歳!

いざクリニック突入。早速スタッフさんに案内され、室長(※べらぼうに美しい)の問診が始まった。当たり前なことに、室長は韓国語しか話さないので、だいたいのことは日本語スタッフさんが通訳し、本日の施術を決めていく。

や「リフトアップ施術するためだけに渡韓したので糸リフトは絶対したいです。あとリジュランもしたいです」

室長「○ヹ×△☆♭●♯⒥▲★※(韓国語)」

日本語スタッフ「やんさんは頬に肉が足りないので糸リフトはやらないほうがいいと室長は言っています。リジュランはできます」

や「でもたるみが気になるんです!口の横が明らかにブルドックになってるし、この間写真を撮ったときも顔がパンパンでビックリして、細川たかしにしか見えなくて、あ、ここ伝わらなければマ・ドンソクでお願いします、で、いつの間にこんなに肉ついた?!もしや演歌もうまくなった?!って友人からもイジられるくらいだったんですよ!これでも足りないって言うんですか!!!どれだけ必要なんですか肉は!!!」

さすがにモンペ(※モンスターペイシェント)が過ぎる言動だったと今なら思えるが、その時は、たったひとつの目的のためにわざわざ韓国まで来たのにその目的がなされないまま帰国なんてまるで無意味!と内心焦りしかなかった。

怒涛の口撃を日本語スタッフさんが訳すと、室長は俺の焦りを鎮静するようにゆっくり、丁寧に喋った。

室「○ヹ、×△、☆♭●、♯⒥▲、★※(韓国語)」

日「糸リフトという施術は、ほっぺたから溶ける糸を入れて物理的に顔の肉を上に持ち上げる施術です、それはご存じですよね?」

や「無論だ」

日「では持ち上げた肉はどこに行くか分かりますか?」

や「そっ…それは先生がええ感じに…処理してくれるんとちゃいますかね」

日「ちゃいますね、こめかみに溜まります。物理的に肉を上げても肉自体は減りませんし、当然糸を入れた箇所がボコついたり、引きつったりもします。」

や「いやぁぁぁあ…!!!嘘やと言うて、室長、嘘やと言うてください!!!そこは夢見さしてくれんと!!!」

室「○ヹ、×△、☆♭●、♯⒥▲、★※(韓国語)」

日「そんな夢はすぐ覚めます、嘘ではありません、と室長は申しております。もちろん糸リフトも悪い施術ではないのですが、顔の形や肉の付き方などが個々人で違うので、そこを見極めないとお客様ご自身が辛い思いをする、と」

浅はかだった。食べ過ぎて胃が痛いだけなのに、今すぐ開腹手術して中身を取り出せ!と無茶を言っているのと同じだ。仮にも相手は美容のプロで、そのプロが止めているのにゴネるなんてチンチャ恥ずかしい言動だった。

室「○ヹ、×△、☆♭●、♯⒥▲、★※(韓国語)」

日「室長が見るには、そこまでたるみはないが圧倒的にハリが足りないと。」

や「あっ…とう…てき…だと?!」

またモンペ化しそうになったが真摯に受け止めた。事実そうなのだから。

室「○ヹ、×△、☆♭●、♯⒥▲、★※(韓国語)」

日「やんさんが気にされているたるみは痩せれば気にならなくなりますよ」

知ってたーーーーーー!!!!!!

