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vol.18 KIYOラーニング

今回はKIYOラーニング株式会社(以下「対象企業」)を取り上げます。


対象企業の概要

対象企業は、個人および企業向けの学習を最適化するクラウドサービスを提供しています。主なサービスには、個人向けのオンライン資格講座「スタディング」と、法人向けの社員教育クラウドサービス「エアコース」があります。

同社の強みは、10年以上にわたる「ラーニング・テクノロジー」の開発にあります。この技術は、学習システム開発力、学習コンテンツ開発力、WEB集客・販売力、ローコストオペレーション、AI・データ活用力の5つの組織能力を含んでいます。これらの能力を活用し、個人向け「スタディング」事業と法人向け「エアコース」事業を通じて、競争優位性を強化しています。

スタディングは、スマートフォンやタブレット、PCで受講可能なオンライン資格講座で、ビジネスパーソンに人気の資格を中心に展開しています。効率的な学習システムとわかりやすいコンテンツを提供し、低価格での講座提供を実現しています。

エアコースは、社員教育クラウドサービスで、各種の社員教育コースが受け放題であり、自社独自の教育コースも簡単に作成・配信できます。また、社員教育の一元管理機能も充実しており、社員教育の効率化を支援します。

対象企業は、個人向けのキャリア開発サービスや企業向けの人材育成サービスを拡充し、キャリア発展に関連した教育事業分野をリードし、事業拡大と企業価値向上を目指しています。

業績推移

対象企業の業績推移を示します。

矢野経済研究所「教育産業白書2023年版」によれば、2022年度の教育産業全体の市場規模は2兆8,499億円であり、2023年度の市場規模は2兆8,632億円と2022年度比で0.4%程度の拡大推移が予測されております。少子高齢化が進む我が国においても、生涯にわたる教育の重要性や企業向けの人材育成のニーズなど、リスキリングの需要は高く、引き続き教育産業は 堅調に推移するものとみられます。

このような環境の下、売上高の大半を占めるスタディングを中心に有料会員数を順調に伸ばしており売上は右肩上がりの成長となっています。一方でブランディング向上を目的とした積極的な広告費の投下、及び将来を見据えた優秀な人材の採用等事業基盤の強化を進めており、会計上利益率が低下 (2022年12月期は183百万円の営業損失)する結果となりました。

ステップ2: ビジネスモデルの理解

対象企業の有価証券報告書をビジネスモデルキャンバスにあてはめてみます。

(1) キーパートナー
講師
研修会社
株式会社データミックス (資本・業務提携契約先)

(2) 主要活動
オンライン資格講座の提供
社員教育クラウドサービスの提供
学習システムや学習コンテンツの開発 (新たな資格やDX等)
AIを活用した個別最適化学習サービスの開発

(3) 主なリソース
学習コンテンツ
学習システム
AIによる学習支援モデル
大量ユーザーと学習履歴データ
Web販売システム

(4) 価値提案
個人向けの資格取得支援
法人向けの社員教育サポート
効率的かつ個別最適化されたオンライン学習体験

(5) 顧客との関係
オンラインプラットフォームを通じた自動化されたサービス
学習Q&Aサービス
コミュニティ機能による受講者間の交流促進

(6) 顧客セグメント
個人 (資格取得を目指す学習者)
法人 (社員教育を求める企業)

(7) チャネル
オンラインプラットフォーム
Web広告、SEO、動画広告
テレビCMによるブランド認知度向上

(8) コスト構造
学習コンテンツ開発と維持費
学習システム開発と維持費
AI技術の開発と維持費
広告費用

(9) 収益の流れ
個人向けオンライン講座の受講料
法人向け社員教育サービスの利用料
その他の関連サービス (i.e. 動画制作サービス) からの収益

ステップ3: ストーリーの再構築

ビジネスモデルを理解した後、有価証券報告書の情報を以下のように再構築してみました。

(1) 経営理念
「学びを革新し、誰もが持っている無限の力を引き出す」というミッションのもと、人間が本来 持っている能力を最大限に引き出す支援をする

(2) 戦略
ブランド確立と集客力の強化
AI、学習システム強化による学習の個別最適化
学習コンテンツの充実
Q&Aサービス、コーチングサービスを含めたサポート力の強化
新たな収益源の確保に向け、事業提携、資本提携(出資)、M&A等

(3) ビジネスリスク
エドテック業界における他社との競争
技術革新に対応する必要性
新サービス開発や広告宣伝に伴う投資回収
サイバーセキュリティ

(4) KPI
コンテンツ資産
無形固定資産
前受金
広告宣伝費
コースを購入した際の受講料 (現金ベース売上高)
新規有料登録会員数
契約企業数
平均解約率

(5) ガバナンス
A 監査の状況 (監査等委員会監査の状況):
監査役会の職務の執行のための必要な監査方針、監査計画の策定、内部統制シス テムの整備・運用状況の確認、会計監査人の評価と再任適否の決定、会計監査人報酬等に関する同意判断、監査報告に関する事項等

B 監査上の主要な検討事項:
繰延税金資産の回収可能性

ステップ4: ROEの分析

ROEとその構成要素は以下のように推移しています。

ここでKPIの推移を見てみましょう。

なお、有価証券報告書を見ると、コンテンツ資産の内訳として以下の記載があります。

対象企業の2022年12月期有価証券報告書より

ブランド確立や学習コンテンツの充実といった戦略を受け、コンテンツ資産、無形固定資産、及び広告宣伝費への投資を加速させ、会員数、現金ベース売上高、及び前受金が伸びています。これらの結果として売上の成長へとつながっている流れがみてとれると思います。

ステップ5: PBRの分析

最後にPBRとなります。

2022年12月期は営業損失ですが、対象企業の戦略に沿った広告宣伝等の投資が会計ルール上費用化されたことに伴うものになります。

また以下のような対象企業が保有する資産 (オンバランスされていないものを含む)は当面競争優位の源泉になるでしょう。

  • 学習システム開発力

  • 学習コンテンツ開発力

  • WEB集客・販売力

  • ローコストオペレーション

  • AI・データ活用力

さらに生涯にわたる教育の重要性や企業向けの人材育成のニーズなど、リスキリングの需要は高く市場全体は底堅く推移すると予測されます。

主に上記項目が評価された結果として対象企業のPBRも高い水準で推移しているものと思われます。

まとめ

対象企業の有価証券報告書を一緒に見てみましたが、如何でしたでしょうか? 

以下のリンク先は昨年末の報道となりますが、労働市場は益々流動化し、学び直しはごく普通の事象になることでしょう。

チャールズ・ダーウィンは「最も強いものが生き残るのではない。最も変化に敏感なものが生き残る」という言葉を残しました。

私も様々なエドテックツールを上手に使い、労働市場で生き残るべく、変化を続けていきたいと思います。

今回も、会計数値を単純に見ただけでは捉えられない対象企業の姿を、有価証券報告書をビジネスモデルキャンバスにあてはめ、ストーリーを再構築することによって理解を深めることができる、という点をお伝えすることができれば幸いです。

最後に、私のnoteにおける目的は、財務諸表の読み方の一例を皆様と共有することであり、特定の銘柄を推奨する立場ではない点、ご理解頂ければと思います。

次回予告

次回は今まで見てきた内容をふりかえり、エドテック業界で取り上げた対象企業を比較してみる予定です。

おわりに

この記事が少しでもみなさまの参考になれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。

なお、投稿内容は私個人の見解に基づくものであり、過去所属していた組織とは関係ございません。

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