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さよならはあっけなく

 業者くんが後任の人を連れてきて最後のあいさつに来ていた。私は業者くんが来た時間にちょうど外出する用事があったから、会社の駐車場ですれ違ったときにあいさつするしかできなかった。

「本当にお世話になりました。」
「こちらこそ、本当にありがとね!」

 もうこの素敵なお顔を見るのも最後か、と思って目に焼き付けた。

 背が高くてすらっとした体、色白できめ細かな肌、涼しげな目元、長くてきれいな指先。

 優しくて、仕事はきっちりしっかり、それ以上に思いやりがあってお客さんの信頼も厚かった。

 すごく、素敵な人だった。

 じゃあね、と手をふってあっけなく終わった。

 私がもっと若くて、痩せてて、自分に自身があったら、最後に飲みいこうって、誘ってたかな。

 好きだったな。本当に素敵な人だった。

 また1人、私の推しがいなくなってしまった。

 最近、後輩くんの顔だったり、声を思い出そうとしても思い出せなくなってきてて、こうやって時間がたてば気持ちも離れるし、あんなに好きだった顔や声や姿も忘れてしまうんだな、と思った。だから、きっと業者くんのことも忘れてしまうんだろうな。

 今日は近所の桜が少し咲いていて、二年前に行けなかった花見をちょっと思い出してしんみりしちゃった。

 また、いいなーって思える人が現れたらいいな。ときどき胸がときめくような、心が温かくなるような、そんな気持ちにまたなれるかな。

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