や「まさか室長に言われるとは思いませんでした。美容皮膚科って、失礼ですけど、とにかくお金取れればいいんだろうなって印象だったんで、そんな当たり前のこと言わないって思ってました」

日本語スタッフさんが通訳すると、室長はケラケラと笑った。

室「○ヹ、×△、☆♭●、♯⒥▲、★※(韓国語)」

日「わざわざ韓国まで来てくれた人に嘘はつきたくないし、帰国後に後悔してほしくないから、と」

や「号泣ゥ~!!!!!!!!!」

結局肌にハリを与える注射、リジュラン(細胞活性化注射)、その他諸々(あれよあれよと増えていった施術)を合わせて計170万ウォン(約19万円、日本で全部行うと2倍以上の値段はする)、内容は8割注射、2割美容機械での施術だ。つまりはほぼ注射、これ絶対痛いやつう~、である。

この日2度目のアルミホイルVISAを揚々と財布から抜き出し、丁寧に剥いてからスタッフさんに渡す。VISA万歳!クレ(以下略)

まず麻酔クリームを顔と首全体に塗って15分待機。少しずつ輪郭がぼやけて口の動きも緩慢になってきたところで施術担当の医師登場。ベッドに横になり、「痛かったら左手上げてくださいね」と言い残して日本語スタッフさんは去って行った。

数えてはいない。いや、途中で放棄した。数えても無駄だったからだ。本数は分からないが、とにかく顔と首に注射を打って打って打ちまくった。こう書くとジャンキーのようで遺憾だけれど、事実恐ろしい回数の注射を打ったのだ。俺は体にほどよくtatooがあるので刺す痛みには慣れているつもりだったのに、余裕で泣いた。口で号泣ゥ~とか言っていた数分前がネタとしか思えない程に、不可抗力の涙がどんどこ溢れて止まらなかった。
麻酔の範囲外にもどんどんと注射を打たれ、そこ無防備エリアやん!約束と違うやん!と左手を挙げて制止したかったが、気力も体力も語彙力もマイナスに振り切っていたので、ただ静かに目を閉じて、(明けない夜はない…明けない夜はない…明けない、夜は、ないんだ!)とマクベスしながら耐え抜いた。

30分後、ようやく19万円分の施術が終了。
塗り薬と飲み薬をもらってトイレに寄ったら、もう空港へ向かう時間が迫っていた。
事前情報で頭に入れてはいたが、韓国のトイレでは使用したトイレットペーパーは流さず、便器の横にあるごみ箱に捨てる。静かなる潔癖症ドン(※自称)な俺にとっては受け入れがたいシステムだ。
1分で済ませてサッとその場を後にする。

アザになりやすい体質らしく、
刺した数だけアザができて顔面妖怪状態で帰国

通りに出てタクシーを探す。帰りの飛行機は2時間半後だ。余裕だ。
手を上げると1台のタクシーが停まってくれた。
これが最後の3万ウォンタクシー、ミッションはかぎりなくポッシブルに近づいている!
ドアを開けて、行きと同じ内容の翻訳画面を運転手さんに見せる。

運「○ヹ×△☆♭●♯⒥▲★※??(韓国語)」

や「?!?!」

運「○ヹ×△☆♭●♯⒥▲★※??(韓国語)」

なおも運転手さんは何かを伝えようとしてくる。翻訳機に話かけてその訳された文章で会話を試みるも、実は全然正確じゃなかった(と帰国後に知る)アプリのお陰で話が嚙み合わないまま過ぎる時間。

しきりにキンポコ、キンポコを繰り返す運転手さん。多分金浦きんぽ空港を指しているなと理解はできるものの、何を尋ねているのかが全く分からない。時間があれば、“キンポコですか?あ~チンポコの皮ならやっぱり、ムケてる方がいいかもですね~”と世話ばなしの一つでもしたかもしれない。さりとて今、俺は絶望的に急いでいる。金浦空港から飛行機に乗りたいだけなのに!どうしよう!間に合わなかったら明日の仕事イズデッド、最悪仕事はいいとして(よくはないが)、空港で過ごす夜イズデッドだよ!!!

