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vol.16 レアジョブ

今回は株式会社レアジョブ(以下「対象企業」)を取り上げます。

有価証券報告書の「事業の内容」より筆者作成

対象企業の概要

対象企業は、「Chances for everyone, everywhere.」をグループビジョンに掲げ、国境や言語の壁を越えて、世界中の人々がそれぞれの能力を活かし活躍できる世の中の創造を目指しています。現在、英語関連事業を主たる事業として展開し、英語学習をはじめとした人々の学びを支援しています。

主なサービスである「レアジョブ英会話」は、フィリピン在住のフィリピン人講師とユーザーとのマッチングを行い、独自のレッスン受講システム「レッスンルーム」を利用してユーザー1名に対して講師1名の英会話レッスンを提供しています。

対象企業の顧客層は、個人ユーザーを中心に、法人ユーザーや教育機関ユーザーで構成されています。個人ユーザー向けサービスは、英語力の向上を目指すすべての年齢層を対象としており、ビジネスパーソンや資格取得を目指す学生など、シリアスな学習者向けの教材も提供しています。法人ユーザー向けには、企業特有のニーズに対応した英語研修サービスやグローバルリーダー育成研修サービスを提供しており、教育機関ユーザー向けには、学校教育における英語の4技能 (聞く・話 す・読む・書く) を重視した英会話サービスを提供しています。

これらのサービスを通じて、対象企業は世界中の人々がそれぞれの能力を活かし、活躍できる世の中を創造することを目指しています。

業績推移

対象企業の業績推移を示します。

バフェット・コードのWebサイトより

英語関連市場規模は約3千億円 (出所: 対象会社の「2023年3月期 決算補足説明資料」)とされており、過去3年間は概ね横ばいで推移しています。一方で、この市場においてオンライン英会話の占める割合が年々増加してきており、この割合は今後も増加していくものと想定されます (直近では約10%)。

なお、対象企業はAIやデータを活用しながら世界中の人々の学びをサポートする「AIアセスメントカンパニー」を目指しており、その中で英語以外の分野への投資も加速すべく2021年12月1日に株式会社資格スクエア (以下「資格スクエア」: 難関資格の取得を目指 すユーザーに対し、独自のメソッドに基づく最短合格のための効果的な勉強法をオンラインで提供) を買収し、のれんやコンテンツ資産の償却負担が増しています。

上記の他、会社は売上高販管費比率を以下の三つに分け、G&Aの売上高に対する割合を一定レベルにおさえつつ、R&DやS&Mに積極的な投資を継続しています。

Research and Development ("R&D"): 研究開発に関わるエンジニアの人件費および、共通費を含めた費用。無形資産への振替を考慮しない数値

Sales and Marketing ("S&M"): 販売促進や法人営業人員の人件費および、共通費を含めた費用

General and Administrative ("G&A"): コーポレート部門の人件費および、共通費を含めた費用

資格スクエアの買収、R&D及びS&Mへの投資の結果として2022年3月期以降収益率が悪化しているものと思われます。

ステップ2: ビジネスモデルの理解

対象企業の有価証券報告書をビジネスモデルキャンバスにあてはめてみます。

(1) キーパートナー
フィリピン在住の英語講師

(2) 主要活動
キーパートナー数の拡大や質の確保
プラットフォームやコンテンツの開発
新領域 (AIアセスメントカンパニー) への拡大

(3) 主なリソース
プラットフォーム (レッスンルーム)
コンテンツ (PROGOS、グローバルスキルPowerトレーニング、および資格スクエア等)

(4) 価値提案
英語研修サービス (オンライン英会話等) の提供
グローバルリーダー育成研修サービス
難関資格オンライン学習サービス

(5) 顧客との関係
オンライン

(6) 顧客セグメント
個人ユーザー
法人ユーザー
教育機関ユーザー

(7) チャネル
オンラインマーケティング

(8) コスト構造
講師への報酬
プラットフォームやコンテンツの維持・開発費
マーケティング費用
新領域サービス開発に関するコスト

(9) 収益の流れ
ユーザーからのレッスン料

ステップ3: ストーリーの再構築

ビジネスモデルを理解した後、有価証券報告書の情報を以下のように再構築してみました。

(1) 経営理念
「Chances for everyone, everywhere.」 をグループビジョンに掲げ、世界中の人々が国境や言語の壁を越えて、それぞれの能力を活かし、 活躍できる世の中の創造を目指す