二人は頑張った、本当に頑張った。かねてより“気合い”とか“頑張る”みたいな精神論的な物言いは好きではなかったけれど、この時の俺と運転手さんは言葉の壁を乗り越えるべく“気合いを入れて頑張った”。

幾度か応酬を重ね、運転手さんの質問に“ナリタ”・“ハネダ”と耳慣れた単語が聞き取れた気がして(韓国語の中にハマると日本語であっても分からない)、「ハネダ!!!ハネダに帰りたい!!!」と絶叫したらようやく車が発進した。

押し問答していた時間、20分。残り時間は2時間弱。少しタイトになってきた。行きは40分で着いたし、まぁギリギリ間に合うでしょう!

20分ほど走ったあたりで何かが違うと感じる。あれ?もしかして変な場所に案内されてる?いやそれはない、行きに見た景色だ。でもあと20分で着く雰囲気じゃない気がする。じゃあ何が変なんだ…何が…

や「!!!」

その時、塀の向こうの車道とこちらの速度が違うことに気が付いたのである。

もしかして運転手さん…高速乗れないよって言いたかったの…?!

後の祭りである。ほら見てよ、渋滞に捕まった。赤い、ランプが赤いよ。やめてよ、もういいよ、韓国語学んでこなかった俺が悪いよ、分かったよ。

運「○ヹ×△☆♭●♯⒥▲★※??(韓国語)」

や「急いでぇぇぇ!!!!!!!!(もう日本語)

夕焼けは日本と変わらず美しかった。余裕さえあればその美しさを称え、あまつさえ運転手さんにチップをはずんだりもしただろう。

何事も・余裕がないと・楽しめぬ (やん・心の俳句)

そういえば3万ウォンタクシーで思い出すことがある。

20代後半の頃、獣医の彼と知り合った。まだ付き合ってもいない段階で夜中に彼の家(※しかも実家)に行くという体たらくを見せつけていた俺は、部屋に入って早々、酒を飲もうと誘われるままに痛飲し、ついでに雰囲気にも飲まれてデュエットしてしまった。(呆れるほどチョロい)
いい演奏だったかは定かではないが、楽器を片付けた途端、彼が放った言葉に戦慄が走った。

彼「あのさ…もう帰ってくんない?」

あん?である。あの時ヤンキー返しが出来ていたらもっとマシな未来が…と3年に1度くらいは思い出す。動物のお医者さんはみんな優しいと勝手に思っていた俺は、あの時からパボでスチューピッドだったんだね。

理由も分からず家を放り出された夜、外は雨が降っていて、もうとっくに終電もなくなっていた。この鬼畜が!(獣医だけに)。同じ沿線ではあるものの、ここから自宅までは8駅、気力的にも歩いて帰れない。

自分がヤリ捨てられたことも、足元が悪いことにも悲しくなって、それでいて帰るしか選択肢がないのだという乏しさが益々気持ちを凹ませた。
大通りに出てタクシーを拾う。

運転手さん「どこまで行きましょう?」

やん「すみません、本当はN駅まで帰りたいのですが…」

そこで涙が堪えきれなくなってしまった。
運転手さんは何かを察したのか、ゆっくりと扉を閉めて車を出した。

や「ごめんなさい、いま、お財布に、3500円くらいしかなくて、これで、帰れるところまで、お願いします」

運「分かりました、そうですね、ここからだと、半分くらいは行けるかな」

や「はい、行けるところまでで、いいので、すみません、お願いします」

運転手さんは前を見つつも、しっかりと背中で俺の空気を感じてくれていて、赤信号で停車するたびに振り返り、“そこのティッシュ使ってね”、“飴もあるから自由に取ってね”と声をかけることを忘れなかった。

深夜の割増料金で3500円なんてあっという間だ。
3駅ほど進んだかな、という場所で所持金に達してしまう。

運「お客さん、メーターはここで止めるからね、ここからは少し体を低くして、じっとしていてね、かくれんぼね笑」

止まったばかりの涙が、今度は違う温かさで流れていく。運転手さんはそんな俺をミラー越しに確認し、小さく微笑んでいた。

本当は体を低くしなくても良かったのかもしれないし、そうする必要があったとしてもドラレコで確認されたら運転手さんが責任を問われるのは明白なことだった。

N駅で別れる際、“色んな日がありますね、でも、全部大丈夫になりますから”とビニール傘まで差しだしてくれた彼の事を、鬼畜にされた忌まわしき所業なんか吹き飛ぶほど鮮やかに思い出すし、おそらく死ぬまで忘れはしない。

窓の外が暗くなり、もう考えても仕方あるまい…とハイパーブッダモードに突入していたら、飛行機の出発まで残り40分、のところで空港に到着した。

運「○ヹ×△☆♭●♯⒥▲★※??(韓国語)」

や「ごめん全然何言ってるか分からんけど、とにかくありがとう!!!カムサハムニダ!カムサハムニダよ~!」

運「○ヹ×△☆♭●♯⒥▲★※!!(韓国語)」

最後まで会話は成り立たなかったけれど、想いは通じたはずだ。ここまで来たらあとは乗るだけ、保安検査にまっしぐら。

よ~し、やっと全部終わった~!あとは飛行機乗るだけ~イェーイ!
お、待って、搭乗口分からんぞ、あれ?これどこ?ここどこ?

アナウンス「やん ☆♭●♯  scheduled to depart ヹ×△% Haneda Airport on Korean Air Flight ☆♭●♯, please come to Gate ヹ×△%♯immediately ☆♭●♯ flight ヹ×△%departing….やん ☆♭●♯ scheduled to depart ….」

いや多分これ俺やんーーーー!!!また呼ばれてるーーーー!!!

キョロついていると、朝見たそのままの光景が目の前で繰り返された。インカムをつけて走って来る空港スタッフさん(天使)、一生分の全力疾走の要求、こんな時に限って遠いゲート、動機、息切れ、呼吸困難、その上顔面は妖怪(※行きよりパワーアップしました)、手を振るゲートのCAさん、搭乗券とパスポートを見せる俺、再びの疾走、機内のCAさんおよび全乗客に土下座(心で)、ようやくの着席。

帰りの機内では同じ列に誰も座っていなかったので、呼吸困難&咳爆弾な俺を不安げに覗く隣人の様子を見ずに済んだ。そういえば朝カフェに寄ったきり何も食べてない…と機内食が運ばれてきてようやく気が付いた。カプレーゼとトマトカッペリーニ、パンにバター、オレンジにりんごというメニューで、イタリアンやないかい!と多少突っ込みたくはあったが、本当にお腹が空いていて、口に運ぶと心まで落ち着いてきて、こんなに食事が有難かったことってある?!とビビるくらい爆食した。

羽田空港に降り立った時は、人生で初めて「祖国って最高やん!」と感極まったし、スマホがなくても乗り物に乗って自宅に帰ったり、どんなアクシデントが起きても何とかなる、だって言葉が通じるんだもの!という絶対的な安心感がまるっと俺をくるんで迎えてくれた。

顔面妖怪から3週間、19万かけた肌はどうなったのかというと、“気持ちハリが出たかな”である。たるみに関しては言わずもがな、もっと“お気持ち程度”だ。それよりも俺は、一瞬でも海外の地に降り立ち、言葉の通じない中で奮闘した経験に、19万以上のバリューを感じている。

天使という名の空港スタッフさん、3万ウォンタクシーの運転手さん、室長、日本語スタッフさん、容赦のない医師、CAさん達、そして何より、VISAカード!!!

案件みたいになってしまったが、これはれっきとした海外旅行記なので、読んでくれているそこの奇特なあなた、穿った見方はせずどんどんVISAカードを使っていってほしい。

年俸わずか数百万のババァースはドジャースでは活躍できないけれど、行動して経験した全てのことを合わせると、きっと年俸100億を超える価値を生み出せる、俺はそう、感じている。

みんなーーーーカムサハムニダーーーー!!!!!

ほら、やればできる(ドヤァ)


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