(2) 戦略
大人向けと子供向けの学習サービスの両輪を軸として、K12(未就学児から高校卒業まで の教育期間)領域へ注力
難関資格の取得を目指すオンライン学習サービスをはじめとするその他の学び領域の拡大
プラットフォームのデータとAI技術を組み合わせることで、人材育成や人材マッチングサービスを変革 

(3) ビジネスリスク
オンライン英会話事業に進出する他社との競合リスク
フィリピンのカントリーリスクや為替リスク
セキュリティリスク
新領域への拡大に伴う投資リスク

(4) KPI
無形固定資産
広告宣伝費
その他新領域への投資
顧客アカウント数
講師や従業員数

(5) ガバナンス
A 監査の状況 (監査等委員会監査の状況):
取締役会に出席すると共に、原則として、毎月1回の監査等委員会を開催

B 監査上の主要な検討事項:
のれんの評価 (連結)
関係会社株式の評価 (単体)

対象企業は「Chances for everyone, everywhere.」 というグループビジョンの下、AIアセスメントカンパニーを目指すべく新領域の拡大へ投資を行っています。この投資の一環として資格スクエアを買収を実施し、結果としてのれんを2022年3月期に8億円計上しました。会計監査人が当該のれんと監査上の主要な検討事項とするのは至極自然の流れかと思われます

ステップ4: ROEの分析

ROEとその構成要素は以下のように推移しています。

バフェット・コードのWebサイトより

ここでKPIの推移を見てみましょう。

英会話以外の新領域のサービスを取り込むべく資格スクエアを買収したことにより、無形固定資産にのれんとコンテンツ資産計上され、その後償却とともに減少していることが分かります。2022年3月期の有価証券報告書に以下の記載があり、のれんは主にシナジーに関するものと思われます。

創業以来培ってきたオンラインでの英語学習ノウハウと、資格スクエア事業が保有する資格取得の ための学習最適化のノウハウを組み合わせることにより、英語関連資格の取得を目的とした新サービスの開発でシナジーが創出できる

対象企業の2022年3月期有価証券報告書

また、2023年3月期に前払金が1,165百万円計上されておりますが、注記やその後の四半期報告書をみると、これも事業再編 (株式会社ボーダーリンクと株式会社エンビジョン)に関するものになります。決算補足説明資料を読む限り、K12(未就学児から高校卒業まで の教育期間)領域強化に関する投資と読み取れます。

ステップ5: PBRの分析

最後にPBRとなります。

バフェット・コードのWebサイトより

8%を超えるROEに加え、今後も拡大すると見込まれる英語関連市場に占めるオンライン英会話比率が評価されると同時に、リスキルのニーズをとらえた戦略や各種投資 (i.e. 資格やその先にあるAIアセスメントカンパニー) が評価された結果として対象企業のPBRも高い水準で推移しているものと思われます。

まとめ

対象企業の有価証券報告書を一緒に見てみましたが、如何でしたでしょうか? 

先日のリンク先の報道も出ており日本のガラパゴス化が懸念されております。過去は日本の国際競争力も高く、経済規模もそれなりにあったことから、英語は一部の人にお願いするといった傾向もあったかと思いますが、今後は生きてく為の必須のツールでしょう。インターネットの多くは英語の情報ですし、なんといっても人間はコミュニケーションを通じ喜びを感じるようできている動物かと思うのです。

今回も、会計数値を単純に見ただけでは捉えられない対象企業の姿を、有価証券報告書をビジネスモデルキャンバスにあてはめ、ストーリーを再構築することによって理解を深めることができる、という点をお伝えすることができれば幸いです。

最後に、私のnoteにおける目的は、財務諸表の読み方の一例を皆様と共有することであり、特定の銘柄を推奨する立場ではない点、ご理解頂ければと思います。

次回予告

次回は銘柄7353 KIYOラーニングの有価証券報告書を取り上げてみたいと思います。

おわりに

この記事が少しでもみなさまの参考になれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。

なお、投稿内容は私個人の見解に基づくものであり、過去所属していた組織とは関係ございません。

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